人生にゲームをプラスするメディア

【hideのゲーム音楽伝道記】第39回:『ボクと魔王』 ― 少年ルカと魔王スタンの不思議な冒険を演出する音楽

インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第39回目となる今回は、『ボクと魔王』をご紹介します。

その他 音楽
【hideのゲーム音楽伝道記】第39回:『ボクと魔王』 ― 少年ルカと魔王スタンの不思議な冒険を演出する音楽
  • 【hideのゲーム音楽伝道記】第39回:『ボクと魔王』 ― 少年ルカと魔王スタンの不思議な冒険を演出する音楽
  • 【hideのゲーム音楽伝道記】第39回:『ボクと魔王』 ― 少年ルカと魔王スタンの不思議な冒険を演出する音楽
  • 【hideのゲーム音楽伝道記】第39回:『ボクと魔王』 ― 少年ルカと魔王スタンの不思議な冒険を演出する音楽
インサイドをご覧の皆さま、こんばんは。ゲーム音楽大好きライターのhideです。ゲーム音楽連載「hideのゲーム音楽伝道記」第39回目となる今回は、『ボクと魔王』をご紹介します。


『ボクと魔王』は、2001年3月15日にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)よりプレイステーション2で発売されたRPGです。

本作の主人公は、地味で平凡な少年・ルカ。彼は、ある日ルカの父がどこかから拾ってきた怪しげなツボの中から復活した魔王・スタンに自分の影を乗っ取られ、スタンの手下にされてしまいます。ただ、魔王とはいうものの、スタンはあまりにも長い間ツボの中に封印されていたため、黒い一旦木綿のような形をした影の姿になっていました。スタンは本来の人間の姿に戻りたいものの、実体化するには魔力が足りない……と嘆きます。

ルカの家の近くにあるテネル村の住人の話によると、今この世界には、スタン以外にも魔王と名乗る輩が何人も存在しているとのこと。他の魔王の存在が気に入らないスタンは、「魔王の名をかたる“ニセ魔王”らを倒して、その魔力を奪い返す!」と言い出します。そしてルカは、スタンのニセ魔王討伐の旅に嫌々ながらも同行させられることに――。こうして、少年と魔王の奇妙な物語が始まるのでした。

『ボクと魔王』の世界は、絵本や人形劇をイメージさせるような、ファンタジックで不思議な雰囲気に満ちあふれています。パッケージイラストを見ると、ちょっと怖い印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、おちゃめなキャラクターが多く、ギャグも満載な楽しいゲームですよ。本作では「勇者」や「魔王」の存在といった、RPGの定番要素を逆手に取った奥深い物語が展開していきます。思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアあふれるセリフの数々と、かわいらしく個性豊かなキャラクターたちによって織りなされていく、一見コミカルと思わせておいて実は深みを持った物語が、強烈な魅力を持っている作品です。

そして『ボクと魔王』の世界観を形づくる要素の中で、非常に重要な役割を担っているのが音楽です。個性的で味わい深い音楽の数々が、幻想的で不思議な本作の世界観をうまく演出していますよ。本作の音楽を手がけたのは、音楽制作プロダクションPeak A Soul+(ピークアソウル)。本作のために結成されたサウンドチーム「team bokumao」として、音楽プロデューサーの土井潤一氏をはじめ、川谷吉和氏、村田利秋氏、梶川貴光氏、九米康隆氏、戸部和秋氏の6名が楽曲制作に携わりました。

『ボクと魔王』の幻想的な世界観を引き立たせる町やフィールドの楽曲、強烈な個性を持ったキャラクターたちの魅力を演出する楽曲、意外な方向に展開する物語を鮮烈に彩るイベントシーンの楽曲など、挙げていけばキリがないくらい、聴きごたえのある音楽が満載ですよ! それでは、本作で印象的な楽曲をピックアップしてご紹介していきましょう。


パッケージ裏より(左側中央に描かれているのが、ルカとスタンです)

◆幻想的な世界観を彩る楽曲たち


まずは「Opening Movie」。その名の通り、ゲームを起動した後、タイトル画面でしばらく待っていると流れるオープニングムービーの楽曲です。大きな満月を背景に、草原をパレードするサーカスの一団と、にぎやかに奏でられるマーチ。それはまるで人形劇のような雰囲気で、幻想的な雰囲気とコミカルさを合わせもっています。これから何が始まるんだろう、と思わせてくれるワクワク感がありますね。一団の最後に登場するサーカス団長が落とすのは、奇妙なツボ。それをたまたま見つけたルカの父が、拾って家に持ち帰る――。そこからこの物語が始まるのです。

