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「マジンガーZの呪い」にマクロスとアトムの関係!?メカデザイナー宮武一貴氏の「みかさロボ」トークショーレポ

日本メカニックデザイナーの始祖が明かす、ロボデザインの方法論から日本アニメ史の裏話、そして「日本の巨大ロボット群像」展にかけた想いと秘密とは。

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みかさロボのラフデザインを見ながら、デザイン課程や裏設定を語る宮武一貴氏(右)と聞き手の森田繁氏(左)。
  • みかさロボのラフデザインを見ながら、デザイン課程や裏設定を語る宮武一貴氏(右)と聞き手の森田繁氏(左)。
  • 三笠を分割してロボットにするためのアイデアメモを書き込んだ図を前に語る宮武一貴氏。
  • 左手の衝角(ラム)と右手のスクリューがよく判るみかさロボ・デザインラフの背面図。
  • 宮武一貴氏がこだわった、みかさロボの腰のボイラー周辺の描き込み。蒸気で動くスチームパンクロボなのだ。
  • みかさロボ脚部のスチームラジーエター(復水器)の説明書き。宮武氏の細部までのこだわりが出ている。
  • トークショー会場に展示された宮武一貴氏が大学生のときに始めて描いたイラスト。映画「2001年宇宙の旅」を見て、資料も見ずに記憶だけで描いた宇宙船ディスカバリー号。
  • 横須賀の海際に建てられた横須賀美術館の本館。宮武一貴氏によれば、構造的にはタンカーなのだという。
  • 宮武一貴氏が今回、「巨大ロボットを巨大に描く」というコンセプトで描いた壁画の1枚。その真価は、実際に美術館に行って見て体験しないと判らない(右側には「みかさロボ」のデザインラフの展示もあります)。マジンガーZとライディーンの巨大壁画もあるので、現地で確認してください。
みかさロボのラフデザインを見ながら、デザイン課程や裏設定を語る宮武一貴氏(右)と聞き手の森田繁氏(左)。

メカニックデザイナーの元祖・宮武一貴氏(スタジオぬえ所属)のトークショーが、「記念艦三笠」内の講堂において開催されました。

鉄人28号に始まる巨大ロボットの歴史と資料を展示する「日本の巨大ロボット群像」展が横須賀美術館において開催中で、宮武氏は巨大な壁画を2枚も描いた上に、横須賀にある戦艦三笠(記念艦三笠)を巨大ロボットに変型させた「みかさロボ」もデザイン。みかさロボは、横須賀市が運営するVRChat上の「メタバースヨコスカ」内で立体化され、VRでその巨大な勇姿を堪能し、自分で操縦して動かすこともできます。

この日のトークショーでは、前半はみかさロボに込められた宮武氏の巨大ロボットデザイン方法論やスチームパンクな裏設定、後半は「日本の巨大ロボット群像」展を巡って、日本のアニメ史にまつわる秘話も明かされました。

司会進行を務めた同じくスタジオぬえ所属の森田繁氏と、古参のSF関係者ならでは悪ノリジョークや宮武氏ならではの裏話も次々と飛び出して、会場は笑いと驚きに包まれました。今回はあまりに危ない話は収録を避けましたが、それでも貴重な話のオンパレード。これから「日本の巨大ロボット群像」を見に行く人も、既に展示を楽しんだ人にも必読の内容となっています。

宮武一貴

1949年生まれ、横須賀市在住。「スタジオぬえ」の創立メンバー。
メカニックデザイナー、イラストレーター、コンセプトデザイナー。「機動戦士ガンダム」のモビルスーツの元となったパワードスーツや、「超時空要塞マクロス」では宇宙戦艦が人型に変型するマクロス艦をデザイン。「聖戦士ダンバイン」では、昆虫をモチーフとしたダンバインなど。「宇宙戦艦ヤマト」、「さらば宇宙戦艦ヤマト」のアンドロメダ、劇場版「銀河鉄道999」のアルカディア号などの宇宙船やその他のメカデザインはもとより、豊富な知識と理論とコンセプチュアルな発想で、動植物、建築物から惑星まで様々な作品世界のデザインを生み出し続けてきた。

森田繁

1959年生まれ、東京都杉並区出身。脚本家。スタジオぬえ所属。
大学在学中に「ガンダムセンチュリー」※に制作進行デスクとして携わり、そのまま業界入りを果たした。メカに関する知識が豊富で、アニメ業界に入って1番最初に参加した作品は「超時空要塞マクロス」。スタジオぬえに入社後、最初に携わった作品は「聖戦士ダンバイン」で、SF設定などをした。

※「ガンダムセンチュリー」:正式には「宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY」。1981年にみのり書房の月刊OUT(サブカル的アニメ雑誌)編集部から出版された機動戦士ガンダム関連ムック。河森正治氏、美樹本晴彦氏、大野木寛氏らが大学生時代に刊行した同人誌「GunSight」で考察したモビルスーツの設定考証を発展させたものを掲載。これがモビルスーツ設定の公式のようになった。

また、加藤直之氏、宮武一貴氏らによる美麗なオリジナルイラストによるガンダム前史の考察やオニールのスペースコロニー計画の紹介、映画評論家・白井佳夫氏を交えた日本映画の歴史の中でのガンダムの位置付けの考察など、現在に到るアニメ関連ジャーナリズムの嚆矢となった。

「日本の巨大ロボット群像」展の入口に展示された小説「宇宙の戦士」口絵(加藤直之氏、宮武一貴氏 作)。このパワードスーツがガンダムのモビルスーツへ発展していった。

◆船がロボットになるのは河森正治氏が言い出した

森田:なんで三笠をロボットにしようと思ったんですか?

宮武:厳密に言いますと、スタジオぬえの河森正治※が宇宙戦艦ヤマトをやったときに、「これ、ロボットになるよね」と言いました。ヤマトをロボットにするんだったら、それはやってできないことはない。それが結果としてマクロスになるんですけど。

森田:それ、いつ頃の話ですか?

