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夛湖氏 |
―――実質的な開発期間は1年半だったのですね
夛湖:はい、シリーズでは短い方でした。開発スタッフも『IV』では最大で140人くらいでしたが、今回は80人です。一方で2012年2月に全世界で発売するというスケジュールは決まっていたので、作り方を工夫する必要がありました。そこで外部の協力会社さんとの積極的なコラボレーションを考えました。カットシーンの演出などでは、インゲームムービーで革新的な映像を創られていたサイバーコネクトツーさんの門を叩きましたし、サウンドでは音楽制作会社のCreative Intelligence Artsさん、効果音作成に定評のあるフォースウィックさんをはじめ、外部クリエイターの方に素材制作をお願いしています。
―――サイバーコネクトツーさんの起用は『NARUTO』などの実績を考慮してですか?
夛湖:それもありましたが、静的な人間ドラマではなく、動きのあるドラマが得意なスタジオということで、ご相談にあがりました。オープニングのカットなども同社の演出です。カメラの動き方やカット割りなども、これまでのシリーズとちょっと違います。『IV』と見比べると、微妙な味わいの違いが感じられるかもしれません。なお、ムービーのエンコード、再生にはCRI・ミドルウェアの「CRI Sofdec2」を使っています。
―――サウンド面でCRIのミドルウェア「CRI ADX2」を全面的に導入されたのも、やはり開発体制の変化が理由の一つでしょうか?
夛湖:はい、限られた時間の中で十分な品質を満たすために、パートナーを選んだ結果です。
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長年ソウルのサウンドに携わる中鶴氏 |
―――なるほど、ソウルキャリバーシリーズのサウンドは国内外から非常に高い評価を受けていますが、大きな体制変化の中、今回はどのようなサウンドづくりが行われたのか、詳しくお聞きしたいと思います
中鶴:ではまず、サウンドチームの紹介ですが、自分はサウンドディレクターとして、予算やスケジュール管理を含めて、サウンドの全体統括を行いました。矢野はインゲームのサウンド統括を行っています。森と共に「ADX2」でサウンドシステムの設計も担当しました。最後に船田は音声収録と編集、実装を担当しています。アイオーンとヴォルドというクリーチャー系キャラクターでは、ボイスも担当しました。
―――まさに少数精鋭ですね。森さんと般若さんについても、ご紹介いただけますか?
中鶴:はい、森は開発チーム専属のサウンドプログラマーとして、サウンドチームとプログラムチームの橋渡しを担当しました。今回は「ADX2」を使用することで、多くのことがサウンドチーム内でできるようになりましたが、それでもプログラマーの手を借りる必要がある時は、森が窓口となりました。最後に般若はムービーのエンコードを行いました。開発全体ではカットシーンのプログラムを担当しています。
■大幅なサウンド開発体制の変化
―――ありがとうございます。では最初に『V』のサウンドコンセプトを教えてください
中鶴:いくつかキーワードがありましたが、まとめると「リニューアル」「アーケード回帰」「シームレス」「メイドインジャパン」というところでしょうか。これらを限られたリソースで実現するために「プロトタイプ」「役割分担」「サウンドシステムの見直し」を行いました。
―――それぞれ説明をお願いします
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スライド資料を交えて紹介してくれた |
―――冒頭の「間口を広げる」話ともつながっていますね
中鶴:そうですね。一方でわかりやすさを追求すると、いかにも記号的なサウンドになってしまいます。格闘ツールとしてなら良いんですが、『ソウル』シリーズは世界観やストーリーも重視しているので、それだけではサウンドが浮いてしまうのです。極端な話、ドラマチックな演出の後にバトルが始まって、いきなり「ROUND1 FIGHT!」というナレーションが入ると、興ざめに感じる人がいるかもしれませんよね。そこを両立させる上で、流れを断ち切らないようなシームレスな音作りをめざしました。他に世界観の理解を助けたり、キャラクターに思い入れが持てるような音作りにも力を入れています。
―――なるほど
中鶴:また『ソウル』シリーズは日本以上に海外市場で受け入れられているタイトルなので、本作でも海外市場を意識した取り組みを行っています。カットシーンでキャラクターのリップシンクが英語の台詞ベースになっているなどは、その一例です。北米でのボイス収録と同時に声優さんの表情をキャプチャー撮影し、それにあわせてアニメーションを作成しました。そのため日本語版は洋画の吹き替えのような形になっています。しかし、あくまで日本人が作っているものですから、僕らが海外ゲームのまねをしても意味がないですよね。そこで海外重視なんだけど、メイドインジャパンを意識して作っています。
―――そこは重要な点ですね。では、具体的にどのような体制で臨まれたのでしょうか
中鶴:まずはゲームサウンドを作る上で、サウンド先行でプロトタイプを作成しました。サウンドチーム内で、あるシーンに対して、サウンドを通してどのように演出したいか、イメージを共有したんです。それをプログラムやグラフィックなどのチームに伝達し、作業をしてもらうようにしました。このようにゴールを明確にしたことで、チーム全体で完成形が共有できたと思いますし、それぞれの役割のイメージも明確化したと思います。ちなみに、このプロトタイプ作成で「ADX2」が非常に有効でした。
―――プロトタイプについては、後で詳しく掘り下げるとして、続きをお願いします
中鶴:はい、協力会社さんとコラボレーションするにあたり、社内でできる作業と、協力企業にお願いする作業を最初から明確に切り分けることが求められました。これまでもこうしたことはありましたが、特に今回はそれが徹底された形です。具体的にはSEやBGMなどの素材制作を外部のクリエイターにお願いし、自分たちは上がってきた大量の素材を吟味して、いかに活用するかに専念しました。最初は不安もありましたが、最終的にはディレクションに注力することで得られた成果の方が大きかったですね。
―――そして最後が「サウンドシステムの見直し」ですね
中鶴:はい、「ADX2」の全面的な採用ですね。経緯としては先ほどお話しした通りで、少ない社内リソースで高いクオリティを維持するためにはどうするべきかを検討し、決定しました。もともと『IV』では社内のサウンドライブラリに「CRI ADX(ADX2の1世代前の製品)」の一部の機能を統合していました。『V』では、ファイルシステムやサウンドシステムが統合された「ADX2」に移行することにしたんです。初期構築は2か月ほどで、開発初期から「ADX2」で音を鳴らすことができました。
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サウンドプログラマの森氏 |
―――それが「プロトタイプ」につながったのですね
中鶴:そうですね。『V』のプロトタイプ制作のために、『IV』のサウンドシステムを「ADX2」で鳴らすということを行いました。ゲーム自体は『IV』でしたが、サウンド周りを「ADX2」にすることによって、さまざまな音を試行錯誤しながら作れたのは画期的でしたね。
―――実際にゲームを動かしながらプロトタイプを制作することで開発に変化はありましたか?
中鶴:はい、効率が全然違いますね。ゲームサウンドというのは、ツール上でいくら素材だけ作っても、インゲームで走らせて、実際に遊んでみないと効果がわからないんです。それが「ADX2」を使ったことで、すぐに実機上で確認できました。その後もサウンドデータを差し替えるだけで実験が簡単にできましたね。ゲームディレクターに説明する際も、実際にゲームに組み込んで確認できたので、非常に説明が容易でした。
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サウンドを担当した矢野氏 |
森: 僕の方で基本的な環境を整えて、矢野がさらにSEにものすごく細かい変化を付けてくれました。『IV』まではサウンドコンセプトを検証したり、何かアイディアを試す時も、プログラマーの手を介する箇所が多々あったので、本当に驚きでしたね。
■ADX2の機能を使い倒すことで生まれた表現の数々