続いては「Home Sweet Home」。ルカの家で流れる楽曲です。穏やかな旋律がとても落ち着きます……まあ、そんな平穏な時間は長く続かないのですけどね(笑)。そして、ゲーム序盤に魔王スタンがツボの中から復活を果たし、ルカの影を乗っ取ってしまいます。スタンの登場の際に流れるテーマ曲「Stan's Theme」は、魔王というだけあって、重低音の利いた恐ろしげな楽曲になっています。――といいつつ、スタンはおちゃめで憎めないヤツなんですけどね。悪いことをしようとはするものの、実際やることは人の家の玄関マットを隠したりといった可愛らしいことだったりするので(笑)。

その後、ルカとスタンは世界各地をめぐってニセ魔王たちを討伐していくことになります。続いては、冒険の途中で訪れる町や村の楽曲たちをご紹介していきましょう。

●「Theme of Tenell」
ルカの家の近くにある、テネル村で流れる楽曲です。この村にはちょっと変わった人ばかりが住んでいるのですが、それを演出するかのように、音楽も奇妙で怪しげな旋律が奏でられますよ。とてもRPGの最初の村の音楽とは思えないほど怪しいです(笑)。でもすごくこの村の雰囲気にマッチしていて、聴いているとだんだんクセになってくる、不思議な魅力を持った1曲です。

●「Theme of Madril」
機械仕掛けの町・マドリルで流れる楽曲です。軽快で明るい曲調の中に、歯車が回転しているかのような音が組み込まれており、この町の機械的な雰囲気にぴったり合っています。

●「Theme of Lischero」
大きな湖の上に作られた町、リシェロで流れる楽曲です。ゆったりと水上にたゆたう小舟をイメージさせるようなのどかな旋律が、穏やかな気分にさせてくれる癒しの1曲ですよ。

●「Theme of Triste」
”とある事情”を抱えた人々が集まる町、トリステで流れる音楽です。切ない雰囲気でありながら、やさしく心安らぐようなメロディが、この町に漂う独特な雰囲気にぴったりマッチしているように思いますね。ちなみにゲーム中盤には、ルカの身にもトリステの人々と同様のとある大変な出来事が起こります。その際には、「Out of Acknowledge」というとっても寂しい楽曲が流れ、その出来事によるルカの寂しさや切なさが演出されるのですが、その後トリステにたどり着いてこの町の音楽を聴くと、大きな安心感が得られたことを僕はよく覚えています。これらの一連のイベントは、『ボクと魔王』の中でも特に印象深いものですね。

●「Theme of Highland Village」
ゲーム終盤に訪れる、ハイランドの村で流れる楽曲です。切り立った険しい崖の上に作られた高原の村という、さびしげなロケーションの雰囲気によくマッチした、せつない曲調の美しい旋律が耳に残りますよ。

『ボクと魔王』の町や村の音楽における特徴としては、どの楽曲も屋外と室内の2種類のバージョンが存在する点が挙げられます。屋外から室内に入ると、音楽が少し落ち着いた雰囲気の曲調にリアルタイムに変化するのです。これはRPGの町や村の音楽としては珍しい演出で、非常に細かく丁寧な音楽作りに感心しました。

◆バトル曲をご紹介。ピンチになると曲調が変わる仕掛けも!


長い旅の中では、オバケやニセ魔王たちとのたくさんの戦いに身を投じることになります。続いてはバトル曲をご紹介していきましょう。

●「Normal Battle」
その名の通り、通常戦闘曲です。本作ではオバケとの戦いが多いせいか、鐘の音をメインにしたちょっと怖い雰囲気の楽曲になっています。しかし怖すぎるということはなく、戦いの躍動感もしっかり表現されていて、絶妙なバランスを持った楽曲だと思いますね。

●「Evil King Battle」
下水道魔王、水泡魔王、会長魔王など、各地の様々なニセ魔王との戦いで流れる、いわゆるボス戦の楽曲です。ボス戦なので基本的には緊張感のあるサウンドなのですが、その中にあっちこっちに跳ねまわるような愉快な印象の音も一緒に入っていて、個性派ぞろいでコミカルな魔王たちの性格を音楽で表しているように感じます。

