まず、自他共認める「任天堂信者」であるという土本氏は、ちょうど今月上旬発売されたWiiUを取り上げました。フリーズやリロードが遅いといったハードウェアとしての問題は多いとはいえ、ゲーム機の思想としては非常に面白い試みであると土本氏は実際のゲーム機を触った印象を述べました。
さらにゲームをもう一度、リビングに取り戻すという発想を高く評価しております。かつてのファミコンはその名前のとおり、家族が集うお茶の間のゲーム機でありました。しかしながら、テレビの普及やハードウェアの進化の結果、ゲームはどんどんプライベートな娯楽になっていったと、土本氏は振り返っています。しかしながら、WiiUはリビングのテレビを利用しながらも、「お母さんの邪魔にならず」ゲームを遊べるというところが非常に面白いと土本氏は分析しています。また、リビングで遊びつつも、ゲームパッドだけでもベッドやソファに持ち込むというスタイルも魅力的だといいます。
このようなWiiUの特徴を分析して、土本氏はゲームをリビングに取り戻すという方向性に可能性を見出しています。この流れに対して、黒川氏は外食産業が低迷し、テイクアウトで家の中で食事を取るという「中食」というスタイルが定着しつつあることとの関連を述べました。土本氏は、何かと人恋しくなる時代、個のデバイスであるモバイルに対して、WiiUが家族や家庭の良さを見直すきっかけになれば良いのではないかと述べています。
土本氏はさらにLINEとそのキャラクターを一押しとして選んでいます。特にそのゆるく、あまり主張がない感じが魅力だと述べています。さらに、スタンプだけではなく、LINEのヘルプ画面などにも登場し、独特のゆるい世界観を演出している点を高く評価しております。
最後に土本氏は、エールを込めつつ、日本のゲーム産業の海外展開を挙げました。スマートフォンによって産業がよりグローバル化した結果、日本の産業の一つとしてエンターテイメントが将来を支えるくらいのものに成長して欲しいと展望を述べています。現在は北米市場を中心に、ソーシャルゲームなどが展開を進めていますが、今後はアジア圏などでも活躍を期待しているといいます。
それに対して、目黒氏は海外のゲーム会社のクオリティへのこだわりの高さを指摘しました。実際にInfinity Bladeの開発者にインタビューした際に、彼らはスマートフォンゲームでもAAAタイトルしか作らないという高い目標を立てているといいます。日本の開発者もそういった高い目標を掲げて頑張って欲しいと目黒氏はエールをおくりました。
次に佐藤氏が2012年の注目コンテンツ3つを挙げる番になりました。事前にお題を与えられ、当然、大賞として入るべきものとして「パズドラ」があるのではないかと佐藤氏は即座に思いついたといいます。「パズドラ」の素晴らしい点は、ソーシャルゲームがKPIなどの数値的目標によって、ゲームのデザインを変化させる流れに対して、強烈なアンチテーゼを立てたところにあります。
次に注目すべき観点としては、ソーシャルゲームの流行の中で、新しいIP展開という点を佐藤氏は指摘しました。コンテンツを生かしたキャラクター展開という事例では、グリーが「グリーエンターテインメントプロダクツ」という子会社を設立し、『ドリランド』などの人気ソーシャルゲームのアニメ化をはかったり、コナミが『戦国コレクション』のアニメ化を行ったりといういくつかの流れがあります。
そのような新たなIP戦略の中でも、佐藤氏が注目するのはアイドルマスターシリーズのソーシャルゲームである『アイドルマスターシンデレラガールズ(以下シンデレラガールズ)』です。もともとアイドルマスターはシリーズ作を含めると一つのIPだけで、8年という長い歴史を培ってきました。そんな中で「シンデレラガールズ」は既存のIPを利用しながらも、新規IPを創りだしたという点で大きく評価できると佐藤氏は述べています。
実際に、「シンデレラガールズ」では人気のあるキャラクターのCDまで発売され、ソーシャルゲームにとどまらない盛り上がりを見せています。現在ではボイスを入れたソーシャルゲームという試みは珍しいものではなくなりつつありますが、キャラクターにボイスが付くということの影響は大きく、IPとしての魅力が高くなったと佐藤氏は分析しております。
さらに、CDの盛り上がりは単なる実験的な試みとしてではなく、オリコンのトップ5を独占するほどの支持を集めたことも大きいといいます。同一のアニメやゲームのキャラクターソングがオリコンのトップを独占するというのは、オリコン史上初であり、実際にアイドルマスターシリーズの楽曲のクオリティも高く、CEDEC AWARD 2012ではサウンド部門の最優秀賞に選ばれるほどです。
以上をまとめて、佐藤氏はソーシャルゲームが単なるゲームの領域を超えたエンターテイメントとして進化したものとして「シンデレラガールズ」を高く評価しています。そして、これからのゲームはゲームの外にも広がりを持たせた方がエンターテイメントとしての未来があるのではないかと展望を述べました。
佐藤氏が最後に取りあげた「探偵オペラミルキィホームズ(以下ミルキーホームズ)」も、このようなゲームの超えたエンターテイメントの将来を見せてくれたものだといいます。個人的に佐藤氏は「ミルキーホームズ」のキャラクターたちによる武道館ライブが今年、最も感動したイベントであると述べています。「ミルキーホームズ」はもともと黒川氏がブシロードに在籍していたときに立ち上がったメディアミックスコンテンツであり、当初はゲームとしてリリースされ、その後のアニメ化により認知度が高まり、ついに武道館でライブを行えるほどの人気を獲得したといいます。
