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Unreal Engineを使ったスクウェア・エニックスの業務用向け『超速変形ジャイロゼッター』の開発

全国で順次稼動が始まっているスクウェア・エニックスの業務用カードバトルゲーム『超速変形ジャイロゼッター』。本作は、スクウェア・エニックスとタイトー、そして札幌のロケットスタジオ、京都の界グラフィックスという4社のコラボレーションによって開発された作品です。

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全国で順次稼動が始まっているスクウェア・エニックスの業務用カードバトルゲーム『超速変形ジャイロゼッター』。本作は『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』と同じく、スクウェア・エニックスとタイトー、そして札幌のロケットスタジオ、京都の界グラフィックスという4社のコラボレーションによって開発された作品です。さらに開発にはEpic Gamesの「Unreal Engine 3」を採用。ドライブバトルとロボットバトルという異色の組み合わせで誕生した本作について、プロデューサーの市村龍太郎氏、ディレクターの須山隆太氏にお話を伺いました。

―――非常に規模の大きいプロジェクトですが、誕生の経緯を教えていただけますでしょうか?

市村: 僕は少し前まで、「ドラゴンクエスト」のプロデューサーを務めていたのですが、そのきっかけはアーケードの『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』でした。幾つかシリーズ作品を手がけた後に、次のプロジェクトを考えた時に真っ先に思い付いたのは「アーケードでオリジナルをやりたい!」ということだったんです。アーケードは、目の前で子供たちが遊んでいる様子が見られ、筐体も含めてデザインできる、コンシューマー畑の人間にとってはとても魅力的なことなんです。

―――ロボットとクルマの組み合わせはどのようにして生まれたのですか?

市村: 『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』で一番良かったと感じるのは、親子で楽しく遊んで貰えたことです。オリジナル作品に挑戦するとしても、そこは崩さないで行こうと思いました。テーマは自然と自分が子供の頃に好きだったロボットとクルマというものが浮かびました。幸いなことに乗物をテーマにしたキッズカードゲームは市場にはありましたが、あまりうまくいっていない状況でした。面白いものを投入すれば市場としても可能性がある、ということでテーマはすんなりと決まりました。

―――開発で大変だったのはどういった部分ですか?

市村:コンセプトを落とし込むのはやはり大変でした。企画書を作るのは普段と変わりませんが、アーケードでは筐体をデザインしないといけません。筐体のデザインはゲームデザインと密接に関わります。筺体が決まらなければゲームが決まらないし、ゲームが決まらなければ筐体が決まりません。ボタンを増やしてリアルにすると複雑になりますし、装飾をを増やして派手にするとコストがかさみます。筺体はタイトーさんと一緒に作っていったのですが、試行錯誤の連続でした。

―――最もこだわった部分は?

市村: ゲーム中は、最初はクルマでレースを繰り広げ、その後変形してロボットになりバトルとなります。これを筺体でも表現することです。業界初の変形する筺体を作りたいと。最初はステアリングでレースを戦い、ロボットに変形すると筐体も変形してレバーが出現して戦う。単純なアイデアですがタイトーさんには苦労をかけたと思います(笑)。楽しさだけでなく同時に安全性や耐久性も求められますので。

―――おかげで注目度は高いものになったのでは?

市村: 非常に多くの注目をいただいています。ゲームセンターですので、インパクトのある筐体であることで、関心を持って貰い、ステアリングを触ってみて貰うことが大事だと思っています。それが導入になるんです。変形する筺体という点で、面白いのは大人と子供の反応の違いでした。筺体が変形するのを体感すると、大人は「おおー!」と声を上げる方が多いんです。でも子供はとにかくびっくりして声を失うケースが多いようです(笑)。一体何が起こったんだろう、みたいな。そういう様子を見ていると本当に嬉しいですね。かなり無理をして変形する筺体を実現して良かったと思います。

―――アーケードに留まらず、アニメや漫画なども含めて大きなプロジェクトになっていますね

市村: これは企画立ち上げの段階で全てやると決めていたことです。というのも、「ドラゴンクエスト」は非常に大きく歴史のあるIPでしたので、色々な展開を自由度高く進めていくというのは難しかったんです。そこで今回はメディアミックスを前提にしてプロジェクトを組んでいて、集英社さんの「最強ジャンプ」で連載を始めていただき、テレビ東京さんではアニメも開始され、バンダイさんから玩具展開もあります。

