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【インタビュー】PCオンラインゲームの過去と未来―ネクソン運用部 部長、山﨑克臣氏に訊く

ネクソンの運用部 部長として、PCオンライン事業の戦略を担う山崎克臣氏に、オンラインゲーム黎明期から、ビジネスモデルの変容、ネクソン最新タイトルの話題まで、じっくりと話を訊きました。

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無料オンラインゲームのパイオニアとして知られるネクソン。2002年にネクソンジャパンが設立され、2011年には東証1部に上場。『メイプルストーリー』『アラド戦記』『マビノギ』など、数々の大ヒットタイトルが親しまれています。そんな中、ネクソンの運用部 部長として、PCオンライン事業の戦略を担う山﨑克臣氏に、オンラインゲーム黎明期から、ビジネスモデルの変容、ネクソン最新タイトルの話題まで、じっくりと話を訊くことができました。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

――本日はよろしくお願いします。まずは、PCオンラインゲームとの関わりも含めて、山﨑さんの自己紹介をお願いできますか?

山﨑克臣氏(以下、山﨑): 大学を卒業してSIerで働いていたのですが、ゲーム好きな同僚がたくさんおり、会社でビデオゲーム部という部を作りました。ちょうど会社のネットワークが構築され始めた頃だったので、『ディアブロ』などを会社でプレイしていました。それが、PCオンラインゲームを始めたきっかけですね。その後は『ウルティマオンライン』や『エバークエスト』もプレイしていました。そうしたオンラインゲームの面白さに魅かれ、30歳を前に、ネクソン(当時の名称はネクソンジャパン)に転職することを決意しました。


――ネクソンジャパンに入社されてからは、どういうお仕事をされていたんですか?

山﨑: 入社して最初に担当したのは、『タクティカルコマンダー』というオンラインシミュレーションゲームです。韓国の開発メンバーとコミュニケーションを取りながら、ローカライズを進めていきました。ローカライズする際は、日本担当の者が韓国にいましたので、ざっくりとした一次翻訳はしてくれるんですね。それをこちらで、より日本のユーザーの皆さんに親しまれるようなネーミングに変換したりとか、そういった作業をしていました。その頃は会社が部ごとに分かれていなかったので、さまざまな作業を一人で行っていました。例えば、サーバーのセッティングは韓国でしてもらって、そこからサーバーファイルをこちらで調整してゲームの内容を変更するとか、日本側で全てやっていました。開発にやってもらうのではなく、ディレクターである私自らがゲームのテーブルファイルの数値をいじって、ゲーム内のパラメーターを変更していました。その他、ユーザーから来るメール問合せについても、私の方ですべて対応していました。

――ほとんどのことを1人でやられていたんですね。それ以降は何を担当されたのですか?

山﨑: 組織がどんどん変わっていって、課金部門やサポート部門ができ、それらを統括する立場になりました。

――その当時のマイクロトランザクションの仕組みというのは、どういったものでしたか?

山﨑: 2003年後半頃までのゲームタイトルは、全て月額課金(マンスリーサブスクリプション)でしたね。ロールプレイングゲームであれシミュレーションゲームであれ、ジャンルを問わず全て同じでした。

――確かに、当時はアイテム課金の仕組みは存在しませんでした。

山﨑: そうですね。なかったと思います。その後は『メイプルストーリー』が韓国から日本に来ることになって、『メイプルストーリー』自体が基本プレイ無料でアイテム課金の形態を持ったゲームだったので、日本でもそのまま導入することになりました。会社としてはもちろん、日本でも初めて、オンラインゲームでアイテム課金を導入したゲームになります。

――アイテム課金が導入されて、当時のユーザーからの反響は?

山﨑: その当時は開発者の意向があって、アバター以外の課金アイテムがありませんでした。つまり、ゲームを普通にプレイする分には一切お金がかからないんです。ですので、ユーザーにとっては「タダでここまでできちゃうの?」っていう感想はあったかと思いますね。

――アイテム課金、マイクロトランザクションのモデルは、時代と共にどう変化していったのでしょうか?