宮武:ヤマトが終わってスタジオぬえに、河森たち※が遊びに来るようになって、ヤマトの設定書のコピーを引っかき回していたときのことです。

森田:ガンダムの前ですよね?つまりそれは、河森がどうかしているっていう話ですよね(会場笑い)

宮武:(河森氏が)どうかしているっていうのは、当たり前のことなんだよね。(会場笑い)。ただ、日本でやるなら順番としては、大和は後だよね。

※「河森正治氏」:メカニックデザイナー、演出家、監督。元スタジオぬえ社員。「超時空要塞マクロス」の「VF-1 バルキリー」のデザインなどで知られ、映画「超時空要塞マクロス 愛・覚えていますか」で監督デビュー。以後、マクロスシリーズの監督・原作などを務める。

※「河森たち」:おそらく、河森正治氏の高校・大学の友人だった美樹本晴彦氏(イラストレーターなど)、大野木寛氏(脚本家)たちのこと。大学時代に機動戦士ガンダムを多角的に考察した同人誌「GunSight」を発行し、マクロスでプロデビューした。マンガ家の細野不二彦氏も級友でスタジオぬえに所属していた。

森田:何を言っているのか、ちょっとわからない。

宮武:ロボットに変えるんだったら、三笠まで時代を遡らないと。

森田:でもそれは今回の企画に直接直結はしてないわけですね。

宮武:全くしてないですが、僕の頭の中ではしてますよ。

森田:そこがみんなわかんなくて困るんですよ。いつも。

宮武:デザイナーの頭の中ってのは、そのくらい狂ってるもんです。

森田:えーっと、横須賀市から三笠をロボットにしてほしいって発注があったんですか?

宮武:ですから、横須賀市もどうかしてるっていうことです(会場爆笑)。



◆軍艦のさばき方

森田:宮武さんは横須賀が地元ですから、三笠にはたくさん足を運ばれてると思いますけども、遊びに来た時に、これがもっとあったら凄いな、みたいなことを夢想したりとか暴走するような遊びをやったりしたわけですか。

宮武:軍艦をロボットにしようという、危険な考え方はしていませんでした。最終的には軍艦をロボットにするのが商売になっちゃいましたけど、宇宙戦艦ヤマトのときにはヤマトをロボットにしようとは思っておりませんでしたね。

森田:三笠をロボットにと話をいただいた時に、そのコンセプトはどんな風に考えられたんですか。

宮武:横須賀は三浦半島という魚の多い土地ですから。つまり軍艦のさばき方っていうのは、基本的には魚のさばき方、マグロをさばくのとあんまり変わらない。

森田:龍骨があって、こう横に骨がある。

宮武:そんな感じで3枚におろせばいいわけです。で、トントンと両脇の腹を前甲板、後甲板と切り分けて、それで腕にして足にするという(会場笑い)。

森田:多分私の聞き方が悪いんだけど、それは手法であって、コンセプトの話じゃないよね。

宮武:コンセプトはありません。やれるようにしか、できないんです(キッパリ)。

森田:何が言いたいかっていうと、例えばマクロス艦なんかの場合はおもちゃにするっていうことが大前提だったから、下の方に車輪が出るようにして、子供が床の上で「転がし遊び」ができることが必要だっていう、当時のスポンサーとのお話もあった。

今はそういう商品化っていう縛りがないじゃないですか。そうするとデザインの段階で、ある程度は自分に縛りというかコンセプトをつけていかないと、やりにくいのではないか。それとも、そんなことはないのかなっていう。

宮武:単純に言えば、マクロスっていうのは、船です。寝ている船を立ててやればもう人になっちゃうんです。基本的にあんまり苦労はない。ただ、手を2本、足を2本、どうやって付けようかなという。いや付ける必要はない。最初からそういうにデザインしちゃえばいいじゃないか。

で、二本の足、二本の腕がある形でマクロスをデザインしました。三笠の場合は艦底が1つです。だからそれを切り分けないとしょうがない。つまり、魚の捌き方になっているわけです。

◆サンライズの伝統「一点四方」とは?

森田:三笠の実際の船の絵(CG画)に宮武さんが赤線を入れて分割のアイデアを描いたスケッチがあるので、それを見せていただけますでしょうか。

三笠を分割してロボットにするためのアイデアメモを書き込んだ図を前に語る宮武一貴氏。

宮武:実験的なテスト段階ですね。エンジン関係はボイラーがどこにあって、三笠のボイラーってどういう格好だろうか。それ自体を僕は知らなかった。だけど結局はボイラーで動くものだから、スチームに関しては復水器があるだろうなあ、とかいうのを頭の中で考えて、レイアウトを大雑把につけて、ボイラーを中心とした艦の背中を作ったわけ。

森田:なるほどね。だから、船の心臓から血管が走っていくようなイメージっていうのは正しいのか。

宮武:そうですね。基本的に煙突が2本。マストが前後に2本。前部ブリッジがあって、後部ブリッジがあって、主砲が前後に2つ。だったら、この主砲を両肩の上に載せる。ブリッジは基本的には前後合わせて1つにまとめたい。

2本のマストはどう置くか?真横に2本開いて(間を空けて)置く。軍艦の煙突というものは割と大きなポイントで、宇宙戦艦ヤマトではミサイルランチャーに変わりましたけども、何らかの特徴的な部分ではあるわけです。

森田:本物の船だったらば、煙突の真下に主機があるわけですね。

宮武:三笠の場合はボイラー室があって、さて煙突をどういう風に置くか?マストは2本垂直に立った。だけど、煙突も垂直になっては、垂直の要素が多すぎる。これだけ太くてごついものだったら、V字型に開いちゃえばいい。(ロボットのデザインに)慣れている人間にとっては、ロボットもののひとつの特徴としてね。

森田:「一点四方」ですね。

宮武:それは実はサンライズ※しか知らない言葉なんですよ。

森田:「一点四方」っていうのは、ロボットの人型の胸の中心あたりから四方八方に、ぱっと星が伸びるように手足が伸びて、シルエットが広がっていくっていく感じですよね。

宮武:そういう風な格好の付け方ですよね。ところが、この話をビーボォーの湖川さん※にしたところ、彼はわからなかった。

森田:それはホビー業界というか、トイ業界のメソッドだったということですか?

