
毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」。6回目の今回のテーマは「色」です。日本と海外のゲームを比べた時に、その第一印象を分けるのは実はその色使いなのかもしれません。
平林
今回は古事記や神社の話題から離れて、グッとソフト寄りのお話をしましょう。
土本
どんなお話ですか?
平林
年末年始の期間、Facebookにログインしている時間が長かったんですね。で、とても気になったのは色でした。
安田
色? 色彩の色のことですか?
平林
はい。Facebookのフィードに広告が表示されますよね。Facebookの広告出稿量、業種別で見るとゲームの広告が最も多いと聞いたことがあるのですが、それはさておき、そのゲーム広告の色が気になるんです。
土本
どんな風にですか?
平林
ストレートに言ってしまうと「日本の色じゃない!」と思うわけでして。 海外のゲームデベロッパーのタイトルの広告を見ますと、やはりね、色が違うんです。
安田
ああ、わかる気がします。
平林
Facebookの広告だけではないですね。App Storeなどで表示されているアイコン。色を見た瞬間に、あ、このタイトルは日本でつくったゲームじゃないな、と判別できますよね。

海外の大手メディアPocketGamerの広告

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土本
はい、確かに。
平林
そこで、改めて安田さんにうかがいたかったのが、ゲームの色についてです。ゲームジャンル、ゲームシステム、ストーリー。海外のゲームと日本のゲームでは異なるポイントがいろいろありますが、色もかなり違います。色について、いつもどんなことを考えていますか?
安田
色の考察はおもしろいですね。僕の考えでは……まず、ゲームの色以前の話として……日本に存在する色の数が、他の国と比べて圧倒的に多いと思うんです。
平林
まずは単純に、数の問題。
安田
そうです。
平林
やはり四季があるから、生活の中に色が増えたのでしょうか。
安田
もちろん、四季は関係あるでしょうね。
平林
自分で話を振っていて疑問もあるのですが(笑)、四季があるのは、なにも日本だけではないですよね。北半球にも南半球にも四季がある国はいくらでもあります。
安田
確かに気候としての春夏秋冬はいろんな国にありますが、文化として四季が強く生きているのは、なんといっても日本が傑出していると思いますよ。
平林
文化としての四季?
安田
気候の変化はどこの国でも起こる現象です。ではその変化をどれほど豊かな感性でとらえるか。この季節の感じ取り方が日本人は鋭いと思うんです。
平林
あ、わかりました。たとえば俳句の季語のような!
安田
そうです、そうです。季語なんていうのは非常にわかりやすい日本独自の文化ですよね。あとは季節ごとの年中行事が多い。これも日本文化の特徴だと思います。


