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ピンポールゲームを楽しめるイベントが開催中―それを支えるピンボール一筋40年の「吾妻」に聞く

 中小企業・小規模事業者のためのHANJO HANJO編集部が注目するのは、「ピンボールワンダーランド」というイベントに機材を提供しメンテナンスを行う「吾妻」という会社だ。

その他 全般
左:営業部 佐藤氏、右:ネバーランド 堀口氏
  • 左:営業部 佐藤氏、右:ネバーランド 堀口氏
  • メンテナンス中
  • ピンボールワンダーランド
  • 会場の様子
  • 近年のニューモデル
■大人は懐かしく若者には新鮮でオシャレーピンボール
 ゴールデンウィークになると、各地の施設も特別イベントやフェスティバルで盛り上がる。新宿にある老舗デパートの「高島屋」では「ピンボール ワンダーランド! Part2」というスペシャルイベントが企画されている。特設会場には18台の新旧ピンボールマシンが設置され、100円で2ゲーム遊べるとあって、カップルや家族連れなどでにぎわっている。

 このイベントは今年で2回目となるもので、じつはデパートのイベントや催し物は、集客が大きな目的であるため、手を変え品を変え、同じイベントを繰り返すことはあまりないという。もともとは「80年代ブームに関連してなにか企画はないか」(高島屋 宣伝部 新宿店販売促進室 販売促進担当次長 野村直人氏)と始まったものだ。ゴールデンウィークにふさわしく老若男女が楽しめるものとして「ピンボールマシン」が決定した。昨年は非常に好評で、愛好家だけでなく、彼女のプレー動画を撮影するカップルや親子で楽しむ人が多数訪れた。SNSでの書き込みも広がり、成功裏に終わったということで、今年も「PART 2」の開催となった。

 初日となる5月2日、来場者の出足は去年以上だといい、すでに来場者から「楽しかった」とお礼のメールまで届いている(同前 野村氏)そうだ。まさに「ヒット」企画といえるが、しかし、本稿でとりあげたいのはイベントではない。

■GWイベントを影でささえる国内屈指の老舗
 中小企業・小規模事業者のためのHANJO HANJO編集部が注目するのは、このイベントに機材を提供しメンテナンスを行う「吾妻」という会社だ。八王子にあるこの会社は創業が昭和49年(1974年)、これまでアミューズメント機器一筋でやってきた。他にもゲームセンターの両替機やアミューズメント施設の企画や運営なども行っている。40年以上ピンボールマシンの輸入・販売・メンテナンスを続けている国内唯一の会社といってよいのではないだろうか。

 愛好家が個人で輸入したり、ネット通販を行っている事業者、一般企業も輸入しようと思えばメーカーと取引は可能だ。ピンボールをビジネスとしている事業者は吾妻だけではないが、長年の専門エンジニアやスタッフがいて、主たるビジネスとして展開している企業、旧モデルのメンテナンス技術を持っており修復、補修パーツなども手掛けられる企業は、国内に多くないということだ。

■アミューズメントの花形だった70年代
 70年代の日本、ボーリングブームに代表される欧米文化が花咲いていた。ボーリング場には必ずあったピンボールは、アミューズメントマシンの花形だった。小さい子どもはフリッパーボタンに手は届くものの、盤面やボールの動きはよく見えなくて、しかし、バタくさい異国のイラストやサイケデリックな得点表示の前面パネルだけ見える。それがよけいに羨望の念を強くしたものだ。

 吾妻の創業もそんな時代で、タイトーやナムコといった大企業もピンボールマシンの市場に参入していた。しかし80年代になると、いわゆるテレビゲームブームが到来し、アミューズメント機器もデジタル化・ビデオ化が進み、リレー、ソレノイド、コイル、スイッチ、電球を使ったオールドマシンは駆逐されていった。もちろんピンボールメーカーも制御部分を機械式から電子式へと進化させ、コンピュータゲームを組み入れたり巻き返しを図った。そのかいあってか、ピンボールマシンの市場は徐々に回復していった。しかし、90年代に入ると再び危機が襲う。

■2度のショックを経験したピンボール業界
「ビデオゲームの台頭により業界も新しい機種やモデルを開発し80年代のビデオゲームショックを乗り越えつつあったのですが、だんだんとゲームが複雑になっていき一部のマニアや愛好者しかついていけないような機種が増えてきたのです。一般のお客さんが一気に減ってしまったのが90年代の落ち込みの原因のひとつでした。また、内部構造やプログラムが複雑になるとメンテナンスが大変になり、市場が落ち込む中コストが下がらないため、多くのメーカーがつぶれていきました。」(吾妻 直営店ゲームネバーランド ピンボール担当 堀口昌哉氏)

 落ち込みはビデオゲームショックよりも激しく、一時はピンボールメーカーが世界中で1社だけとなり、業界の存続さえ危ぶまれる状況に陥った。そのとき残ったのがイリノイ州にあるStem Pinball Inc.というメーカーだ。その後世界的にも80年代や70年代の回顧ブームやアナログを見直す動きもあり、現在アメリカと、さらにイギリスとオランダにも新メーカーの始動が見られる(堀口氏)。業界は2度のショックを経て、ゆっくりだが再び活気を取り戻しつつある。

■日本のピンボール市場と文化を支える吾妻
 吾妻はStem Pinball Inc.とも長年に渡る取引を続けている。それは、単にビジネスという枠でくくれない、ピンボールに対する思い入れがある。

 たとえば、吾妻は、40年にわたるアミューズメント業界での経験と実績から、中古を含む旧型マシンのメンテナンス、修理にも対応している。ピンボールの場合、制御基板の修理だけでなくコイルやスイッチ、ラバー類などの交換や補修も必要だ。このような部品まで用意してメンテナンスや修理に対応している。かすれたプレイフィールド(盤面)をエアブラシでタッチアップ補修までやってくれる。しかも、愛好家のために、個人の修理依頼も受け付けているという。

 このようなスキルとサポート体制は、機器の輸入や販売だけを行う業者との違いを際立たせている。ビジネスだけでなく、文化としてピンボールを愛し、保存・普及を考えている会社ならではだろう。

 そのメンテナンス技術をささえるのは、吾妻 営業部 佐藤順彦氏だ。子どもの頃から実家のアミューズメント機器に触れ、職人たちの作業を見てきた佐藤氏は、新旧ピンボールマシンのメンテナンスにかけては第一級の腕を持っている。その腕は前述メーカーを含む世界のピンボール業界からも評価されているほどだ。

 また、堀口氏は、Data East Pinball Inc.(現Stem Pinball Inc.)のサポート役として10年間のメーカー勤務経験があり、IFPA(International Flipper Pinball Association)日本事務局長も務めている。2005年に吾妻に誘われる形で同社に合流し、日本のピンボール文化の保護・普及に公私ともに活動しているという。

 なお、「ピンボールワンダーランド PART2」は5月5日まで新宿高島屋の特設会場で開催されている。

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【地方発ヒット商品の裏側】家族で楽しめる懐かしいゲーム、GWのイベントで大盛況――ピンボールマシンのことは吾妻に聞け

《中尾真二@HANJO HANJO》
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