宮武:トイ業界のメソッドでさえもなかった。サンライズという非常に特殊なロボットものに慣れている土地の、慣れている環境の中のごく一部のデザイナーしか知らなかった。

※「サンライズ」:アニメ制作会社「日本サンライズ」のことで、手塚治虫の虫プロから独立した有志が設立した創映社が源流富野喜幸(由悠季)監督の「無敵超人ザンボット3」「無敵鋼人ダイターン3」「機動戦士ガンダム」「伝説巨人イデオン」「戦闘メカ ザブングル」「聖戦士ダンバイン」「重戦機エルガイム」、高橋良輔監督の「太陽の牙ダグラム」「装甲騎兵ボトムズ」「機甲界ガリアン」「蒼き流星SPTレイズナー」、神田武幸監督の「銀河漂流バイファム」、安彦良和監督の「巨人ゴーグ」などを制作して、1980年代のリアル巨大ロボットアニメ黄金期を築いた。また制作を請け負ったロボットアニメ作品として「勇者ライディーン」「超電磁ロボ コン・バトラーV」「超電磁マシーン ボルテスV」「闘将ダイモス」などの変形合体ロボットアニメがある。1994年にバンダイの傘下となり、2022年にバンダイナムコフィルムワークスと商号変更。「サンライズ」はブランド名として残された。

※「湖川さん」:湖川友謙(こがわとものり)。アニメーター。「無敵鋼人ダイターン3」(別名義)「伝説巨人イデオン」「戦闘メカ ザブングル」「聖戦士ダンバイン」で富野喜幸(由悠季)監督作品のキャラクターデザイン、作画監督を務めた。ビーボォーは湖川氏が主催する作画スタジオである有限会社ビーボォー。北爪宏幸、大森英敏、平野俊弘、板野一郎などなど人気アニメーターが在籍した。

森田:ということは、巨大ロボットものであっても、東映動画の「マジンガーZ」とかの流れではなくて、その後のライディーンとか、あの辺からの流れの中で生じたコンセプトっていうことですか?

宮武:あれは手塚さんがらみのコンセプトなんです。

森田:虫プロ※由来ってことですか?

宮武:そうです。湖川さんはどちらかというとタツノコ由来だった。

森田:流れは東映・タツノコ・虫プロと分かれますもんね。

宮武:はい。で、湖川さんが「誰から、それ聞いたの?」って。ブチ※か誰かが、ダンバインのときに湖川さんから「俺その言葉知らないけど」と言われたと聞いています。

※「虫プロ」:マンガ家・手塚治虫がアニメ制作のために作った制作会社「虫プロダクション」。機動戦士ガンダムの主要スタッフだった富野由悠季、安彦良和、星山博之、「あしたのジョー」などで知られる出崎統、杉野昭夫などを輩出。1973年に倒産。手塚治虫のマンガ制作会社だった「手塚プロダクション」とは別会社。

※「ブチ」:出渕裕氏。メカニックデザイナーとして活躍し、デザインした作品は「ブチメカ」と呼ばれた。宮武一貴氏がメインのオーラバトラーをデザインした「聖戦士ダンバイン」にもメカニックデザイナーとして参加。その後「機動警察パトレイバー」を企画・制作した「ヘッドギア」のメンバーのひとりとなる。さらに「宇宙戦艦ヤマト2199」の総監督を務めた。

森田:じゃあ、もうこの時点で、三笠の艦首と艦尾をそれぞれ、右手と左手にするっていう案は固まっている状態だったと思っていいですかね。

宮武:艦首と艦尾は真ん中に据えたいんですよ。なぜかというと 菊の紋章をどこに据えるかって話で、あれを艦の前と後ろには必ず付けたい。あれを両腕に付けるわけにはいかない。だったら艦首と艦尾は上下に切り分けて艦底側を両腕にすればいい。

宮武:で、当時の第一次大戦艦で特徴的なのは、艦首が衝角(ラム)上に前に伸びているわけ。その辺の今度はデザイン的なものとして、これを両手にまとめる。

森田:(ラムは)「バルバス・バウ」※になる前の時代ですもんね。

※「バルバス・バウ」:船の造波抵抗を打ち消すために、船首の底の先頭に設けられた球状の突起のこと。宇宙戦艦ヤマトの波動砲の下に位置するアレ。

宮武:三笠は、鋼鉄化になった時代でもラム(衝角)がまだ軍艦のデザインに生き残っていた世代なんですよね。

森田:ドレッドノート※の前の戦艦としての最後の世代。

宮武:だけど、第2次世界大戦の戦艦になってしまうとラムはなくなってしまう。

森田:そもそも大砲で倒せるんだったら、体当たりする必要ないじゃないかっていう風になったわけですよね。

宮武:そうです。

森田:今回、「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」で思いっきりラム戦※やっているんですけど、あれは福田さん※の男のロマンなんで(会場笑い)。あのラムの名前を「轟天」※にするから理由を考えてくれって俺言われて、凄く困って(会場笑い)。

森田:で、(みかさロボに話を戻して)左腕がラム、右腕がスクリューに。

宮武:上下ひっくり返した方が面白いんじゃないかと提案されまして。そうか、ひっくり返せばなんかラムがいい感じにつくなと。

森田:うん。あれ(ラム)で殴られるとなんか痛そうだなっていう感じはした。

左手の衝角(ラム)と右手のスクリューがよく判るみかさロボ・デザインラフの背面図。

※「ドレッドノート」:1906年に就役したイギリスの戦艦。それまでの戦艦の概念を一新し、蒸気タービンエンジンと30.5cm口径の2連装砲塔5機を搭載した。それ以後の戦艦建造の基準となり、「弩級戦艦」(どきゅうせんかん)「超弩級戦艦」という言葉が生まれた。現在も「超弩級」という言葉は“基準を遙かに超えて強力”といった意味で一般に使われている。

