アトラスより1月に発売予定の完全新作3DダンジョンRPG『世界樹の迷宮』、今回そのディレクターの新納一哉氏と広報の宇田洋輔氏にお話を伺う機会を得ることが出来ました。『世界樹の迷宮』は3DダンジョンRPGの老舗アトラスが、今の時代に3DダンジョンRPGを作るとしたらどういう形になるだろうと、ゲーム業界に一石を投じる非常に意欲的なタイトルとなっています。新納氏の前作『超執刀カドゥケウス』や新納氏自身のことも含め、色々なことをお聞きしてきました。非常に長いインタビューになっていますが最後までお付き合いいただければと思います。
■第一回
■第二回
■第三回
■第五回
■最終回
『世界樹の迷宮』のゲーム内容に関しては以下の記事をご参照下さい。
■インプレッション(製品版テストロム)
■インプレッション(開発途中版)
■プレビュー
新納一哉 デザイナーとして業界入りし、その後プランナーに転向。2004年夏に(株)アトラスに入社し、ニンテンドーDSソフト『超執刀カドゥケウス』のディレクションを行う。引き続き『世界樹の迷宮』企画総指揮を担当。 |
宇田洋輔 (株)アトラスにゲームプランナーとして新卒入社。『真・女神転生III ノクターン』、『デジタルデビルサーガシリーズ』、『P3(ペルソナ3)』の広報を担当。現在は『世界樹の迷宮』の広報を担当している。 |
*1月13日追記: 今回のインタビューでは「引退を積み重ねる」という表現が出てきますが、マスターアップ後の仕様では「引退」は各キャラ一度きりとのことです。情報が古かったことを謹んでお詫び申し上げます。
― パーティの話でもいろいろオススメの組み合わせや、逆にこれは難しいよといったような組み合わせが出ましたけど、初期パーティの失敗に対する不満を解消してくれるような、たとえば転職といったシステムはこのゲームにはありますか?
新納 | 転職はないのですが、それに近いシステムとして「引退」っていうのを用意してあります。引退すると、自分のボーナスポイントとかを引き継いだ新人が入ってくるんです。ただスキルの継承はなくて、あくまでスキルポイントが少し多めであったり、パラメータがちょっと多い程度ですけど。 |
― それを積み重ねていくとスキルがオールMAXということにはなり得ますか?
新納 | できますが、大変ですよー?やれるもんならやってみろって感じですね(笑)。 |
― ああ、出来るんですね。それは是非とも書かせていただきます(笑)。たぶん誰か実現してくれそうですし(笑)。
新納 | 加藤ともそのテーマで話をしたんですけど、何らかの方法で完璧人間を作りたい人もいるだろうという結論に至りました。ものすごいコストを払ってもいいならどうぞやってくださいということで。 |
― 相当キツいですか?
新納 | 自分はめんどくさくてやりたくないです(笑)。 |
― なるほど(笑)。そういう引退の積み重ねでちょっとずつ強くしていくっていう良さもあるということですね。
新納 | たとえば1キャラ目を作っちゃって、こいつの成長気にくわないなぁと思ったときに、キャラを消してしまうんじゃなくて、引退させて新人に引き継がせるとまた愛着もわくかなぁと思うんです。引退を作ったのは、そういうところのフォローが原点でした。 |
― 引退させた場合は同じ職業の新人が入ってくることになるんですか?
新納 | 違う職業も選べます。ただ引退した職業によって上昇するパラメータも変わります。たとえばソードマンが引退すればSTR(攻撃力)があがったりしますね。 |
― 続いてお聞きしたいのはクリア後の事です。当然ゲームをクリアした後のやり込み要素って言うのはあると思うんですけど、それについてはいかがですか?