―――多くのクルマメーカーとタッグを組んだところも目を引きますね

市村: やはり本物のクルマが登場した方が嬉しいですからね。企画を持ってメーカーさんにプレゼンすると、どこでも非常に前向きなお返事をいただけました。やはり「クルマ離れ」と言われていることに、何かしら手を打っていきたいと考えられているようです。ジャイロゼッターを入り口にして、子供たちに「クルマに乗りたい!」「あのクルマはかっこいい!」と思ってもらうのは、お父さんの後押しになりますし、将来のユーザーを育てるという意味でもとても大事なことではないかと思っています。

■Unreal Engine 3を使った新しい開発

―――では開発について伺っていきます。ディレクターの須山さんと市村さんのコンビはもう長いそうですね

須山: もともとエレクトロニック・アーツでQAからキャリアを始めて、後にはプロデュース業も経験しました。ただ、もっと開発側でやりたいという思いから札幌のロケットスタジオに入社しまして、そこで偶然『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』のお話があり、プランナー初体験にしてメインプランナーをやらせていただきました。ずっとロケットスタジオの人間としてスクウェア・エニックスと一緒に仕事をしていたのですが、シリーズが一段落したので東京に戻ったタイミングで市村に「ウチに来い」と言われ、今度はこちらの人間としてやることになりました。なので、もう7年くらい一緒に開発をしてますね。

市村: 『超速変形ジャイロゼッター』では引き続きロケットスタジオに開発して貰おうと思っていました。でもメインプランナーが居なくなると困りますし、とてもいい仕事をしてもらっていたので、じゃあスクウェア・エニックスに来て今度はディレクターをやってもらおう、と思ったんです。

―――ゲームエンジンに「Unreal Engine 3」を採用した理由を教えていただけますか? 国内でアーケードに採用されたのは今回が初めてのようですが

市村: これまではロケットスタジオさん内製のエンジンを利用していました。しかし今回はHDで行くと決めていました。するとグラフィックにかけるコストが大幅に上がります。それに対応したエンジンはロケットスタジオさんにはまだありませんでした。しかも『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』ではシリーズで制作していたリソースを色々と流用できたのが、オリジナルではそれも難しいと。もちろん「Unreal Engine 3」は初体験だったので、エンジンを学習する必要がありますし、エンジンに合わせた作り方が求められますので最初のコストは高くなります。それでも開発は長くなりますので、いずれは回収できると踏みました。

―――スクウェア・エニックスさんでは「Luminus Studio」という自社エンジンを開発されています。そちらや他のエンジンとの比較などはされたのでしょうか?

将来的には自社開発のエンジンを使いたいというのは意向としてあります。ただ、2年前の段階で「Luminus Studio」が採用できる状況だったかといえばそれはまだ難しい段階でした。エンジンを成熟させるためには何度も場数を踏む必要があります。Epic Gamesさんが『Gears of War』シリーズで「Unreal Engine」を成長させてきたのと同じです。また、現場としてはエンジンを使った開発体制に慣れる必要もあります。そうしないといずれ自社エンジンが使える段階になっても遅れを取ってしまいます。元々自社エンジンでずっとやってきた会社でしたが、外部のエンジンを使って作るのも大事だという機運が盛り上がってきたのもちょうど2年前くらいで、それでEpic Gamesさんとは複数タイトルでのライセンスを結ばせていただいて、幾つかの他のタイトルでも「Unreal Engine 3」を採用しています。

―――エンジンを導入することで開発に変化はあったのでしょうか?

須山: 言い古された事ですが、最初に絵を出すまでの時間は比較にならないほど早くなりました。エンジン側も同時に開発する場合、絵を出せるまでに長い時間が必要ですし、トライアル&エラーにもまた時間がかかります。「Unreal Engine 3」を導入したことで、絵を出すまでに時間を必要としなくなりましたし、最終的な絵を見ながら改善できるようになりました。

―――ここは良かったというポイントはどこでしょうか?

須山: 先ほど言った絵を見ながら作業ができるという点が一番です。それ以外にも、「Unreal Script」を使ったのですが、メモリ管理が完璧に行われていて、メモリリーク関連の正体不明なバグに悩まされる事が無くなりました。また、「Unreal Kismet」も非常に強力でした。

市村: 本当にバグは少なかったですね。通常、開発の終盤になると原因不明のバグが次々に現れます。今回は本当にバグの数が少なくて、QAチームなんかは「これは怪しい、罠ではないか」と言ってたくらいです(笑)。本当に奇跡的な開発だったと思います。

―――レースゲームを「Unreal Engine」で作るというのは相性的にどうなのでしょうか?