※「ラム戦」:軍艦の船首の艦底部に衝角(ラム:ram)と呼ばれる角(つの)状の突起を設けて、体当たりで敵を沈める戦法。古代ギリシアから始まり、大砲の登場によっていったん廃れたが、装甲艦の登場で大砲の威力が足りなくなった19世紀後半に蒸気機関の推力を活かして再びラムが装備されるようになった。三笠は1902年竣工でラムを装備した軍艦として最後の世代。

なお、TVアニメ「宇宙海賊キャプテンハーロック」(1978年)では、ラム戦が宇宙海賊船アルカディア号の必殺技だった。またTV版の「超時空要塞マクロス」(1982年)では、マクロスの右腕にあたる強襲揚陸艦ダイダロスで敵艦を殴って突き刺し、内部からデストロイドがミサイルを打ちまくる「ダイダロスアタック」という必殺技があった。

※「福田さん」:福田己津央(ふくだ みつお)氏。「機動戦士ガンダムSEED」シリーズ監督。2024年には「グレンダイザーU」の総監督を務める。

※「轟天」:1963年に東宝が制作した特撮映画「海底軍艦」に搭乗する万能戦艦の名前が「轟天号」。先端の巨大なドリルが特徴。轟天号もしくは轟天の名前は「惑星大戦争」「ゴジラ FINAL WARS」など東宝の特撮映画で繰り返し使用されてきた。

◆みかさロボがシリーズ化?

森田:ちょっときな臭い話になると、戦う相手とか仮想的っていうのは想定しながらデザインしたんですか。

宮武:猿島ぶんなぐってもしょうがないでしょ(みかさロボはメタバース猿島とともに、横須賀市上空に浮かんでいる設定)。

森田:やっぱ軍艦って戦う船だから相手がいないと 成立しないんだよね。でも、それって平和利用に抵触するし、いつも揉めるとこですよね。

宮武:僕に提案してきてくれた人がいましてね。みかさロボが危機に陥ったとき、もう1艦現れると。畝傍(うねび)※はどうだと。畝傍にしてくれたのは、凄く嬉しい話ではあるけれども。世界を広げてどうするんだ。

※「畝傍(うねび)」:明治十九年(1886年)にフランスで建造された、当時としては世界最速19ノットの高速巡洋艦。日本に回航する途中で行方不明となった。

森田:もう一隻デザインしろと。

宮武:それに近いような誘惑を。誘惑というか逃れようのない提案を。

森田:スチームパンク※的にワシントン条約※がなかった時代を設定して、1900年代初頭の軍艦は全部ロボットに変型することになった世界で1本作れそうですね。(会場笑い&拍手)

宮武:人の仕事をどんどん増やして迷惑な話ですよ!

森田:生きてるうちにやらないと、すぐ死んじゃいますよ。

宮武:130歳まで…という話はともかくとしてね。知ったこっちゃないっすよ!(会場笑い)

※「スチームパンク」:スチーム(蒸気機関)とサイバーパンクを組み合わせた造語でSFジャンルのひとつ。蒸気時代や蒸気機関が主流のまま発達した別の未来を舞台にしたSF作品の総称。

※「ワシントン条約」:1922年の「ワシントン海軍軍縮条約」のこと。第一次大戦後後の戦勝国側各国の軍拡競争に歯止めをかけるべく、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本の間で結ばれた。所有できる軍艦の種類と量を指定された。

森田:当時のライオン※とかね、全部ロボットにしたらいいじゃないですか。やっちゃえばいいじゃない。お金はうちの会社(スタジオぬえ)に入れてもらうからさ。

宮武:ドレッドノートとかね。色々あるわけですよ。

森田:みんな待ってるでしょ。海外の軍艦ファンもお客さんに取り込めるから。日本はこれから外貨稼いでいかないと苦しいんで。

宮武:片っ端からハセガワ※さんにモデルを作ってもらう。

※「ライオン」:ライオン級巡洋戦艦。20世紀初頭にイギリスで3隻が建造された。34.3cm砲を搭載し速力27ノットを誇る超弩級巡洋戦艦。

※「ハセガワ」:日本の総合模型メーカー。世界中の軍艦を、喫水線から上を700分の1の統一スケールでモデル化した「ウォーターラインシリーズ」で知られる。

森田:イギリスとかに、黙ってるとお前ら、俺たち勝手にロボットにしちゃうからなって。

宮武:(会場の観客に)もうプロデューサー役は決まりましたね。

森田:それで最後にひと花咲かせましょう。

◆みかさロボの「弱点」とは?

宮武:まあ、(みかさロボのデザインは)結局はでかく見えるものにはなってくれたなあとは思います。

森田:VRで見ると普通の画面で見てるのと違う巨大感が感じられる。ちょっとこれはいい体験ができるなと思いました。

宮武:これはモデルとしての立体物が欲しくなるぐらい立体に見応えがあるよね。

森田:(オモチャで立体化したときの)監修、よろしくお願いします!

宮武:ただ、完全に組み上がった状態から 三笠の軍艦の格好まで変形させて戻せるのかっていうと、俺やだよ。

森田:(変型可能な)稼働モデルは、なかなか大変だとは思うんですけど、今は3Dプリンターがあるんで、しかも結構大きなものも作りやすいので、時間さえかければできてしまうかもね。

宮武:たまたま(画面が)後ろ姿になったんで、ロボットの後ろ姿が大好きな僕としては、非常に自分では「やったな」っていうか、いい仕事ができたなと思っております。

森田:今青く光っている箇所が、ボイラー?

宮武:足の腿の後ろからが スチームラインなんですけども、煙突に向かって上がってる複雑なパイピングの部分が結構遊んだんで、デザイン的には喜んでもらえる部分じゃないかと思います。

宮武一貴氏がこだわった、みかさロボの腰のボイラー周辺の描き込み。蒸気で動くスチームパンクロボなのだ。

森田:つまり、構造上の弱点という。後ろから大砲ぼこぼこ打たれたり(会場笑い)。これ部品が多いからデアゴスティーニかな。(CM風に)「今週はパイプが1本ついてくるよ!」。

宮武:そういうようなこと(商品化)を感じながら、考えながら、デザインしていましたね。それくらいのっ山っ気はあると思います。

森田:立体物は本当に見てみたくなるんで、腕に覚えのある方がいらっしゃれば、ぜひ挑戦してみて欲しいです。

◆危うく遺稿になるところだった!?

