
「いつかきっと夢で出会ったような王子様が…」
『マール王国の人形姫』は、ドット絵で描かれたキャラクターたちが、ストーリーの進行に応じてミュージカルのように歌って踊るシーンが特徴のミュージカルRPGです。人形たちの言葉が分かる不思議な力を持つコルネットは、恋に恋する夢見がちな女の子。祖父、そしておしゃべりな人形のクルルと共にオレンジ村の片隅にある人形館で暮らしており、「運命の王子さま」との出会いを夢見る、恋に恋する女の子です。


ちなみにコルネットが人形と会話できるのは村の人たちもよく知るところで、村人たちも彼女を白い目で…見ることはまったくなく、むしろ、みんないつも明るい笑顔を振りまくコルネットが大好きなのです。あったけぇ…。

そんなある日、コルネットは採集に出かけた森で魔女のミャオに因縁をふっかけられ、さらにドラゴンをけしかけられて大ピンチ!そんな彼女の窮地を救ったのは「頭がよくて、カッコよくて、優しくて、剣のウデもバツグン」と評判のフェルディナント王子でした。
しかも、近々開催される「ミス・マール王国コンテスト」の優勝者は、そんなフェル王子の婚約者候補になれるというではありませんか。「王子様」との出会いを夢見ていた彼女もさすがに「まさか、本物の王子様に振り向いてもらえるはずがない」と尻込みしますが、クルルに「女は行動力!」とたきつけられてコンテストへの出場を決意しますが……?
「こういうのでいいんだよ」にあふれたハートフルファンタジー
本作はドットで描き込まれたグラフィックや要所で挿入されるミュージカルシーンが大きな魅力ですが、それらに負けない特徴が「ヘイトのたまらないキャラクターたち」だと思っています。

おしゃべり人形のクルルは姉のように、時には母のようにコルネットを見守ります。コルネットの幼なじみである貴族令嬢のエトワールは貴族らしくお高く止まった女の子ですが、フェル王子の心を射止めることには関心がなく、コルネットの恋をそれとなく後押ししてくれます。

そして、とある理由でコルネットと敵対する推定ウン百歳(ただし見かけは若作り)の魔女マージョリーは物語を大きく引っかきまわす「悪役」ですが、肝心なところでツメが甘く、さらに3人の家来にはディスられ放題だったりと、いまいち憎めないキャラクターとして描かれています。
コルネットの冒険にはとある悲しい出来事も待っていますが、それも取ってつけたような「鬱展開」ではなく、むしろ彼女と、彼女を取り巻く人たちの絆の美しさを描くものでした。
本作の前年には『マリーのアトリエ』が発売されていたこともあり、当時の筆者の中では「明るくてバイタリティあふれる女の子を主人公にした、ほんわかファンタジー」が実に熱かったのを覚えています。

今日の日本一ソフトウェアを代表する『魔界戦記ディスガイア』のシリーズ第1作は2003年発売だったこともあり、当時の同社はまだブランドとしての顔やイメージが固まっていない頃だったといえます(『炎の料理人クッキングファイター好』はものすごい異彩を放っていましたが)。
そんな折にリリースされた『マール王国の人形姫』は、魅力的なキャラクターやストーリー、類を見ないミュージカル風の演出、かねて『エメラルドドラゴン』などで知られていた佐藤天平氏によるサウンドで、同社のイメージを定着させた渾身のタイトルであったと思います。
本作は2006年からゲームアーカイブスで配信されていますが、2022年8月にSteamでも配信が始まりました。フルスクリーンに対応しているほか、「CRT」「Smooth」などの画面フィルターがあるなど、丁寧な作りであると感じます(本記事の画面写真は、すべてSteam版を「CRT」フィルターでプレイしたときのものです)。
20年以上前のゲームであるだけに、要求されるPCのスペックも決して高いものではありません。ぜひ、初代PSの古き良きRPGを楽しんでみてはいかがでしょうか。
そしてシリーズ2作目の『リトルプリンセス マール王国の人形姫2』、3作目の『天使のプレゼント マール王国物語』もSteamで配信されないかなと願うばかりです。

