『あつまれどうぶつの森(※以下、あつ森)』をプレイしていると、何もいない場所でなぜか虫の鳴き声が聴こえてくることがあります。
この謎の現象に、ほとんどのプレイヤーが一度は戸惑ったのではないでしょうか。何かがいるのに何も見えない…というのはゲームでもリアルでも心が痒くなるものです。
その声の主は、周囲の地面を手当たり次第に掘り返すことで正体を表してくれます。


変わりだねの昆虫、「オケラ」です!
オケラとはいわゆる俗称であり、図鑑などに載る際はより標準的な和名である「ケラ」と表記されます。

水・陸・空・地下、どこでもいけます!
ケラはコオロギに近縁な昆虫ですが、そのシルエットはたいへん独特で、あまりコオロギっぽさがありません。

それもそのはず。草むらや林床に暮らすコオロギと異なり、なんとケラはモグラのように地中にトンネルを掘って生活しているのです。
それだけライフスタイルが違えば、見た目が似ても似つかないのは至極当然のことと言えるでしょう。

まるで熊手やモグラを思わせる、大きく発達した前脚は効率よく土を掘るためのもの。
卵型の滑らかな頭部~胸にかけてのラインは掘り返した土を受け流すデザイン。

コオロギやキリギリスに比べてやたら短い中脚と後脚は、ダックスフントの脚と同じように狭いトンネル内での取り回しに特化したものと考えられます。
なお、陸上では後脚を駆使してピョンピョンと跳ねることもできます。
さらに、ケラは水田周りや河原など水気の多い環境を好むため、泳ぎもとても達者です。
全身が短い毛で覆われてビロードのような質感なのですが、この微細な毛のコーティングは体への土の付着を防ぐほか、水もよく弾きます。これにより、彼らは水に浮いてモーターボートのように泳ぎ回ることができるのです。
それから、小さいながらもしっかり飛翔能力を備えた翅ももっています。
つまり、いざとなれば水陸空地中で活動できるオールラウンダーな昆虫なのです。
こうして見ると、不思議な姿でありながらも、なかなか機能美に溢れた昆虫だといえそうです。

しかし、さすがはコオロギファミリーの端くれといったところでしょうか。
オスのケラは求愛のため、翅を擦り合わせて「鳴く」ことができます。
『あつ森』ではこの声がしっかり再現されています。あの「この辺でなんか鳴いてるのに何も見当たらない……」という奇妙な感じも再現度高しです。
ミミズの鳴き声=ケラの鳴き声!?

ちなみに、かつて地中から響くケラの鳴き声は「ミミズの鳴き声」と誤認されることもあったそうです。
たしかにケラは雑食性で、動物質の餌としてミミズをよく捕食しています。つまり、ケラが生息しているところには必然的に多数のミミズもいるものなのでしょう。
ケラの鳴き声が聞こえる→声のするあたりを掘ってみる
→機動力の高いケラは先に逃げる→のろいミミズたちが掘り当てられる
→あの声はミミズのものだったんだ!!
という流れでこんな人違い(虫違い?)が生まれてしまったのかもしれません。
偏食家な天敵も
ちなみに地面の中なら敵なんていないだろうと思われがちですが、地中ではモグラに捕食されるほか、ミイデラゴミムシという甲虫にもつけ狙われます。

このミイデラゴミムシはケラ以上に変わった虫で、幼虫時代はなんと「絶対にケラの卵しか食べない」という究極の偏食ぶりを見せます。
こんな熱烈なファンに追いかけられたのでは、いかにオールラウンダーなスーパースペック昆虫といえど、案外と気が休まることはないのかもしれませんね。
なお、『あつ森』でもオケラ出現期は5月いっぱいでいったん終了します。
まだ捕まえていない人は早めにゲットしておきましょう。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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