宮武:このラフスケッチを作画してる最中に脳貧血状態になりまして、目の中心からプリズム状の放射型のものが現れて、これが目の周辺までだんだん広がってくんです。「締め切りがあ!」と言ってる最中に。

森田:いや、とりあえず病院行ってください!

宮武:病院に行ってたら間に合わなくなるから、2時間、3時間くらいは両目が使えない状態ですが、脳の中で起こってる症状で眼球そのものには影響がないんで。

森田:あなた1回倒れてるんだから、そこはもう(病院)行った方がいいよ。

宮武:行ったら落ちてるんだよ、この原稿。

森田:命も落ちちゃうからね。

宮武:まあね。おかげでその半分目が見えてない状態を無理やり見える範囲だけでもって絵を描こうとしたから、艦の左側の腕の部分がやたら広くなっちゃって、あーこれはダメだ、後で修正しようと思った結果がこれなんですけど。そっちの腕が広いでしょ。

書き直してるけども、まだ広いんだよ。こちらの目の限界を乗り越えながら書いた不始末の一部なんで情けない話ですが。

森田:遺稿にならなくて良かったですね。左の下の隅の方に、「今は観光ロボだが、いざとなればそれなり戦える客船。今どきの若い艦には負けない」って書いてあるけど、いや、負けると思うよ。イージス艦を舐めてるよ。

宮武:いや、でもみかさが殴るとイージス艦へこむと思うよ。

◆みかさロボと「スチームパンク」

森田:これって 船のスペック的なものも一切考えずに。デザインだけで考えられた?

宮武:デザインだけです。動力の伝達をどうするかっていうのが、デザイン段階、設計段階で考えたことですね。結局は蒸気機関なんで、ピストン運動を回転に変えて回してたわけでエレクトリックはあんまり使ってない。電力がなかったわけじゃないけれど。

回転軸があって、そこからベルトで取り回して引き出しています。胴体の中心の両脇に、プーリーとベルトがあります。この辺の…。

森田:ちょっ!本当に全部蒸気で動かしてることにするつもり?

宮武:そのつもりでデザインしていました。

森田:マジか。

宮武:だから腕(の動力)も全てそういった関係でもって。つまり、僕が小学生の頃って、横須賀中の町工場の中では、こういったものが、ぐんぐん動いていたわけですよ。

森田:昔の町工場って、モーター1基に対してベルトを天井とかいろんなところに這わせて、それで全部の機械を駆動してるっていうのを、「鉄人28号」で敷島博士が操縦機を直してるシーンで見たことがあります。

宮武:その記憶はものすごく正しいです。僕は子供のときに、洗濯工場とか煎餅屋さんの工場に行って、煎餅を乾かすのに動力をプーリーによってグルグル取り回してるのを見てましたから。それをやっていたシステムが、そのまま三笠(みかさロボ)の艦内になってます。

森田:つまり一軸のエンジンが1基あって、そこから機械的に動力を分岐していると。そういうことですか?

宮武:そういうことです。

森田:どっしゃー!

宮武:だから、スチームパンクなんだよ。

森田:うん、まあ、そうなんですけどね。それで指先まで全部動かすってなると大変だよね。蒸気の配管で動かしてるとかじゃないんだ。蒸気の圧力でっていうのは、すぐ冷めちゃうから良くないのか。

宮武:すぐ冷めるし、冷却のための循環器も必要だし。復水器※、ラジエーターも必要だし。みかさロボの脚に付けてありますが。ま、こういう風にやってるわけですよ。

※「復水器」:蒸気機関で蒸気を冷却して水に戻し、内圧を下げることで熱効率を大幅に上昇させる装置。

みかさロボ脚部のスチームラジーエター(復水器)の説明書き。宮武氏の細部までのこだわりが出ている。

森田:末端までは行かなさそうですもんね、圧力が。

宮武:指1つ駆動するだけでも、1日がかりだね。

森田:リアルに考えたらってことね。

宮武:それだから、大友克洋くんがやりました「スチームボーイ」に出てくる「スチームボール」。あの辺のことも考えてのスチームパンクです。

森田:スチームボーイは1つだけ超科学※が入っていて、あのスチームを圧縮する容器(スチームボール)っていうのが、おそらく超科学ですよね。あれがないと成立しないので、何かそういうブレイクスルーが1個ないと。

宮武:まあ、それに近いですね。だからアメリカ映画で言えば「ワイルド・ワイルド・ウエスト」※。あれは蒸気で動くクモの巨大ロボットでしたけども、あれに近い部分がある。

森田:釜焚きをやっている人の苦労が忍ばれるわけですよ。これを本当に蒸気で動かすとしたら。

宮武:「みかさの釜焚き物語」というようなね。(会場笑い)

森田:それはそれ、ドラマのネタとしては膨らみますけれどもね。

※「超科学」:SF作品世界の科学的矛盾を解決するための設定のこと。宇宙戦艦ヤマトの「波動エンジン」や、機動戦士ガンダムの「ミノフスキー粒子」などがわかりやすい代表例。大友克洋のスチームパンクSFアニメ「スチームボーイ」では、超高圧の蒸気を閉じ込めた「スチームボール」が超科学的に存在しており、おそらく、みかさロボでも同様の超科学が存在すると思われる。また、みかさロボは「未知の力」によって空を飛ぶ設定となっており、腰の青いランプがそれを象徴している。

※「ワイルド・ワイルド・ウエスト」:1999年のアメリカ映画。ウィル・スミス主演。1960年代のテレビシリーズ「0088/ワイルド・ウエスト」を映画化したもの。敵の兵器としてクモ型巨大ロボット「タランチュラ」が登場する。