平林
季節ごとの年中行事といいますと?
安田
たとえばこの1か月を振り返ってみると、冬至があってゆず湯に浸かって、年越しそばを食べて、除夜の鐘を聞いて、正月の行事がもろもろあって。さらに、七草粥を食べて、鏡開きをして。
平林
確かに季節にちなんだ行事だらけですね。そして、もうすぐやってくる節分には、豆まきをします。そういえば冒頭で「Facebookを見ていて色の違いを感じた」と言いましたけど、正月はみんなお節料理やお雑煮や、初詣の様子や和服姿をアップするじゃないですか。まさに、日本の色が溢れかえるわけです。その中にポツンと表示された海外ゲームの色が、なんとも浮いている感じがしたんですね。
安田
季節が移り変わるたびに年中行事をする。こういう風習は、時代が進んで、おそらく平安時代以降に生まれたわけですよね。
平林
はい。
安田
ですが、色のことを考えると、もっとはるかに昔。日本列島ができた頃のこと。地理・地学的な要因も関係していそうです。以前、平林さんが国とは何か? という話でカントリー(Country)という単語は国土の意味があると言っていたじゃないですか。
平林
はい。
安田
日本の国土を考えると、色が増えるのは当然のように思えるんですよ。
平林
といいますと?
安田
日本の地形的な特徴ですが、まず海に囲まれています。
平林
海も太平洋、日本海、瀬戸内海といろいろあります。暖流と寒流の両方があるのも日本の海の特徴ですね。海によって景色が違います。あと、私は食べ物の種類の多さと色の多さは相関関係があると思うんです。鯵、鰯、鯖、鰤、鮪。魚偏の漢字が覚えられないほどあって、日本人はたくさんの種類の魚を食べますよね。イギリスがそういうイメージなんですけど、国によっては海に囲まれていても、食べる魚は10種類以下みたいなところもあるんじゃないですか。
安田
日本の周囲の海は意外と深いんですよね。
平林
はい。ですから日本は海産物には本当に恵まれていて。同じカニやエビも何種類も食べられますし。ちなみに私は、カニはタラバガニ、エビは車海老が大好きです。
安田
魚の種類の多さと色の多さ、当然つながりはあるでしょうね。ところで種類が多いのは魚だけではない。じつは日本は、固有種がとても多い国だって知ってましたか?
平林
動物や植物の固有種? そんなに多いんですか?
安田
固有種というと、独自の生態系で発達したガラパゴスが有名じゃないですか。ところが日本のほうが、ガラパゴスよりも多くの固有種が生息しているそうです。
平林
ニホンザル、ニホンカモシカなどニホンがつく種の名前ってたくさんありますね。あと『ダービースタリオン』にハマって競走馬の血統に詳しくなって知ったのですが、日本にしかないウマもいます。
安田
なぜこんなに固有種が多いかというと、かなり壮大な歴史語りになってしまうのですが、太古の昔、日本は陸続きでした。ここがガラパゴスと違うところで、まず大陸にいるたくさんの生物を抱え込んでいたわけです。それから日本は島国になって生物が独自の進化をしました。
平林
大陸の生き物と島の生き物が共存しているわけですね。
安田
はい。その島も日本には6800以上の離島があるので自然と固有種が多くなります。
平林
世界遺産の屋久島だけでも、かなりの数の固有種がいますよね。
安田
さらにつけ加えると、本土は南北に長いです。標高差も大きいです。日本列島は地形も複雑で降水量も多い。こうした日本の地理・地学的特徴は、たくさんの生命を育てるのに適していたんでしょうね。日本という国土は、生物多様性を持っているということになります。

日本は豊かな自然に恵まれてきた

日本は豊かな自然に恵まれてきた
平林
現代の東京に住んでいるとあまり意識することがないですが、日本は生物に恵まれた土地だということですね。
安田
ところで平林さんはフィンランドのゲーム産業に注目していましたよね。
平林
はい。フィンランドのモバイルゲームは好きですね。日本市場でも好まれるゲームをつくる力、今のところ外国ではトップクラスだと思います。ちょっと前ならば『アングリーバーズ』のRovio Entertainment社、『ヘイデイ』や『クラッシュ・オブ・クラン』のSupercell社。あと、マニアックですが『Stair Dismount』というキャラクターを骨折させるゲームがありますが、これをつくったSecret Exit社もフィンランドのゲームデベロッパーです。
安田
世界ランキングでフィンランドが1位、日本が2位という統計があるんですが、何だかわかります?
平林
え? そんなのがあるんですか?
安田
森林の面積の広さです。専門用語で森林が国土に占める割合のことを緑被率と言いますが、フィンランドは69%で世界1位。日本は67%で世界2位です。ドイツは約30%、イギリスは約10%。ヨーロッパの国々の緑被率は20%台がほとんどです。中国は14%、アメリカは33%だそうです。
※参考: 日本の森林面積について(林野庁Q&A)
※参考: 日本の森林面積について(林野庁Q&A)
平林
それは現在の数字ですよね。
安田
そうです。
平林
ということは、日本という国土が誕生した瞬間に森林が多かった。それに加えて、近代化・工業化が進んでも日本人は森林を大切にしてきたことをあらわしていますね。……うーん、予想外の展開です。ゲームの色の話から四季の文化、固有種、日本という国土に話は転じて森林の広さですかぁ。
安田
来週も色の話をしましょう!
(つづく)
■パーソナリティの紹介

安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。

平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。