『スプラトゥーン』は最高の企画
土本
いいですね。
安田
平林さんは『スプラトゥーン』をどう見ているんですか?
平林
最高の企画だと思います。
安田
最高の企画?
平林
はい。良いゲームってたくさんあるじゃないですか。プレイ感覚が爽快、物語が感動的、思わず熱中する……といろいろなホメ言葉があるわけです。そうした価値観のうちのひとつに「企画がいい」ってありますよね。発想が斬新でわかりやすい。ゲーム内容を聞いた瞬間に「おもしろそう」と感じる。こうしたアイデアの結晶を、「企画がいい」と私は感じます。そういう見方をしてみると……上から目線になりますが『スプラトゥーン』の企画評価は最高の部類に属すんです。過去のゲームでいえば『塊魂』ってあったじゃないですか。
安田
ああ、あのゲームは確かに良いアイデアでしたね。
平林
はい。「企画がいい」、さらに強く言うと、ゲーム企画とはかくあるべし……の代表的な例として私は『塊魂』のことを真っ先に思いつくのですが、それをしのぐ魅力が『スプラトゥーン』にはあると思っています。
土本
塊を転がして大きくする『塊魂』。インクを飛ばしてナワバリを広げる『スプラトゥーン』。確かに斬新ですし、インパクトがあります。
平林
『スプラトゥーン』の基本はいわゆるTPSです。普通は銃で撃って敵を倒すわけですが、そこをひねってインクを飛ばして面積を競う。こういう発想って、とても日本的な考え方だと思うんです。シューティングゲームを直接見せない。シューティングゲームがひな形なのだけれども別物を提供する。オールゲームニッポン的に、やや大げさに言うと、これは「じつに日本らしい見立ての文化のゲームだ」とも思うわけです。


土本
見立て、ですか?
平林
はい。目の前にあるのは灯籠や池だけれども宇宙の広がりを示しているのが日本庭園。一本の扇子で刀やキセルを表現するのが落語。現代の身近な例で言えばリンゴの皮をウサギの耳に似せて切る、なんていうのもあります。哲学的な用語では相同性とか、主客合一性とか。そんな言い方もありますが、オリジナルとアレンジが重なることによって価値が増す。受け手にこうした感覚を与えてくれる『スプラトゥーン』から、日本人が好む見立て文化を感じるんです。
安田
そういえばオトナが真剣に子供の遊びをするというのも日本的ですよね。日本にはプラモデルや鉄道に夢中になる大人がいっぱいいるじゃないですか。
平林
いますね(笑)。
安田
『スプラトゥーン』は水鉄砲の遊びを模して、大人が童心に帰る欲求をうまく刺激していると思いますね。ところで僕が『スプラトゥーン』を見たときの第一印象ですが、海外のスタジオがつくったゲームだと思ったんです。
平林
私もロゴを見た印象はアメリカの会社かなと思いました。
安田
ですが、ゲームの映像をよく見ると……感覚的な表現になってしまいますが、日本人にしか描けないグラフィックスで、しかも海外でもウケる絵だと思ったんですよ。蛍光色の使い方とか、斬新ですよね。あとはキャラクターデザインもいいですよね。
平林
キャラクターの衣装など、細かいところに最先端、流行が取り入れられていますね。
安田
あと、キャラクターはなんと言っても目が大事ですよね。目は口ほどにモノを言うので。
平林
一般論になりますがアメリカでつくられたゲームキャラクターの目は、日本のユーザーから見るときつい印象があるんじゃないでしょうか。対して日本人や柔らかい目つきを好むというか。リカちゃん人形のリカちゃんのフェイスデザインというのはどの方向から見ても視線が合わないように目が描かれているそうです。目が合うことの恐怖を感じないようにつくられているのだとか。このリカちゃんヒットの秘密を知ってから、私もゲームキャラクターの目をよく見るようになりました。
安田
まだ未発表のタイトルなんですが、今、女性キャラクターが多数登場するゲームを開発しています。そのプロジェクトでは、ひとりのキャラクターを目だけ変えて何パターンもつくって、どれがいいのか検証しています。目全体の大きさ、瞳の大きさ、色、顔の中での位置をほんの少し変えただけで印象がかなり変わりますね。
平林
うわー。楽しそうなゲーム開発ですね。
安田
詳しくはお話できませんが期待してください。ところで『スプラトゥーン』は何本くらい売れると思いますか?
平林
本数予想は難しいですね。ひとつ注目しているのはイカというキャラクター設定ですね。TPSをインクを使ったナワバリ争いにする企画は世界で通用すると思うんです。キャラクターデザインもいいです。ですが日本人と外国人ではイカに対する印象が違うと思うので、この見立てがどこまで世界に通用するのか。イカがイカに受け入れられるか。世界市場での売上はイカにかかっていると思います。
(次回配信は6月26日予定です)