◆横須賀美術館はタンカーだった。

森田:「日本の巨大ロボット群像」は見応えのある展示で、私も目頭が熱くなるところがありました。美術館も美しいところです。

宮武:横須賀美術館は「スカビ」って呼ばれてますが、ちょっと変わった建物で、実は鋼鉄製なんです。造船所が作りました。

森田:そうなんですか。

宮武:設計者の方が「横須賀で美術館を作るんだったら普通のコンクリートの建物にするやつがあるか」と。どうせならば造船所に作らせよう。で、結局はほとんどタンカーになりました。だから外観を見るとわかりますが、ゆるいカーブで天井と床が繋がってるんですよ。でっかい丸の穴が開いていたり。

横須賀の海際に建てられた横須賀美術館の本館。宮武一貴氏によれば、構造的にはタンカーなのだという。

宮武:あそこは鉄板の厚みが1枚しかない。館の外と館内を繋ぐ部分は 鋼鉄の渡り廊下ですね。あそこを歩いてみるとわかるんですけども、厚みが鉄板1枚しかないのに反響が全然違う。普通のコンクリートの渡り廊下を渡っているのと違うという感覚がもの凄いです。横須賀美術館そのものがアトラクションである、展示物であると思ってくれてもいいんじゃないかと思います。2階、3階に上がると感動します。ああ、これは本当に鉄の船なんだと。

森田:あー、なるほどね。私も屋上に上がって海の方見てあの景色を堪能させてもらいましたけれども、その発想はなかったですね。

宮武:屋上と2階の外側の部分はトラス構造が組んであって、空中に床が浮いているんですよね。で、1回のフロアの展示で巨大ロボット群像展を見まして、さらに下に降りますと、あそこでジブリ展をやることになっていますけど、その艦底から上が全部一体構造の巨大な…。

森田:そっかー!(渡り廊下からだと)タンカーの船倉を見下ろしてるイメージを頭に描くと正しく理解できる。

宮武:その辺のことがわかるのは、スカビの別船って言いますか、奥の方にある建物の渡り廊下を渡って奥に入りますと図書室になっています。そこに「新建築」という当時の建築雑誌があるんですけれども、そこに横須賀美術館の作られたときの記録集が保存されていまして、見ることができます。皆さん、関心があったら、ぜひご覧になった方がいいと思います。

森田:陸に上がったタンカーっていうと、もう「くろがね(鉄)の城」※状態ですからね。またロボットとの相性がよかろう。

宮武:相性いいです。

※「くろがねの城」:マジンガーZの主題歌の出だしにこの言葉がある。

◆マジンガーZの呪い

森田:宮武さんとしては、ああいうロボット群像の展示を見られて、胸に湧くものとかあったりしますか。巨大ロボットって、結局なんだかんだで50年近い付き合いがありましたけども。

宮武:その50年間というもの、マジンガーZから※まったく休みなしに後が続いちゃったので、この機会に浸らせてもらえるのかなと思ったけど…。

※「マジンガーZから」:宮武一貴氏は、学生時代にTVアニメ「マジンガーZ」のエンディングに使う内部メカの図解イラストを描いたことがきっかけとなって、アニメ業界でメカニックデザイン関係の仕事をすることになった。

森田:でっかい絵を描かされたり。

宮武:久々にでっかい絵でマジンガーZを描きました。それを描いていて「こんなに大変なものか」っていうか、豪ちゃん※ってやっぱり凄いよね。と思いながら描きました。

※「豪ちゃん」:「マジンガーZ」の原作者であるマンガ家・永井豪氏のこと。「ゲッターロボ」(石川賢氏と共同で原作)、「UFOロボ グレンダイザー」などで日本の巨大ロボットアニメの源流を形作ったほか、「デビルマン」「キューティーハニー」「バイオレンスジャック」「ハレンチ学園」「けっこう仮面」などで日本のマンガとアニメに多大な影響を与えてきた。

森田:マジンガーZは描き慣れているかと思ったら。

宮武:ライディーンは描き慣れていて、あっという間でしたね。だけど、マジンガーは真っ黒になるまでずっと修正を加えて、あんなにも大変とは思わなかった。

森田:それ、なんでだろう。マジンガーって線がシンプルなのに、逆にかっこよく書くのが難しいとか、そういうことですか。

宮武:ていうか、基本的には「豪ちゃんだったらこんなマジンガーを描くものか」っていうのがありましたね。画家としての誇りと言いますか、挑戦意欲と言いますか、やっぱり豪ちゃんに対する信頼感と言いますか、尊敬心があって、その上でこれを描いてるんだ俺は、と思ったので、下手な絵は描けないっていうのがまずあった。

森田:人が乗り込むスーパーロボットのオリジネータはマジンガーZだと思いますけれども、あの時代、最初にあれを永井豪という人が描いたはときは、これは商品化するからねとか、そういう縛り一切なしで、おそらくポンと描いたと思うので、それがいまだに続いてるっていうのは、恐ろしいことだなと、ちょっと思いますね。

宮武:恐ろしいと言いますか。凄いことなんですけども。今になってマジンガーZの絵を描いて初めてわかったのは、俺の人生って縛り付けられていた。

森田:ごめん、笑っちゃった。

宮武:逃げは効かないんですよ。もう本当に。

森田:あのとき、図解を断っていたら。

宮武:それはあったかもしれないです。けど、それを言うなら。この会場の入口の脇に置いておきましたけども「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号。僕が生まれて初めてちゃんとしたSF映画を見て、人生を完全に狂わされてた。

宮武:映画を見て帰ってきて、資料も何もない時点で、頭の中にあったディスカバリー号を大学のファイルの表紙に描いてしまった。あれが人生の最初であり、あれ以前にイラストレーションって描いたことなかった。それ以来、僕は今の生き方まで一直線に来ちゃったんだけど。

それと同時にやったことは、豪ちゃんのマジンガーZと、あとはライディーンからヤマトから全部一連に続いてきたことなんです。そういった形で今日を迎えてしまった。しょうがないなというか、逃げが効かなかったんだ。これしか言いようがないです。

トークショー会場に展示された宮武一貴氏が大学生のときに初めて描いたイラスト。映画「2001年宇宙の旅」(1968年)を見て、資料も見ずに記憶だけで描いた宇宙船ディスカバリー号。余談だが、富野監督が「機動戦士ガンダム」を制作する際に「『2001年宇宙の旅』を越える」と宣言したという逸話も残っているほどエポックメイキングな作品だった。