山﨑: 少額の課金ができるものに関しては、バリエーションはどんどん増えていっていますね。先ほどお話したように、最初はアバター系アイテムの販売が中心でした。しかし、『メイプルストーリー』を運用していく中で生じた問題があります。MMORPGはプレイに時間をかけることが強くなる最速の方法だったのですが、時間のないユーザー(社会人など)と、時間のあるユーザー(学生や主婦など)の差が、わりと簡単に開いていってしまったんです。つまり、社会人と学生が一緒に同時期にプレイを始めても、1週間も経つとレベル差が開いて、一緒にプレイできないという問題が発生しました。そこで、次に『メイプルストーリー』に導入したのが、「経験値2倍チケット」だったんです。社会人ユーザーが可処分所得は多いと思うので、そのアイテムを購入してもらって、休みの日に集中してレベルを上げられるような仕組みを構築しました。ただ学生も「経験値2倍チケット」を使えるので、結局レベル差が縮まらないこともありましたが(笑)。『メイプルストーリー』に導入したガチャポンシステムも、初めての試みだったと思います。

――ガチャポンシステムは採用当初から人気でしたか?

山﨑: 最初はあまり使われなかったですね。ガチャポンシステムを導入したのは、ボードゲームでサイコロを振って遊ぶというランダムの要素を、より凝縮してオンラインゲームに導入できないかと考えたのがきっかけです。運の要素が作用しランダムで出る数値の面白さを考えて、ガチャポンシステムを導入したんです。当初はレベル1~70までくらいの装備が職業もバラバラで全部出る仕様だったので、すぐ使えない装備とかが出たりしていました。そこから、次はガチャポンを職業別に分解してみたりだとか、そういった取り組みを進めていくことによって、システムが洗練されていきました。ゲーム内のアイテムとネクソンポイントを交換できるというシステムも、その後導入しました。つまり、自分が使えないアイテムがガチャポンで出てしまっても、それを販売できます。このような改良を進めていく中で、徐々にガチャポンシステムが盛り上がっていきました。


――では、そろそろ新作タイトルの話に移ります。記憶に新しいところでは、『Tree of Savior』が、MMORPGとしては日本でも久しぶりのヒットだったと思います。好調の要因は。

山﨑: 『Tree of Savior』は日本でも多くのファンを持つキム・ハッキュさんが率いるIMC Gamesが開発したゲームです。彼の代表作は他社で長年サービスを行っていますが、彼が開発に関わった時期と比べるともはや別物なんです。システムの上積みによってゲームが非常に複雑になっているんですよね。例えば、3年前にプレイしていたユーザーが今同じゲームに戻ってきても、そのシステムにいきなり馴染めるかというとなかなか馴染めない。「古き良き」という言葉がありますが、初期のシンプルでまったりできるゲームが求められているのだと思います。このことは、当社のゲームでも一緒だと思っています。昔のゲームをプレイされたことのある人は、非常に膨大な人数なので、その人たちが昔を思い出して集まってくれたということが、『Tree of Savior』のヒットの要因だと思います。

――もうひとつのネクソン新作、『攻殻機動隊S.A.C. ONLINE』についても教えてください。e-Sportsを前提に考えられているというお話でしたが、競技型のオンラインFPSは市場に数多く存在します。その中で、『攻殻機動隊 S.A.C. ONLINE』の強みは何でしょうか?

山﨑: やはり一番は、「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」の持つIPの強さですね。ネクソンはこれまで複数のFPSタイトルを運営してきましたが、FPSをやる人は日本のPCオンラインゲーム市場では限られているんですよね。そのユーザーたちが各タイトルを行ったり来たりしている状態。その状態を何とか打破する必要があるのではと考えていましたので、今回IPの力を活用することにしました。それと、FPSのユーザーは若い人が多いので、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」を知っている、年齢層が高いユーザーにもアプローチをしたいと考えています。

――日本におけるe-Sportsシーンにおいて、ネクソンが課題だと思うことはなんですか?