佐藤氏はもともとGameSpot Japanにおいても、こういったイベントを積極的に取材しており、当初から「ミルキーホームズ」にも注目していたそうです。最初の有明でのライブはガラガラであったのに対し、武道館のライブはお客様で埋まっており、その成長の過程を味わえたことが大きかったといいます。そして、ファンがキャラクターを成長させていくというのがエンターテイメントの一つの形ではないかと提起しました。
黒川氏も武道館ライブにはゲストとして招待され、その熱気には圧倒されたと告白しました。当時、プロジェクトの立ち上げには関わりつつも、途中でブシロードを退社することになったそうですが、あの時、漠然としていたキャラクターたちが生き生きとしているのに感動したといいます。またファンたちもみんな「ミルキーホームズ」のTシャツを着るまでに成長しており、「ある種のダイナミズムを見た」と述べています。
最後にファミ通Appの編集長である目黒氏から今年注目のコンテンツ3つが挙げられました。まずは大方の予想どおり「パズドラ」を一番に挙げました。目黒氏にとって、カードバトル系ソーシャルゲーム全盛期の中に登場した「パズドラ」のインパクトは非常に大きかったそうです。カードバトル系とは対照的に非常にゲームらしいものでありながらも、ビジネスとして成功させることが可能だと気づかせてくれたことの大きさは偉大だと、振り返りました。
これに対し、黒川氏は昨今、そのようなゲームらしいスマートフォンゲームが増えてきたことを指摘しました。「パズドラフォロワー」とでも呼べるその現象は、どちらかと言うとこれまでSAP中心で回っていたモバイルゲーム市場において、コンシューマゲーム会社が本格的に参入してきたことを示しているのではないかと指摘しています。
目黒氏は、「パズドラ」の生みの親である山本大介氏が、今後はRPGにおける成長要素をいかにスマートフォンの中に落としこむかが重要な鍵になってくると述べていたことを報告しています。つまり、カード形式であれ、パズル形式であれ、RPGでプレイヤーキャラクターが成長するというシステムを実装することで、ゲームの継続率を上げることが大切だといいます。そこで、無課金でも遊べるというゲームバランスは継続率を高めるための重要なポイントであり、そのバランスが適正であれば、口コミにおいてゲームは自然と拡散するそうです。
実際に目黒氏が手がけた「パズドラ」のファンブックは無課金でプレイした日記をメインとして書かれているそうです。通常ならば、そのような体裁はメーカー側から嫌がられるかもしれませんが、「パズドラ」を作ったガンホーはそれを許してくれる懐の大きさが魅力だと、目黒氏は述べています。また、ファミ通Appでの攻略記事に本家「パズドラ」のアプリからリンクを付けるという新しい試みをフットワーク軽く実行してくれるところもガンホーの独自性だといいます。
目黒氏は他にもLINEや「なめこ」を注目コンテンツとして挙げていましたが、話はここで「パズドラ」を開発したガンホー・オンライン・エンターテイメントに移りました。事実、今年のガンホーは「パズドラ」の大ヒットだけにとどまらず、「ケリ姫クエスト」や「クレイジータワー」などスマートフォン市場で数々のヒットゲームをリリースしてきました。それらはどれもオリジナリティが高く、ゲームとしての面白さを追求しており、それらのこだわりにおいて、「ガンホー」という会社自体を目黒氏は高く評価しています。
黒川氏も、前回の黒川塾で招いたガンホーの取締役社長の森下一喜や「パズドラ」のプロデューサーの山本大介氏のゲーム開発への真摯な姿勢を高く評価しました。ガンホーでは、良いものを作るためには数ヶ月かけたプロジェクトでも破棄することは珍しくないといいます。そのような妥協のないゲーム開発姿勢を高く買い、「ガンホー自体にエンターテイメント大賞を与えるのはどうだろうか?」と会場に問いかけました。
さてゲスト3名からの提案を受け、いよいよ「エンターテイメント大賞」の発表に至りました。その前に、事前のFacebookでのアンケートの順位を黒川氏は読み上げました。一番人気はLINE、二番手は日本未来科学館の展示「アナグラのうた」、三番手は「パズドラ」とFacebookのアンケートは並んでいます。そして、以上の議論のすえ、2012年度の「エンターテイメント大賞」は「パズドラ」ではなく、あえてそれを開発した「ガンホー・オンライン・エンターテイメント」に与えることが会場で決定しました。
黒川氏は会場からの意見も取り入れつつも、ゲーム開発やエンターテイメント産業に対する取り組む姿勢を評価して、ガンホー・オンライン・エンターテイメントにエンターテイメント大賞を送ると告知し、今回の黒川塾四を終えました。最後に、黒川氏は今年いっぱいでNHNを退社することを報告し、今後ともエンターテイメント産業を盛り上げるために活躍していきたいと豊富を述べました。
トークショーの後は、毎度恒例の交流会が開かれ、参加者はピザなどを食べつつ、交流を深めました。非営利目的ながらも毎回豪華なゲストを招く黒川塾は、黒川文雄氏のエンターテイメント産業への情熱によって成り立っている素晴らしいイベントです。記者として黒川塾に毎度参加させていただいた私にとっては、「エンターテイメント大賞」に輝いたガンホーと同じくらい黒川氏の情熱と姿勢には心打たれた素晴らしいイベントでした。
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