◆宮武一貴氏と鉄腕アトムの秘密の関係

宮武:スタジオぬえっていうのは、サンライズとの付き合いが非常に深いですけど、その前身を考えると虫プロダクションに話が行くんですよ。で、アトムのデザインはやってないかというと、アトムの第2シーズンで僕はデザインしているんです。

森田:1980年ぐらいですね。

宮武:はい。石黒昇さんがアートランドで作ったカラー版のアトムです。

森田:メインメカニックデザインに青井邦夫さんが入られたときのやつ。

宮武:そうですね。あのときに監督の石黒さんからアトラスのデザインを頼む。敵役という言葉では捉えてほしくない。アトムのライバルとして受けてほしい、と。

宮武:「コンセプトとしてアトムと被るんですか」って聞いたら「被る」。奪われたアトムの設計図を元に生み出されたのがアトラスだけど、敵のロボットではない。だけど、ライバルのロボットではある。

宮武:石黒さんがおっしゃるには、「アトムというのは、目覚めることもないことのないロボットなんだ。良心しかない。悪意を眠らされている。であるが故に不完全。ところがアトラスは 両方持ち合わせている、良い心と悪い心持ってる。子供に向かってはそういう言葉が理解しやすいであろうけど、本当の目覚めたロボットとして描いてほしい」

森田:なんか、キカイダー※の(原作マンガの)最終回の話を聞いているようですね。

※「キカイダー」:石森章太郎(石ノ森章太郎)のマンガ「人造人間キカイダー」。特撮ヒーロードラマとして仮面ライダーに並ぶ人気だったが、原作マンガはTVドラマとはまったく異なる衝撃的な結末となった。

宮武:そういう時代なんですね。アトムのライバルとして目覚めた完全な自律型のロボットとしてアトラスを描いてほしいと。

宮武:「色はどうする?」って石黒さんに聞かれたんで、「アトムは白と黒でした。僕としては、スタンダールの「赤と黒」※の言葉を受けて、悪意と善意の相克に存在するロボットとして、アトラスは赤と黒にまとめたいと思います」って石黒さんに言ったら「君に頼んでよかった」と言って、そのまま押し付けられて、完成まで持ってっちゃった。

※「赤と黒」:19世紀フランスの長編小説。美青年ジュリアン・ソレルの立身出世と恋にまつわる壮絶な人生を描き、リアリズム小説の出発点となった。

森田:手塚さんはどう言っていたんですか?

宮武:僕の大人のアトラスのデザインから、子供のアトラスのデザインを手塚さんが生み出してくれた。エジプシャン(エジプト風)のデザインのアトラスを手塚さんが作った。僕としては非常に誇らしい話なんですけれども。

のちに手塚プロの中で、手塚さんも石黒さんも亡くなって、あの(アトラスの)デザインを誰がやったんだ?手塚さんとは思えない、と。僕の描いたラフデザインはあって、それを見せられて「宮武さんですよね」と聞かれて「ああ、僕です」って。

森田:なんで、そんな不思議な伝説になっちゃうんですかね(会場笑い)。普通に仕事を発注していただくと思うんですが。

宮武:それで、手塚プロさんの中でビデオカメラの前で喋らされました。

手塚プロダクションによる宮武一貴氏の証言動画。こちらも必見です。

◆ウランちゃんとヤマトとマクロスの関係

森田:石黒さんとのお付き合いはヤマトから?

宮武:そうです。

森田:手塚さんのところとのお付き合いも石黒さんを介してのお付き合いですか?

宮武:石黒さんは虫プロダクションの若手のスーパースターで、富野(由悠季)さんとだいたい同期で、アニメ部の演出畑のトップだった。

宮武:石黒さんは音楽畑に長けた人で楽譜が読めた。しかも後ろ向きに読めた。鉄腕アトムの「ウランちゃんとウランちゃん」というエピソードは手塚さんの注文でミュージカル仕立てでした。

森田:石黒さんには「こういう風にしてくれ」と発注があった?

宮武:石黒さんは楽譜が後ろから読めるから、コンテを後ろから書ける。ミュージカルシーンで大事なのは、キャラクターが曲に合わせて踊りきった上で、ピタッと止まった瞬間に曲が終わる。

森田:それを週に1回のテレビアニメでやろうとした?

宮武:実際のところ、(アトムの)かなりの話数がミュージカル仕立てで、「ウランちゃんとウランちゃん」は石黒さんの最高傑作の回で、そのラストでピタっと曲とシーンが合う。あのスケジュールをズラしにズラしていた手塚さんのところで、ミュージカルシーンの最後の1曲で音がぴったり合うっていうのは奇跡に近い。

森田:いやもう、私は現代のアニメの制作のプロセスがある程度わかっていると思っていますけど、もうゾっとしますね。今やれと言われたら。(会場笑い)

宮武:それを石黒さんは平気な顔をしてやっていた。私がまだ駆け出しの頃に、宇宙戦艦ヤマトで、ヤマトが艦首からやってきて、艦の側面を見せながら通過していくときに、ちょっと横にひねって、艦底の部分を見せながらが画面の前を通過していく。あの瞬間にものすごく立体感が増すんです。

森田:有名なシーンですね。素晴らしかった。

宮武:あのシーンカットを作ったのは石黒さんなんですけど、あのシーンの素晴らしさってのは曲が 完璧にシンクロしていることによって出来上がっている。

今回のトークショーではこの話はここで終わっていますが、実はマクロスシリーズにまで繋がっていたのです。手塚プロダクションが公開しているYouTube動画の中で宮武氏は、超時空要塞マクロスのテレビシリーズの演出を通じて、石黒昇氏は演出ノウハウのすべてを河森正治氏に教え、それが(アイドルや音楽をもうひとつのテーマとしていた)マクロスの、シリーズを通した音楽とシンクロした数々のミュージックシーンの演出に繋がったと語っています。

石黒昇氏とウランちゃんとマクロスのミュージックシーンの関係を宮武氏が語っている動画

◆「巨大ロボット群像」展はアトラクションだ!

