
「世界初!VTuberがランウェイを歩く日」
9月29日に幕張メッセ(9・10ホール)にて催されたVTuberによるファッション×音楽イベント「FAVRIC」。キャッチな上記コピーを引っ提げ、怒涛のごとくVTuber×音楽イベントがひしめいた令和元年の夏を締めくくった本公演は、会場で5,100人もの観客を熱狂させ、ニコニコ生放送の視聴者数はイベント終了時点で約8万人、Twitter上の総ツイート数も優に11万を超え(日本トレンド1位と世界トレンド2位)を記録しました。
巨大なスクリーンに加え、観客席へせり出したランウェイにLEDパネル15基が配置されたステージで、ミライアカリ、電脳少女シロ&アイドル部、ピンキーポップヘップバーン、MonsterZ MATE、YuNi、KMNZ、樋口楓、花譜、EGOISTといった錚々たる出演者が、従来のVTuberライブとは一線を画す空間的なパフォーマンスを披露。


本イベントが謳い、多くの人が興奮を覚えた「FASHION」「MUSIC」「VR」の融合とはどういうものだったのか。本稿では、その一部始終をしたためたレポートを紹介します。
◆開幕ミライアカリ節。天真爛漫なDJパフォーマンス


来場者の誘導が間に合わず、約40分押しで幕を開けた「FAVRIC」。Twitterでは印象的なキャッチフレーズ「ついてこい 人類。」を揶揄した「待ってくれ、人類。」ツイートが散見され始めていたものの、オープニングDJとしてミライアカリが登場すると、一気に会場はサイリウムのブルーと歓声に包まれます。
さすがはアニソン系音楽フェス「Re:animation 13 in ageHa」でDJ経験のあるミライアカリ。『Up-to-date』にはじまり『Life is tasty!』『ヒトガタ』『Hello, Morning』といったVTuberシーンおなじみのチューンから、星宮とと『ネオンライト』、DJきつね『i,mpossible』といったツボを押さえたラインナップに場内ボルテージはグングンと上昇。ここぞとオリジナル曲の3連続畳み掛けに、その熱は早くも最高潮に達します。捌けの際にはグリーンバックが映ってしまうというコミカルな一幕も。

その選曲もさることながら、特に筆者の印象に残ったのはスクリーンに映し出されたミライアカリの大きさ。VRにしろARにしろ、何故かVTuberのライブステージは演者を等身大に表示しがちなのですが、メインスクリーンいっぱいにデカデカと投影された彼女は、遠くからでも表情や仕草を視認しやすい。空間支配感が強調され、さながら『マクロスプラス』に登場するシャロン・アップルのようでした。
◆VTuberがランウェイを歩く


オープニングDJが終わると、いよいよVTuberによるファッションショーがスタートします。メインスクリーンとランウェイ上のパネルが連動し、目まぐるしく繰り広げられるのは、オリジナル衣装を身にまとったメインアクトらのキャットウォーク。
衣装はそれぞれテック系デザイン会社「ish inc.」や、デザイナーの「TENDER PERSON」「ファンタジスタ歌麿呂」、CGデザイナーの「齋藤彰」など。得意領域がまったく違うメンバーが手掛けたものです。各衣装に込められたコンセプトについては数量限定のパンフレットに明記されており、要約すると下記の通り。

声援によってパターンが変化する“声援を着る服”

あらゆるデータを着こなせるVR世界は、天候までもが着こなしの対象

衣装のまとう「重力性」。その挙動の制御こそがVRファッションの鍵

リアル空間では素材として扱えない炎も、プリントの一部として制御可能に

仮想が現実の鏡となる。このドレスはそんなひっくり返った関係性(幻想)を提示する

服が変形するのではなく、着る者自身の形状を変えてしまう服


よそ行きと内向きの自分を同時に実現するギミックを搭載。個性を活かし個性を隠すアイドル衣装

「未来」が減算により最後に残るものを個性と見出すのに対し、「しろ」は加算により理想へと迫る

成長する被服。現実世界のダメージジーンズのように、経年変化するよう事前に設計されている
デザイナーらが提示したのは、単にビジュアルだけない、バーチャルカルチャーとの親和性を考慮した新時代のファッションでした。物理法則という制約から解き放たれるからこそ、作家の思想性がより顕著に現れています。
ただ向こうから歩いてくるだけ、だからこそ際立つ「奥行き」表現。ファッションという要素を差し引いても、メインモニター内の世界からランウェイへ歩いてくる演出は、バーチャルな存在の実在感をブーストさせます。ただ筆者が少々気になったのは、複数人がポーズを決めるときに、度々起こるモデルの貫通。例えば、ポージング中に傘が頭にめり込むなどは非常に勿体ない。“姿”のショーケースなのだから、そこは注意を払ってほしかった点です。
◆音楽ライブパートでも奥行き表現を維持


ファッションショーが終わると、出演者全員による人気ボカロ曲『ロキ』の大合唱が。ここからは音楽ライブパートがスタートです。メインスクリーンにアイドル部、ランウェイ上の各パネルにその他アクターが映し出されると、こちらのパートでも平面的に留まらない新しいパフォーマンスが展開されていきます。















特筆すべきは、やはり8月1日のワンマンライブ「花譜不可解」から特異な存在感を放ち続けている花譜。3曲目『魔女』の歌唱時、曲の展開に合わせて衣装が変化するパフォーマンスには感嘆の声が上がりました。




音楽ライブパートのトリは、人気音楽グループのEGOISTが務めました。ボーカルを担当するchellyはVTuberではないものの、フォトリアルのアバターをまとってステージに登場。『名前のない怪物』『The Everlasting Guilty Crown』『英雄 運命の詩』は、それぞれ主題歌を担ったアニメ映像が背景に流れ、その世界観へと会場を引きずり込んでいきます。
最後を飾った『咲かせや咲かせ』では、VTuberのアクト全員がメインスクリーンに勢ぞろい。大歓声に包まれながら、本イベントのメインプログラムは終了しました。

アンコール後は、公募で集まったVTuber全員による合唱で大団円
タレントと観客が、平面のスクリーンを介した一方向な関係になりがちだったVTuberのリアルライブイベント。そこにランウェイという“奥行き”を設けた「FAVRIC」は、そんな現状に一石を投じたといっても過言ではないでしょう。参加者がアリーナのどこにいたかによって、イベントに対する印象が変わるのがライブイベントの醍醐味だと筆者は考えているので、本イベント的表現が広まれば、集客にあえぐVTuberフェスイベントへ“足を運ぶ理由”もさらに増えるのではないかという期待が持てました。
とはいえ、建付けである「バーチャル×ファッション」という一軸で見たときのコンテンツボリューム。VTuberならではの演者と観客とのコミュニケーション面でのインタラクティブ性に関しては、少々物足りなく感じたのも事実。さらに客席によっては、パネルが被って他のスクリーンの様子が全く見えないという声も。
課題は多くあるものの、各演目からMCまで“地続き感”のある構成は素晴らしく、さらに研鑽を重ねていくことでアニソンシーンの「アニメロサマーライブ」、ボカロシーンの「マジカルミライ」のような、VTuberシーンに根付いていくことになるかもしれない……そんな可能性を示してくれました。

本イベント「FAVRIC」はニコニコ生放送にて、プレミアム会員限定でタイムシフトが公開中なので、従来のVTuberライブに飽食している方にこそ、是非ともチェックしてほしいところです。