人生にゲームをプラスするメディア

【レポート】“荒木飛呂彦”原作の舞台「死刑執行中脱獄進行中」極めてアナログでシュールかつ不気味に展開

『死刑執行中脱獄進行中』、荒木飛呂彦の短編、『スーパージャンプ』1995年2月号に掲載されたものである。これが舞台化、しかも荒木作品では”初”となる。

その他 舞台
 
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
  •  
高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義
連載第154回

■ 「ダンサーを使ったフィジカルな作品で上演するのが合っている」(長谷川寧)

『死刑執行中脱獄進行中』、荒木飛呂彦の短編、『スーパージャンプ』1995年2月号に掲載されたものである。これが舞台化、しかも荒木作品では”初”となる。
構成・演出・振付は長谷川寧。「”企画から”という話が出た時に、原作もので何か出来ないか、と考えました。荒木さんの作品、その中でも短編っていうのは珍しいですよね。なので作品自体は読んだ時に、記憶に残っていました。だから”短編で~”で、言われた時にこの作品を思い出したんです」と語る。
その圧倒的な作画や擬音は強烈な印象だ。さらに「短編のいいところは膨らませられること」と言う。さらに「シンプルなだけに膨らませられる、あとは作画にフィジカルな要素が感じられる」とのことだ。「画に身体の要素が凄く詰まっている作家さんで”身体性”を強く感じました。なので、ダンサーを使ったフィジカルな作品で上演するのが合っている、と。

でも、監獄だけの要素だと、あまりにも短いんで、話を膨らませるにあたって同短編集の中の『ドルチ』、この2つの要素を混ぜ合わせて、イメージを膨らませていく作業を行いました」と語る。
稽古まっただ中に話を伺ったのだが、面白いところは自分たちの考え方をのせていける所、だと言う。それは難しさと表裏一体、しかし、森山未來始め、演者、音楽全てにユニークなメンバーが揃ったようだ。
「共通認識を取るためにワークショップを重ねた」と言い、続けて「”駒”になる人じゃないから、みんな。だから面白い」と語る。

また、観客に対しては「”ダンス”とか”演劇”とかっていうひとつの括りで観ないで、好きに感じて欲しい」とコメント。荒木飛呂彦作品を、既成概念にとらわれず、身体を用いたアナログな表現で描き出していく、という本作品、作品世界がどう広がるのだろうか。

■ 危うさと不気味さ、ミステリアスでサスペンス、脱獄したい男、”見えない相手”とのせめぎ合い

舞台上には生バンド、そして、舞台中央には白い布がかかっている。極めてシンプルだ。大音響が劇場に響く。ROCKにノイズサウンドを掛け合わせたような音楽、そして森山演じる男が現れる。「俺はやっていない」と言う。原作にも同じ台詞がある。そう、男は殺人犯として死刑を宣告される。
しかし、男が閉じ込められたのは牢獄とはほど遠い、高級マンションの居間のような空間だ。テレビだってあるし、ソファーもある。舞台はそれをシンプルなセットで表現する。しかし、やがて、この空間は狂気の場所となる。不穏な空気を不協和音で”彩る”。その不気味さ、危なさ、音楽は基本、俳優の動きに合わせているが、それにプラスオン、その時の空気感だったり、心理状態だったり。それが奏でられるたび毎に、その空間の危うさや不気味さが劇場全体に充満する。ミステリアスでサスペンス、脱獄したい男とそれを阻止しようとする”見えない相手”とのせめぎ合い。テーブルや椅子、クローゼット、原作も思いも寄らない仕掛けで男をぐいぐいと追いつめるが、この舞台もあの手この手で、ドッキリするようなパフォーマンスで見せる。その感覚は、空間でシンクロする。荒木作品の独特の世界が、極めてアナログな表現で観客に提示される。

