『あつまれ どうぶつの森(※以下、あつ森)」ではゲーム中でのアクティビティとして海や川で魚釣りをすることができます。
しかも季節や時間帯によって釣れる魚が変わってくるのがミソ。その時々でしか釣れない魚もいるのでやり込みがいがあるというわけです。
しかし、中には季節を問わずいつでも釣れる、やたらと釣れる魚もいたりします。海だとスズキやアジ、川だとブラックバスやフナあたりがそれに該当します。

こうして魚種を並べてみると、誰もがその名を知り、リアルで姿を見る機会も多い超メジャー魚ばかり…という印象ですよね。
一般的な魚がこの「いつでもどこでも見られる魚」ポジションに収まるのは至極当然の成り行きと言えるでしょう。
ただ、プレイしていて「これは一般的、あるいはメジャーどころと言えるのか…?」と首を傾げてしまう魚も。
たとえば彼らとか!

はい。『あつ森』世界の川でカンタンに釣れる小魚「ドンコ」です。
ドンコ!聞いたことあるようなないような…という方は多いかもしれませんが、フナやアジなどと比べると知名度が数段落ちる魚と言えるでしょう。
この魚の正体を正確に把握している人はなかなかの魚好きか、川遊びを嗜む人にちがいありません。

西日本に多いハゼ
ドンコは主に西日本の河川に分布するハゼの一種です。…この時点でもう全国区な魚とは言いがたいわけですよね。関東地方にはもともと生息していなかった(人が持ち込んで繁殖した例はあり)のですから。
また、川に棲むハゼの仲間(ゴクラクハゼやカワアナゴなど)はそのほとんどが稚魚時代を海に降りて過ごします。そういう意味では純粋な淡水魚とは言えないのかもしれません。

ところがこのドンコは海へ降ることなく、生涯を淡水域のみで過ごすことが知られています。淡水産ハゼの中ではかなり変わり種なライフサイクルを持っているのです。
大きな口でエサを丸飲み!
作中でフータさんも言及していますが、ドンコは大きな頭と口を持っており、その見た目に似合う貪食ぶりが知られています。

捕食スタイルはアンコウやカサゴのような待ち伏せ型で、目の前を動くものなら小魚、エビ、カニ、水生昆虫とあらゆる生物を剣山のような歯で押さえ込み、丸飲みにしてしまいます。
僕は自宅でドンコを飼育していたこともあるのですが、何気なく水槽に突っ込んだ指に食いつかれたこともあります。
顎の力も強いので、そこそこ痛かったです……。


同名(?)の他人(?)に注意!
なお、ドンコという魚を語る上で決して避けては通れないちょっと厄介な話があります。
実はドンコという魚はドンコ以外にもいるのです!
たとえばドンコ以外のハゼ類をいっしょくたに「ドンコ」呼びするケースがあります。
それだけでなく、さらにややこしいことにハゼとは縁遠いタラの仲間にも「ドンコ」と呼ばれる魚がいます。
エゾイソアイナメあるいはチゴダラと呼ばれる魚がそれで、むしろ水産業界や食品関係者の間ではこちらの「ドンコ」の方が知名度が高いように思われます。

川のドンコは西日本にはあまりいない魚なので、地域によって呼び分けができているとも言えますね。
これら海のドンコは味が良く、北国では鍋などにして賞味されるのです。
特に大きな肝臓は味わい濃厚。一食の価値ありです。
一方、今回の主役である川のドンコも、あまり一般的ではないながらもおいしく食べることができます。肉質はハゼらしくホクホクした白身でうまみもしっかりしており、天ぷらや吸い物などに合います。

……まあ大きくても20センチちょっとと小型な上、あまりたくさん採れるものでもないので市場にはほとんど出回りませんが。
というわけで『あつ森』のドンコは「やたら釣れるわけわかんない小魚」ではなく、なかなか面白いエピソードに満ちた良い魚なんですよー!ってことをぜひ覚えておいてください!

『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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