山﨑: 先ほどの話とも関連しますが、まずはFPS全体のユーザー数を増やすことが大事だと思っています。日本はまだそのレベルだと考えています。ユーザー数が少ないので、海外のように人を集めて頻繁にe-Sportsの大会を開くというところまでは、まだ来ていないと思います。

――『攻殻機動隊 S.A.C. ONLINE』を開発する上で意識していたことはありますか?

山﨑: 対戦とか大会みたいなものを考え、正式サービスに入って課金モデルが公開されたときに、Pay to Winにならないことを意識しています。つまり、ゲーム内でプレイすることによって手に入る武器・キャラクターと課金によって手に入るものが、差異がないようにしています。また、現在はクランの機能が入っていないのですが、正式サービス後には早めに入れる予定です。クランマッチがあってこその大会になるので。

――仲間たちでクランを作って、コミュニケーションを取りながら一緒にプレイできるということですね。

山﨑: そうですね。その他の特徴的な機能として、「ゴーストスクリーン」という機能があります。これは、「自分がプレイしてどこでキルされたか」というのを振り返って見ることができる機能です。それから、「スキルシンクシステム」という機能を使って、自分の持っているスキルを他のキャラクターに共有できるという点が、このゲームならではの面白さですね。


――スマホタイトルが昨今増えている中、ネクソンとしてPCオンラインゲーム事業における戦略の方向性は?

山﨑: これまで十何年か業界にいますが、なくなっていく会社であったり、完全にモバイルにシフトした会社を目にしています。PCオンラインゲームの競合他社がだんだん少なくなってきて、国内で新規の大型タイトル出す会社もわずかです。そんな中、モバイルゲームを牽引していた大手さんが、ここ最近減収減益という話が聞こえてきたりしています。それだけではなくて、ネクソンでも2015年末くらいまではPCはダウントレンドだったんですね。それが、2016年に入ってから、好調になるタイトルも出てきました。したがって、モバイルの過熱は一段落して、モバイル・PC・コンシューマーのそれぞれでできることが、再認識されている時期なのかなと思います。そんな中で、ネクソンはグローバルネットワークが強く、なかでも韓国では、PCの市場規模がモバイルの倍くらいあります。つまり、韓国では継続的にPCオンラインゲームの開発が行われているんです。ネクソンは2014年頃からモバイル事業にも注力し始めましたが、2016年からは、PCとモバイルを並行して同じようなボリュームで作っていくという体制が徐々に出来上がってきました。今後もPCオンラインゲーム大国である韓国から継続的にタイトルが供給されていくルートがあるというのは、ネクソンにとって大きな強みだと思いますね。

――高いグラフィック能力をもったコンソール機が出ている中で、PCオンラインゲームの魅力や強みは何だと思いますか?

山﨑: タブレットやモバイルが台頭し、PCの販売台数は日本でますます下がってきていると思います。ただし、これまでに販売されてきたPCの台数は膨大で、家庭に1台はあるのが当たり前の状況です。そんな中、最初からマウスとキーボードという入力デバイスがセットで付いているというのは、コミュニケーションを必要とするMMORPGにとっては有利なことです。例えばPlayStation 4だとコミュニケーションする際にヘッドセットを購入する必要がありますが、PCだと、キーボードを使ってチャットでコミュニケーションを始めることができます。あと、これはネクソンが推進してきたことでもありますが、PCは無料でプレイできるゲームが多い点も魅力の一つですね。

――最後に、ネクソンとして、PCオンラインゲーム事業の展望をお聞かせください。

山﨑: 2016年は新作も複数出せて結果も付いてきています。ネクソングループがPCオンライン事業の開発に再び注力していることもあり、長年の業界経験を活かして、これからも多彩なPCオンラインゲームを日本の皆さんにお届けできるように頑張っていきたいと思います。

――わかりました。山﨑さん、本日はありがとうございました。

(聞き手:谷理央、文・撮影:松木和成)
《松木和成》
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