
3月18日、Googleとスクウェア・エニックスは「Google Cloudの生成AI活用事例に関する記者説明会」を開催しました。
講演ではGoogleのゲーム部門でグローバルディレクターを務めるジャック・ビューザー氏のほか、スクウェア・エニックスの安西崇氏、荒牧岳志氏が登壇。
Gooleから見たゲーム業界の現状やGoogle Cloudによる新たなソリューション、『ドラゴンクエストX』に実装される対話型AIを搭載した新しいバディ「おしゃべりスラミィ」についての解説などが行われたので、その様子をお届けします。
ビジネスの3つの領域でAIを活用―Googleが目指す「Living Game」とゲーム業界の現状

Googleのゲーム部門でグローバルディレクターを務めるジャック・ビューザー氏は、ゲーム業界の現状についてから講演をスタート。プレイヤーの支出は過去最高の1960億ドルに達している一方で、ビジネス面では営業利益が2021年以降年平均7%減少し、利益率もコロナ禍前の水準を下回っているという“相反する状況”だといいます。
こうした現状が生まれる背景として、市場成長のうち67%を『Roblox』が占めていることや、世界の総プレイ時間の半分以上は6年以上前にリリースされたゲームに費やされている現状を挙げています。
しかし開発コストは増加の一途を辿り、昨年だけでもコンテンツへの投資額は400億ドルを突破したとのこと。開発スタジオは利用可能なプレイ時間の半分にも満たないシェアを取り合うために、これまでと比較してほぼ2倍のコストを投じているという“機能不全”を指摘しました。

これらの課題に対する解決策として、ビューザー氏やGoogleが提唱したのは「Living Game」という概念です。Living Gameはライブサービスと生成AIを組み合わせることで、これまでになかったゲーム体験や、開発の効率化を可能にするといいます。
また、ビューザー氏は、ゲームビジネスにおけるAIの活用について、三つの領域での活用例を紹介しました。
「ゲーム開発」……繰り返しの多い煩雑な作業を短縮して、ゲーム開発を加速させる
「ビジネス構造」……データとAIを活用し、ライブサービスやマーケティングなど開発以外の領域も含めてビジネスを変革
「プレイヤー体験」……ライブサービス基盤とリアルタイムのAI推論を組み合わせ、さらなるプレイヤー体験をもたらす
今回の講演でフォーカスされたのは、3つ目の「プレイヤー体験」について。これまでのAIは「倒すべき敵」であったのに対して、新たな局面では「真のゲーム内の相棒」になるとビューザー氏は語ります。AIの相棒は単にクエストを出すだけでなく、プレイヤーの苦楽の感情に寄り添う、実際に旅を共有する仲間になるとのこと。
また、AIを“友達”として感じるためには、プレイヤーとのやりとりが瞬時に行われることも重要視されますが、Gemini Live APIはそれを可能にすると強調しています。低遅延かつ、言語を理解してゲームプレイを見るマルチモーダルな会話が可能となり、ゲーム体験がよりパーソナルでダイナミックなものになるようです。

さらにGemini Liveはユーザーだけでなく、開発者側にも大きなメリットがあるとビューザー氏は言及。Googleのハイパーコンピューター上に構築されたGemini Liveはコスト効率に優れ、インディー開発者から大規模なスタジオまで活用できるほか、高度なセキュリティや信頼性についても保証されています。


最後に、ビューザー氏はこれまでGoogleが大規模なライブサービスを提供してきたことや、ゲーム向けAIの最前線に立ち続けていたことに言及したほか、スクウェア・エニックスとの関係は単なるビジネスの関係だけでなく、世界初の「AIバディ」という共通のビジョンを実現する重要なパートナーであると述べました。
14周年を迎える『ドラクエX』、AIを搭載した新たな試みの対話型バディ「おしゃべりスラミィ」が登場