新納 | やり込み要素をつける余裕があるなら、できれば本編を充実させたいタイプなんで、やり込み要素という言い方はあんまり好きではないですね。やり込みってプレイヤーが「このゲームを続けたい」って思って勝手にするものであって、開発側が売りにすべき事ではないのではと思ってます。ただ、やり込みをしたい人のための受け皿は無いよりはあったほうがいいと思うので、それっぽいものは一応用意してます。隠しボスとか、あと、これは言って良いのかな、○○とか。 |
(中略)
― ああ、これは言わない方が良いですね。ナイショにしておきましょう(笑)。
新納 | ぜんぜんたいしたことじゃないんですが、気づいたらそれも話の種になればいいな、って感じです。 |
宇田 | でもたぶん最近はインターネットとかで情報交換も活発ですし、ユーザーは2週間もしたら気づくと思いますね。 |
新納 | ホント1ヶ月もあったら最近のゲームは素っ裸にひんむかれますね(笑)。 |
― やり込みというか、クリア後のおまけ的な要素ですけど、Wi-FiとかDSステーションでのシナリオ追加とかは今回用意されていないのでしょうか?
新納 | すいません、そういうのは一切無いですね。 |
宇田 | この製品が大好評で2が発売されるとなったら、また1を再度楽しんでいただくために何かする可能性はゼロではないです。まぁ今のところは考えてないですね。 |
― 是非とも大好評になっていただきたいです。さて、少し話は変わるんですけど、最近ダンジョンRPGっていうジャンルはなかなかないと思うんですよ。僕もそうなんですけど、ダンジョンRPG初心者も結構多いと思うんです。『世界樹の迷宮』はダンジョンRPG初心者でも楽しめるようになってますか?
新納 | 実はですね、結構周りの人にも「これってどういうゲームなの?」と言われることが多いんですよ。「マップってどういう風に歩くの?」とか「『(風来の)シレン』みたいなものなの?」とか。 |
― 『シレン』ではないですよね。
新納 | ええ。結局「『ウィザードリィ』だよ」って返すんですけどその『ウィザードリィ』が分かってもらえないんです。そういう人でも遊んでもらえるようには作ってあるつもりなんですが、1つだけ不安なことがあって、それがスキル要素なんです。スキルって結構RPGを普段から遊んでる人にとっての遊びの要素だと思うんですよね。そればっかりはどうしようもないので、たとえばWebとかにガイドを掲載したりとか、そういった方向で補足していこうかなと考えています。おすすめパーティとおすすめスキルとかも掲載していくかもしれません。 |
― 発売してしばらく経ってから「こんな感じでやると導入としては良いよ」ってのがWebで出せたら良いかもしれませんね。
新納 | そうですね。まぁ実際にプレイしてもらったら分かってもらえるかな、って気もするので、あまり過剰に親切にしないようにしながら様子を見ていくつもりです。 |
― 間口は広い方が良いですけど、あまり親切にしすぎるのもそれはそれでおもしろくなくなってしまう事もありますよね。ちなみにどういったユーザー層をターゲットにしていますか?やはりRPGプレイヤーでしょうか。
新納 | そうですね。今RPGをやられる方ならほどんと抵抗なく遊んでいただけると思います。 |
― でもどちらかといえば最近のRPGとは少し方向性が異なりますよね。
新納 | そうなんですけど、RPGを最初に買う人ってやっぱりRPGユーザーさんなのだと思います。アクションしかやらない人が突然このゲームを買うかっていったら、やっぱり買わないと思うんです。どちらかといえばRPGを好きな人、好きだった人に訴求していきたいですね。 |
― では逆に今のRPGについてはどうお考えですか?