●「Vampire Evil King Battle」
ゲーム終盤に戦う、吸血魔王戦の楽曲です。それまでのバトル曲とはだいぶ毛色の違う、ギター風の音をメインに奏でられるロックサウンドが熱いですよ!個人的には本作のバトル曲で一番好きなのがこの曲です。

なお、本作のバトル曲には、ほぼすべての楽曲に「通常バージョン」と「ピンチバージョン」が用意されています。ルカのHPが減って残り少なくなると、音楽が緊迫感の増したアレンジに変化するのです。危険な状況を音楽で表現しているわけですね。非常にユニークかつ、凝った音楽作りだと思います。

◆イベントで流れる楽曲も素敵です


本作は、イベントシーンの中で流れる楽曲にも耳に残るものが多いです。続いてはイベントで流れる音楽たちをご紹介していきましょう。

●「melody of the box」
物語中重要な意味を持つアイテム、古いオルゴールの楽曲です。旅立つ際にルカの母親からもらう物なのですが、郷愁を誘うようなノスタルジックでやさしい旋律が美しいですね。シンプルながらも、心に沁み入ってくるような魅力のある楽曲だと思います。

●「Marlene's Theme」
物語中に出会う王女・マルレインのテーマ曲です。ゲーム中盤にはマルレインに関するとある重大な出来事が起こるのですが、その直後のイベントで流れる楽曲になります。マルレインに隠されたせつない真実や、このイベントによってもたらされる哀愁が、せつなさにあふれる旋律で表現されていて非常に印象深いです。

●「Afterwards...」
本作のラスボス戦後のイベントで流れる楽曲です。この楽曲は、プロモーションビデオやCMで使用された、ゲーム未使用の楽曲「Emotional Universe」のアレンジになっています。最後の敵を倒したという達成感を感じさせてくれる、壮大な旋律の盛り上がりが気持ちいいですよ。ちなみに「Emotional Universe」は、音楽プロデューサーの土井氏によると、『ボクと魔王』の世界観をイメージして最初に作られた楽曲のひとつなのだそうです。

●「Dance with Merle」
三拍子のワルツで奏でられる、優雅で美しい楽曲です。ゆったりした音使いのきれいな旋律が、やさしい気持ちにさせてくれます。ネタバレを避けるため詳細は伏せますが、ゲームの最後、ルカの家の前でのシーンでこの曲が流れ、”とある人物”がルカと再会したのを見た時、胸にじーん……と来たことを覚えています。最後までゲームをプレイしてこの曲を聴くと、胸に響くものがあると思いますよ。

●「HigherBreath」
スタッフロールで流れる、歌手の長沢ゆりか氏のボーカルつきの楽曲です。「ハイヨーステーヨーナーンペーイ!」という、何語で歌われているのかさっぱりわからない不思議な歌詞が強烈な印象を残します。歌詞は謎めいていますが、非常に元気な印象の楽曲で、聴いていて気持ちいいです。不思議な『ボクと魔王』の世界を綺麗に締めくくってくれる1曲だと思います。

◆愛すべきキャラクターたちが織りなす物語


本作は、前半は明るくコミカルなノリで物語が進んでいきますが、中盤からはシリアスで奥深い方向に展開していきます。僕はこのギャップに驚き、そして魅了されました。ゲーム中、色々と苦労したり大変な目に遭うルカですが、最後はハッピーエンドで締めくくられるのがいいなと思います。直接的な描写ではありませんが、プレイヤー側の想像の余地をほどよく残してくれる、いい終わり方ですよ。

本作は、エンカウント率が高い、カメラワークが悪い、ダンジョンでは特定の敵を延々倒さなければならない、などゲームシステム面における難点が正直言って多いです。しかし、世界観やシナリオ、キャラクター、音楽面に関しては、その難点を補ってなおあふれる魅力を持っている作品だと僕は思います。ファンタジックで独特な世界観とシナリオ、個性的すぎるキャラクターたち、そしてこの世界を魅力たっぷりに彩る音楽たちを、僕は愛せずにはいられません。