続いて登壇したのは、スクウェア・エニックスの『ドラゴンクエストX』でショーランナーを務める安西崇氏と、同じくスクウェア・エニックスでAI&エンジン開発ディビジョンのジェネラルマネージャーを担当する荒牧岳志氏。
『ドラクエX』は2012年にサービスが開始され、14周年を迎えたことや、今なお月に数十万規模のプレイヤーがさまざまな遊び方で楽しんでいます。また、本作のコンセプトとして“『ドラクエ』ファンのための遊園地”を目指して開発が続けられてきたことが語られています。
そんな『ドラクエX』はさまざまな要素によって遊びの幅が広がる一方で、安西氏は新規のプレイヤーが「どこから遊んで良いのか分からず、孤独になってしまう」という課題を解決するために新たな試みに取り組んでいると言及。

それが、オンラインならではのコミュニケーション要素を付け加えた対話型のAIバディ、「おしゃべりスラミィ」です。説明会では、実際にデモンストレーションの動画も公開され、卵から生まれたスラミィとの会話や、コミュニケーションをとる様子が確認できました。
スラミィは簡単な性格診断によって性格が決定される仕組みで、プレイヤーの冒険を記録した「死神手帳」を持ち、プレイヤーの行動を見守るだけでなく、おすすめコンテンツなど個人的なアドバイスもチャットで行ってくれます。


また、AIとの会話のハードルを下げるため、スタンプのような定型文をプレイヤーが送れる機能も用意されています。さらに他の生成AIサービスと異なり、スラミィの方からもプレイヤーの特定の行動をきっかけとして話しかけてくることがあるようです。


今回の「おしゃべりスラミィ」の開発にあたり、シリーズ作品の生みの親でもある堀井雄二氏とのAIにまつわるやりとりがあったことを安西氏は明かしました。堀井氏との会話のなかでは、村人やNPCにAIを搭載するのではなく、「一緒に遊んでくれる友達、一緒に戦ってくれる仲間」というコンセプトが根底にあったと語っています。
続いては荒牧氏が、「おしゃべりスラミィ」の技術的な詳細を解説しました。スクウェア・エニックスは10年以上にわたってゲームに関するAIの研究やノウハウの強固な地盤があり、Googleの「真のゲーム内の相棒」の理念とも意気投合するかたちに。


また、荒牧氏はGoogle CloudのGemini Liveを選択したことには大きく分けて二つの理由があるといいます。一つ目は「高い先進性と拡張性」で、レスポンス速度やゲームの世界観に沿った回答のカスタマイズ性、画面や文字の情報を認識するマルチモーダル機能といった特徴を挙げています。
二つ目の理由として挙げていたのは「信頼できるパートナー体制」。Google側のスピード感のある対応や、技術的な問題やトラブルが発生した際にも迅速なサポートを受けられる点は、共同開発をしていく上での大きなメリットです。

さらに、安西氏からは「おしゃべりスラミィ」機能のクローズドベータテストが開始されることもアナウンスされました。
募集期間は3月21日から3月30日までで、製品版利用者などいくつかの制限が設けられるようです。また、詳細については公式プレイヤーズサイト「冒険者の広場」で確認可能です。

最後に安西氏は「AIとゲームがくっついたら、何か凄いことが起きるのではないかと前々から思っていましたし、どうするべきかをずっと考えていました。それが今回ベストな形で本当に実現したので、新しいブレイクスルーになればいいなと思います。」とコメント。Google Cloudとともに、ゲームとAIの新しい未来への展望を語りました。
「ゲーム×AI」の特別なメリットや価値とは?登壇者へのインタビューも実施
ビューザー氏、そして安西氏と荒牧氏の講演の後には質疑応答も実施されました。