新納 | 今のRPGも好きでなんですけど、個人的には色々ヘビーすぎて、社会人になってからは最後までプレイし続けられない事が多いんで残念です。そういう意味もあって、今回は軽めに遊べる『世界樹の迷宮』みたいなタイトルを「そういうのを求めてる人もいるだろう」と主張して、かなり無理言って作らせてもらいました。本来今のゲーム市場だとこんなゲームの企画は通らないんです。これを作らせてもらってる事に関しては、会社に感謝しています。「手描きマップとか絶対いいよ」とか金子さん(*10)が後押しして下さったり、今回の『世界樹』では、「これを作り始められた」という事自体が自分にとって一番嬉しい事でした。 |
― RPGって1本のストーリーを30時間とか50時間かけて楽しむっていうのがあると思うんですけど、プレイからプレイの間があくとストーリーとか大事なことをよく忘れちゃうんですよね(笑)。
宇田 | そういう意味では、今回のゲームは目標をロストするって逆に難しいですね。 |
― 延々潜っていくっていうのが大筋のストーリーですよね。
新納 | とりあえず先に行けば良いことになってますからね。さっきも言いましたけど、携帯ゲーム機だし、一気に長く遊べない人とかに遊んで欲しいなと思って、そういった前提にしてあります。 |
― そういう心遣いはすごくうれしいですね。さて、次はいよいよサウンド面とビジュアル面について聞いていこうと思います。まずはサウンドについてお聞きしたいのですけど、今回のBGMのジャンルはどういったものになっているのでしょうか?
新納 | ジャンルは、うーん…古代節(*11)って言ったらいいのでしょうか(笑)。FM音源(*12)がメインだった時代のゲームミュージックを、今の古代さんのセンスで作ってもらったというものなので、「なんとか風」とは言うことは出来ないですね。 |
― あえてFM音源を使ってくれっていう風に指定してるんですよね。さっきもプレイさせて頂いたときにBGMを聴かせて頂きましたが、古き良きという感じのサウンドですね。
新納 | 最近そういう曲がなかったので、このゲームはそっちもカバーしてみようかなと。FM音源も採用することには本当に苦労がありましたが、うまく行ってよかったです。古代さんにも本当にご苦労をおかけしました。製作序盤ではお互いにしっくりくるところが見つからず、こんな自分が古代さんに対して「これイメージと違うんで…」なんてリテイクかけるのは本当に辛くてドキドキでしたよ。上手くまとまるな、とお互いが良い感触を得られたときは本当に嬉しかったです。 |
― FM音源の再現も苦労されたとか
新納 | FM音源ってゆっくりとプログラムで音の響きを変えるんですよ。それをやるには、FM音源を実際に積むか、FM音源エミュレータを作るか、その響きまで全部サンプリングするかの3択しかないのですが、当然DSの場合最初の2つは無理なので、結局全部録音しました。おかげでサウンドデータがものすごい量に(笑)。メインプログラマーからは「FM音源なのに贅沢すぎる、ありえねー」と連発されました(笑)。まぁその人も古代さんのファンだったので事なきを得ましたが(笑)。 |
宇田 | さっきプレイしてもらったときに聴いて頂いたと思うんですけど、サウンドは非常に望んだ通りのものになっていると思います。良い感じに古代さんテイストが出ていますしね。 |
新納 | ゲームミュージックに全然興味のない『世界樹』のデザイナーがですね、最近自分の作業を終えてテストプレイを始めたんですけど「曲良いですねぇ」とか言い出すようなこともあったんで、この方向は結構いけるんだな、とその時確信を得ました。今回のBGMは、別に懐古ファン向けのものでなくて、「最近こういうの無かったし、みんな聞いてみてよ」という気持ちが強いです。 |
― なぜかFM音源の曲って、胸にしみるんですよね。今回プレイしたところ以外の曲も楽しみにしています。
(続きます)
【注釈】
*10 金子さん: 「電脳悪魔絵師」の異名を持つ金子一馬氏のこと。いわゆるアトラスのイラストといえばこの方の作品を指す場合が多い。代表作は『真・女神転生シリーズ』、『ペルソナ1・2』など多岐にわたっている。
*11 古代節: 『世界樹の迷宮』サウンドコンポーザーの古代祐三氏の楽曲を総じてこう呼ぶ。またゲーム好きの中には古代ファンはかなり多い。代表作は『イース』、『アクトレイザー』など。筆者も『アクトレイザー』のBGMには惚れ込んだクチである。
*12 FM音源: コンピュータなどに内蔵される合成音源の一種。昔のアーケードゲームや家庭用ゲーム機の音源にはほとんどこれが使われていた。最近ではあまり見かけなくなったが、今でも携帯電話の着メロ用に用いられたりしている。その音色はなぜかいつ聴いても懐かしい。