演出家も言っているが『ドルチ~ダイ・ハード・ザ・キャット~』という作品を織り込んでいる。こちらの舞台は船上だ。監獄と洋上、状況は全く真逆だ。クロスは瞬く間に船(ヨット)となる。
「私を招待して」と声がする。1人の赤いドレスの女がいる。男と女の絡みは独特の官能と甘さと際どさに満ちている。シルエットで猫が登場する。『ドルチ』という名の猫だが男になついている様子はない。原作では、奇妙かつ狡猾な油断ならない猫だ。複数の俳優陣が、様々に変化する。男を追いつめる”見えない相手”の”手先”なのか、俳優陣は男に絡み付いたり、あるいは思いがけない”姿”で迫る。
女は、ある時”巨大化”する。驚く男。その刻々と変化する動きと原作のミステリアスなテイストがそこはかとなく、”相似形”になっている。
ラスト、原作では、外の世界がもうすぐ、というところで、男は”まだ、何か罠があるに相違ない”と思い、外を眺めながら、一歩が踏み出せない(しかも50年経ってしまう)、で物語は終了する。ラストはクロスもセットも俳優陣も何もない状況で森山演じる男が1人取り残される。その幕切れ、見えない相手は、まだ”いる”。しかし、男は生き続けるのである。

森山未來の身体表現は独特で、様々な状況を身体ひとつで雄弁に語る。森山に”絡む”俳優陣も”カメレオン”の如く、変化する。極めて抽象的な表現ではあるが、荒木作品特有のシュールかつ不条理なテイストを損なうことなく、独特のパフォーマンスで表現している。
原作を一読すると、その奇妙なテイストに引き込まれていく。『死刑執行中脱獄進行中』はその設定からして理不尽かつ奇妙かつ暴力的ですらある。この物語の主人公は、絶えず「俺はやってない」だの「俺は無実だ」と主張し続ける。有罪なのか無罪なのかは問題ではない。彼は生きることに貪欲だ。生きることは人間の根源的な欲求である。
マンガ原作の舞台作品の中でもここまで抽象的に表現するのは極めて稀であるが、ひとつの方向性、可能性を示した作品であると言えよう。


ゲネプロ前に囲み取材があった。登壇したのは森山未來と初音映莉子、および構成・演出・振付を手がけた長谷川寧と、音楽監督の蔡忠浩(bonobos)。長谷川は作品に関して「身体性がすごく現れている」と評した。

森山は共演者に関して「本当にプロフェッショナルでハイセンスな人たち。一緒にできて非常にうれしい」とコメント。そのクオリティの高いパフォーマンスで荒木作品をスタイリッシュに構築。謎の女を演じた初音は「セリフをしゃべるというより、身体を動かすことによって、感情の肉付けができていった感じ」とコメント。身体ひとつで全てを表現する斬新かつハードルの高い舞台で存在感を放っていた。
森山は初音について「存在自体が力強い。立っているだけで絵になるので、頼りにしています」と話すと、初音は「私も頼っています(笑)」と返した。
続けて初音は「(森山さんは)今まで怖そうな人だと思っていたけど、共演してみて、気配りのある優しい方だなあと」とコメントした。森山は「身体や言葉だけに頼り切ることなく、ひとつひとつのマテリアルをどれだけフラットにとらえながら作品世界を構築できるかを切磋琢磨しながら模索しているところです。その場面に立ち会ってもらえると非常にうれしい」と”進行形”な舞台であることを語った。
[写真撮影:生井秀樹]

『死刑執行中脱獄進行中』
2015年11月20日~11月29日
天王洲 銀河劇場
2015年12月各地ツアー
(電力ホール、JMSアステールプラザ 大ホール、わくわくホリデーホール、富山県民会館ホール、梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ)

原作・荒木飛呂彦:舞台「死刑執行中脱獄進行中」 極めてアナログに、シュールに不気味に展開

《高浩美》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

その他 アクセスランキング

  1. 神秘的な海のロマンあふれるおすすめゲーム5選―美しくも厳しい海中世界を大冒険しよう!

    神秘的な海のロマンあふれるおすすめゲーム5選―美しくも厳しい海中世界を大冒険しよう!

アクセスランキングをもっと見る