須山: 基本的にはFPSを開発するのを念頭に入れているものと思いますので、ターンバトルを実現するのは多少苦労がありました。場面切り替えを次々に行うことには向いていないんです。でもレースの方は問題ありませんでした。先ほど言ったように、毎日遊んでみながら新しいコースを試してトライアル&エラーで開発が出来ましたのでとても良かったです。

―――プレスリリースの中で市村さんはバージョンアップを頻繁に行う点もエンジンを選んだ利用だとおっしゃっていました

市村: これは本当に大事な利点です。『超速変形ジャイロゼッター』では半年に一度、大規模なアップデートを計画しています。まだリリースされたばかりですが、既に2年先までの計画があります。最初は来年1月に行う予定で、開発を進めています。本作のようなゲームはネットワーク環境の整備されてないような場所にも置かれていきます。物理的にハードディスクを交換するため、アップデートには時間もお金もかかります。半年に一回マスターアップをするというのはかなりタイトなスケジュールで、綿密な計画が求められます。限られた期間の中で何を導入し、改善するか、トライアル&エラーを重ねなくてはなりません。そういう意味で、とてもいい環境が手に入ったと思います。

―――札幌と京都という物理的な距離で困難な点は無かったのですか?

市村: それだけでなくタイトーさんは海老名ですから、新宿、海老名、札幌、京都という4拠点を結んで開発していたことになります。全部バラバラで良く作れたなと思いますが、才能ある人達と一緒に作ることが何よりも大事なので距離のハードルは、色々なコミュニケーション手段をもって超えなくてはなりません。

須山: 『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』の頃から既に7年くらい、このチームは一緒に動いています。ですからお互いは知らない仲じゃありません。コミュニケーションは随分良くなったと思います。テレビ会議を随時やりながら、必要があればすぐに僕が現地に行くことにしています。大事な時には3日間くらいの合宿もやってます。来年以降のアップデートを話し合う合宿もやりました。コミュニケーションのための労力は惜しまないようにしています。

■まだまだ広がっていくジャイロゼッターの世界

―――本作の目指す子供向けの分野はどちらかというと御社が強い分野とは異なるように思いますが

市村: 「ドラゴンクエスト」を一緒にやったレベルファイブの日野社長にも「大変だよ」と言われました(笑)。確かにスクウェア・エニックスとしてこの分野に強いとは言えません。「ドラゴンクエスト」もピークは子供ではなく30代でした。かなり危機感がありました。「このままではアンティークになってしまう」と思い新しい要素や『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』というタイトルを展開もしました。僕はゲームはやっぱり子供のものだと思っています。ゲームを遊ぶのが好きで作る側になりました。そういう子供たちを増やして、後を継いでいってもらいたいと思っています。だから子供向けのタイトルに挑戦し、彼らに衝撃を与えられるようなゲームを作りたいと思ったんです。

―――3DS版も来年春に登場する予定です

市村: 残念ながら「Unreal Engine 3」を使っているわけではないのですが、ニンテンドー3DSでも来年春発売予定の作品を開発中です。こちらはアーケード版の移植ではなく、完全新作のRPGになります。日本全国を冒険しながら、悪いジャイロゼッターを改心させて、仲間にして、色々なチューンナップをしていきます。アニメとは異なりますが、それと密接に絡み合った本格的な物語が展開されます。対戦や協力など通信要素も充実していて、アーケードと平行しながら遊べるゲームになりそうです。開発は順調です。

―――HD機も今後は有り得るのでしょうか?

市村: もちろん、大人のファンの熱量も見ていかないといけません。大人の『ジャイロゼッターHD』なんてのも僕の頭の中にはなんとなくあります。海外展開も視野に入れていますので、先々HD機が必要になってくることもあるかもしれません。

須山: このフランチャイズは大きく展開させていきたいと思っていて、市村さんにまだ喋ってないような僕の構想もあります。例えば純粋なアクションゲームのようなものも作りたいですし、大人向けのシステムも勝手に妄想してます。

―――最後にこの記事を読んでいる開発者の皆さんに一言、プロジェクトの教訓を伝えるとするといかがでしょうか?

市村: 今回、ひとまず最初の開発が上手く行ったというのは、面白いものを作ることに時間が取れたからです。ゲームエンジンを使うことによるコストダウン、そのコストというのは時間だと認識しています。その時間をもっとクリエイティブな事に使うこと、それが良いゲームを生み出す土壌になると思います。そして、ポイントは「ありそうでないもの」を意識して作っていくことが大切だと思っています。想像ができて、興味を持たれる、実際に遊ぶと驚きがある、この絶妙なバランスが結果に繋がるのではないかと思っています。そういう意味では良いものになったかなと思います。今後も『超速変形ジャイロゼッター』プロジェクトはどんどん広がっていきますので、楽しみにしていてください。

―――本日はどうもありがとうございました
《土本学》
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