東大の研究室による『桃鉄 教育版』の評価、分析は
東京大学大学院 情報学環准教授の藤本徹氏からは、『桃鉄 教育版』の効果や、教育利用に関する社会的需要動向に関する調査の途中経過が報告されました。
藤本氏は、すごろくやかるたなどのフォーマットを活用した教育ツールは、江戸~明治時代の頃にはすでに庶民の間で活用されていたと指摘。また、海外を見ても、大きな知名度を誇るアメリカのボードゲーム「モノポリー」は教育的な試みから生まれたゲームでした。

本イベントの名称でもあるエデュテインメント(エデュテイメント)はエデュケーションとエンターテイメントを合わせた「楽しみながら学ぶ」ことを念頭に置いた概念で、アメリカの西部開拓時代を学ぶ目的で作られたPCゲーム『The Oregon Trail』や、当初から教育目的を想定してわけではなかったものの、教育にも大いに活用された『Where in the World Is Carmen Sandiego?』の登場で市場が形成されました。エデュテインメントの概念は2000年代には「シリアスゲーム」、2010年代には「ゲーミフィケーション」とも呼称されています。

『桃鉄 教育版』発表への社会的な反応に関しては、SNSなどで「自分も『桃鉄』から学んだ経験がある」、「自分が子どもの時にこのゲームがあってくれれば」など、効果を疑う声よりも共感や期待感を抱くポジティブなコメントが目立ったそうです。同時に小中高校の教職員や教職を志す大学生、はては海外の大学や日本語学校の教員などから「利用したい」という問い合わせが多く寄せられました。
利用者を対象とする、教育現場への導入の効果に関する調査では「母数はまだ多くはありませんが」と前置きしつつ(有効回答数218件)、社会や地歴公民の授業で活用されている事例が多いとのこと。小学校では4年生、中学校では2年生の授業でやや多い導入が見られるようです。
導入理由で多かった回答は「生徒の関心を引くため」と「教材として魅力的に感じたため」が多く、実際に導入したあとの認識も「生徒の学習意欲を高める効果があった」という声が多数を占めました。
藤本氏は成功理由の一因として、ゲームと従来の教育における体験のデザインの違いを挙げました。古典的な学校教育は「失敗は恥ずかしいことであり、チャレンジはしないに越したことはない」という印象を生徒に与えてしまいがちですが、ゲームであれば「チャレンジした結果失敗しても恥ずかしいことではなく、さらに自発的な参加もうながしやすいのが強みであると分析しています。

今後は『桃鉄 教育版』の事例を海外での学術研究でも扱えるようにすべく、国内各地での展開に加えて英語での論文化も実施。2025年3月にポルトガルで開催された国際会議「ICEdutech 2025」で、すでに英語の論文を発表したとのことで、この取り組みは来年度以降も継続して行うと語られました。

文部科学省も「教育において有用なツール」と評価
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課長の武藤久慶氏による特別講演では、同省が定める教育カリキュラム「学習指導要領」の改定にあたっての『桃鉄 教育版』の立ち位置が示されました。
人口減少/少子高齢化、グローバル化、AIの発展・普及による急速なデジタル化などで、社会は目まぐるしい変化にさらされ続けています。その結果、企業の寿命は年々短くなっていますが、一方で人の健康寿命は延び続けており“人生100年時代”と言われて久しくなりました。

企業の寿命は短くなるのに、働く期間は長くなる……これは言い換えれば「さまざまな仕事に従事(or企業に所属)して、生涯学びが続く時代がやってくる」ことを意味します。そんな時代を生き抜くために必要なのは主体的に学びに向き合える姿勢であり、特に金融や経済への学習はもっと強化していかなければならないと考えられているようです。

その点において武藤氏は『桃鉄 教育版』を非常に有用なツールの一つであると捉えており、「“ゲームだから”と懐疑的な目で見るのではなく、さまざまな可能性を追求していくべきである」としました。

長らくゲーマーたちに愛されている『桃太郎電鉄』シリーズ。今後も教育の現場で活用が続けばそれをきっかけに従来シリーズ作に触れるプレイヤーが増え、より大きなIPとなっていくのではないでしょうか。独身の筆者には思いも寄らない世界が広がっていましたが、令和の子どもたちにはぜひプライベートでも『桃鉄』を遊んでもらい、仲よく友情を破壊しあってほしい(?)と願うばかりです。