ーー『ドラゴンクエストX』におけるGoogleのAI基盤の活用について、率直な感想をお聞かせください。
ジャック・ビューザー氏(以下、ビューザー):スクウェア・エニックスのチームの皆さんとパートナーシップを組み、ここまで来れたということを非常に光栄に思います。世界初のゲーム体験が実現したのも、このチームのおかげです。
Googleは基盤となるテクノロジーを提供しますが、『ドラゴンクエスト』という強力なIPの存在や、スクウェア・エニックスのクリエイティブな力があるからこそ、Geminiを使ったゲーム内AIが人気のあるものになれると確信しています。
ーーゲームとAIを組み合わせる特別なメリットは、どういったものが挙げられますか。
ビューザー:二つの大きなメリットがあり、まず一つはゲーム開発者の作業負担の軽減や、効率化が可能な点です。作業を効率化することで、クリエイターはよりクリエイティブな部分に時間やリソースを割くことができるようになります。
また、才能あるスタジオやクリエイターが全く新しいゲームプレイ体験を創出できることもメリットと言えるでしょう。今後3~5年の間には、AIが全てのゲームタイトルの多くを変えていくと確信しています。

ーーゲームにAIが介入することで、どういった価値が生まれるのでしょうか。また、人間のフレンドとAIのバディはどのような違いがありますか。
安西崇氏(以下、安西):ゲームを遊んでいて、次にどこに行けばわからなくなった時、友達に尋ねるような感覚でAIに聞けるようになります。ネタバレをしない範囲で、攻略サイトを見なくてもちょうどいい回答をしてくれる友達がいたら幸せだろうな……という気持ちで「おしゃべりスラミィ」を開発しています。
オンラインゲームではキャラクターの中身が誰かを気にしないため、AIが入ってもよいと考えます。ただし、AIとの接し方がまだ分からない人もいるため、段階的に導入していくことで、問題を解決しながら進めることが重要です。

ーーGemini Liveのカスタマイズ性について、どのくらいの規模でカスタマイズをしているのでしょうか。
荒牧岳志氏(以下、荒牧):AIモデル自体をカスタマイズしているわけではありません。プロンプトや出力された文字が『ドラクエX』の世界観に合っているかどうかなど、出力されたもののチェックといった部分をカスタマイズしています。
実際のところ、処理はすべてサーバーで行われており、「こういう時にはこういう回答をするべきか」というプロンプトを選択しながら回答しています。
ーー堀井雄二氏とのAIにまつわるやりとりがあったようですが、堀井氏が「NPCにAIを搭載するのは違う」と語っていた意図はどういったものだと考えますか。
安西:堀井さんは『ドラクエ』を一冊の本のように考えており、メッセージを読み尽くしたいと思っています。しかしAIをNPCに搭載すると「いつまで喋れば良いのかわからない」状況が生まれてしまい、結果的にプレイヤーの負担に繋がる可能性があります。
主人公が多くいるようなタイトルであれば問題はありませんが、多数のキャラクターが登場する『ドラクエ』の場合は違います。今回のおしゃべりスラミィは、そんななかでの一つの回答です。

ーーユーザーのゲーム体験ではなく開発側の目線では、どういった場面でAIを活用できると考えていますか。
安西:現在、資料作成時にプランナーが説明しにくい内容やニュアンスもふくめ、AIで代わりに作成することで効率化を実現していますし、認識の齟齬も少なくなりました。実際のお客様に向けたデータの部分に関しては、AIは使用していません。
ゲームの開発費用が指数関数的に増加しているという話題もありましたが、それがAIによって解決されるのは素晴らしい未来だと考えます。
荒牧:昨年、品質管理のテスト工程にAIを利用して効率化するという発表をしました。業務効率化を通じて新しいゲーム開発をどんどんと進める、“2倍の効率”でゲーム業界全体を盛り上げていく方針です。
今回はGoogleとスクウェア・エニックスによる、「Google Cloudの生成AI活用事例に関する記者説明会」の様子をお届けしました。
両社の合致したビジョンのもと生まれた「おしゃべりスラミィ」が『ドラクエX』のゲーム体験にどういった変化をもたらすのか、プレイヤーからはどういった反応が得られるのかにも注目です。3月21日からクローズドベータテストの募集も開始されるので、気になる方はぜひチェックしてみてください!