冒険を続けるうちに、少しずつ奇妙な友情が芽生えていくルカとスタン。口ゲンカが絶えないけれど、実はいいコンビなスタンと勇者ロザリー。変人かと思いきや、意外と冷静な分析をするオバケ学者のキスリング。スタンの指導を受け、アイドルを目指すリンダ。女性が大好きで、いつも面白い登場の仕方をする執事のジェームス。そして王女マルレインの真実――。たくさんの個性的なキャラクターたちが織りなす不思議で素敵な物語を、あなたもぜひ体験してみてください。ゲームシステムに難があるため、その点がやや人を選ぶ可能性はありますが、ハマる人はとことんこの世界にハマれると思いますよ! そしてPeak A Soul+の皆さんが手掛けた楽曲群は、この不思議な世界を十二分に引き立て、魅力を何倍にも増していますので、プレイされる際にはぜひ音楽にじっくり耳を傾けていただければと思います。

現状本作は移植・リメイクや、ゲームアーカイブスでの配信が行われていませんので、プレイするにはPS2の実機を使うしか手段がありません。本作の海外版『Okage: Shadow King』は海外では今年3月にPS4で配信されたのですが、現時点(2016年8月11日時点)では国内での『ボクと魔王』の配信は行われていません。ぜひ日本でも配信をお願いしたいですね……! もしくは、ゲームシステム面をブラッシュアップしたリメイク版が出たらいいな、なんて思っています。色々ハードルがあるとは思いますが。

◆サントラ発売もライブも、ファンの声がきっかけで実現



『ボクと魔王』のサウンドトラックCDは、音楽を手掛けたPeak A Soul+のWEBショップで販売されています(ご購入はこちら)。不思議な魅力を持つ『ボクと魔王』サウンドがたっぷり楽しめますので、ゲームを未プレイの方でもぜひお聴きになってみてください。このサントラはもともと発売予定が無かったそうなのですが、ファンの方々から多数の要望の声があり、さらには署名活動が行われ、その声援に応える形で発売されたのだそうです。素晴らしいですね……! ちなみに、このサントラはAmazon.co.jpのデジタルミュージックや、iTunes Storeでも配信されていますのでチェックしてみてください。

『ボクと魔王』のライブが再び開催!ボクと魔王 Lives ~After Story~(2083WEB)

また、10月16日には『ボクと魔王』のピアノライブ「ボクと魔王 Lives ~After Story~」の第3回公演が開催されます。このライブは、2014年12月および2015年1月に開催され好評を博した公演の再演となります。なんとこのライブも、ファンの方による署名活動がきっかけで実現したものなのです。僕はこのライブの第1回公演にお伺いさせていただきましたが、本当に素敵なライブでした。ピアニストの野崎洋一氏によるダイナミックなピアノプレイで広がる『ボクと魔王』の新たな音楽世界を、ファンの皆さんと共に堪能することができ、とても幸せな時間を味わうことができました。
(「ボクと魔王 Lives ~After Story~」2014年12月公演のレポート記事はこちら

本ライブ第3回公演のチケット一般販売は、8月13日(土)の午前10時から開始となります。ご興味をお持ちの方は足を運んでみてください!

それにしても、サントラ発売もライブ開催もファンの方々の声援で実現した作品なんて、そうそう無いと思いますね。本当にファンの皆さんに深く愛されている作品なんだなと感じます。『ボクと魔王』を愛する1人として、ルカやスタンたちが生きるこの素敵な世界が、これからもずっと続いていってほしいと願っています。

【筆者プロフィール】
 hide / 永芳 英敬

ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、ゲーム音楽関係の記事を執筆しています。チョコミントアイスに目がない。
[Twitter] @hide_gm [ブログ] Gamemusic Garden

(C)Sony Interactive Entertainment Inc.
《hide/永芳英敬》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集

その他 アクセスランキング

  1. 1位はキラ…ではない!『ガンダムSEED』人気投票の最終結果発表―アスランのMSで一番人気は「ズゴック」に

    1位はキラ…ではない!『ガンダムSEED』人気投票の最終結果発表―アスランのMSで一番人気は「ズゴック」に

  2. 『FF7 リバース』ユフィの“引き締まったお腹”が破壊力抜群!人気イラストレーター「はんくり」先生がファンアートを投稿

    『FF7 リバース』ユフィの“引き締まったお腹”が破壊力抜群!人気イラストレーター「はんくり」先生がファンアートを投稿

  3. 【特集】ゲームを遊びながら食べるのにピッタリなお菓子11選、最強の“ゲームおやつ”は…!

アクセスランキングをもっと見る