ここから話は、再び「日本の巨大ロボット群像」展に戻って、このために宮武一貴氏が描いた2枚の壁画についての話になります。

森田:あの巨大壁画を見たとき、見る場所を決めた絵になっているよね。今回2点、宮武さんの筆になる絵があるんですが、離れてみるとなんともこう、いびつな絵なんですよ。どういうことかなと思って近寄っていって、絵の前1メートルぐらいのところに立って見上げると、バシッとパースがあって。

それは、あのコン・バトラーVとビッグオーのパースがズバってあったんで、「ここから見ろっ」ていうことじゃん。それ言わないとわかんないまま行っちゃうお客さんがたくさんいると思って、それはもったいないなと思った。

宮武一貴氏が今回、「巨大ロボットを巨大に描く」というコンセプトで描いた壁画の1枚。その真価は、実際に美術館に行って見て体験しないと判らない(右側には「みかさロボ」のデザインラフの展示もあります)。マジンガーZとライディーンの巨大壁画もあるので、現地で確認してください。

宮武:絵というものは一定の距離が必要なものなんです。絵描きは人に説明しないけれども、この絵は2メーターの絵とか、4mの絵だとか、僕は絵を描くようになってからわかるようになりましたけども、俺は原稿に向かって2mの絵を描いてるとか、4mの絵だなこれはとか、カメラのアングルの中心となるポイントっていうのは存在します。

森田:仏像を見るとね、「この仏像は、下から見上げた時に目線の高さが合うように彫られている仏像です」というのは、キュレーションされてたりするんだけど、それなしで同じ目線の高さから見ちゃうと なんとも伏し目がちな仏様だなという風になっちゃって、それで終わっちゃうのはもったいないと思うわけですよ。

本来は、両膝をついて拝みながら見上げたときにバシッと目が合う。そこに彫り師の意図がある。絵描きにおいても、その意図がちゃんと伝わるような補助線を引いた方がよかったかなっていう、そういうお話なんです。

宮武:その話に関しては、ものすごく正解な部分と、ちょっと違うんだよねという部分と、両方あります。今回の巨大壁画に関しては、特に2枚、1枚目も2枚目もそうなんですけども、みなさん美術館に行って絵を見るときどうやって見ますか?絵の前に立ち止まって、見て頭に入ったからって次に行きますよね。もしくは感動したから「もういい」と言って次の絵に移りますよね。

宮武:だけど、美術館にわざわざ足を運んでくれたお客さんに対して、それだけでは済まないんじゃないかと、あれだけのデカい壁画を描きながら気がついたわけです。それがマジンガーZであり、ライディーンであったわけなんです。僕としては、来てくれたお客さんが静止した目で見ては、それじゃあ絵画を本で見るのと同じじゃないか。

宮武:そうじゃなくて、絵の前を歩いて移動しながら、視点を動かしながら見たときに新しい発見があってこそ、美術館に来た意味があるんじゃないかと思って、あの絵をやったんです。で、そのためにできること。光を変化させたい。歩くことによって光を変化させたい。だとすると、どうすればいいか?

僕の友人が扱っている非常に特殊な顔料があって偏光塗料なんです。蝶の羽や「玉虫厨子」※の玉虫、あの辺はすべて色ではない。光ではあるけれども、色ではない。つまり、玉虫からは 色素が一切回収できない。

森田:分子構造によって光の反射で角度によって色が変わるってのが構造色。昔、クルマのXXXXでしたっけ?あれで使ったっていう話題になったんですよね(注:正確にはレクサスLCの特別仕様車「Structural Blue」にモルフォ蝶にヒントを得た構造発色が利用された)。玉虫厨子では虫を殺して羽を貼り付けたけど、今回、巨大壁画を描くにあたっては、その塗料を使われた?

※「玉虫厨子」:玉虫厨子(たまむしのずし)。法隆寺が所蔵する国宝で、飛鳥時代に作られた。装飾のために昆虫の玉虫の羽を貼り付けてあった。

宮武:それでマジンガーZの光の反射をやったんです。2枚目の1990年版のゲキガンガーは、横幅6mちょっとありますけども、それだけの幅の絵に画面を横切る巨大な赤い翼を描きまして、その前縁が光を反射して移動するんですよ。それを止まって見られては意味がない。

宮武:絵の前を歩いていて、気がついたらば「これはもしかしたら、なんかやってるんじゃないか」という形で美術館に展示するのは、美術館をアトラクションとして捉える意味がある。前で立ち止まって「わあ、すごかった」と言って帰られても十分な効果なのかもしれないけど。

絵の前で歩いて動きながら見て、「え?もしかして?」って思って振り返ったり、絵の前で目の位置を移動する。そうすると、マジンガーZのロケットパンチの握りこぶしとライディーンの顔が干渉する部分にその光が変化する。そういう描き方をわざとしています。

森田:じゃあ「見落としたな」と思った人は、もう1回来てねっていう、そういうことでよろしいですか。

宮武:そういうことしか言えませんが、来てもらうのが美術館としては1番ありがたいことだと思うんです。

森田:横須賀美術館は行くだけでもドライブとして楽しいなと思ったんで、何度も足運びたくなるなと私も思いました。

宮武:よろしくお願いいたします。


今回は、尺の都合で収録を見合わせましたが、他にも宮武氏がデザインした「宇宙の戦士」のパワードスーツ(人間サイズ)と「機動戦士ガンダム」のモビルスーツ(巨大ロボット)の大きさの違いについての話も興味深かったです。

これについては「日本の巨大ロボット群像」展で、パワードスーツの顔ハメ写真撮影スポットがあったり、ガンダム1話の非常に詳しい分析や原寸大ガンダムの絵が展示されているので、宮武氏の巨大壁画と合わせて現地でご確認ください。

トークショーの会場となった「記念艦三笠」。引退して99年とはいえ立派な巨大戦艦。これが、みかさロボになったのだ(メタバース上ですが)。
記念艦三笠がある三笠公園は横須賀市の中央部にありますが、横須賀美術館とはバスで40分くらい離れているので、両方行く場合は時間に注意してください。
《根岸智幸》
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