
アニメキャラ、ゲームキャラ、VTuberなど、本来はデジタルの世界に存在するキャラクターたちが、日本武道館などのリアルステージに実際に現れて華やかなライブステージをこなす……。10年前は夢の世界だったデジタルキャラのリアルライブは、驚異的な技術進化によって現実のものとなりました。
夢のライブステージを実現したXR(エックスアール/クロスリアリティ)とは、VR、AR、MRなどを含む総称で、現実世界と仮想世界を融合する技術・表現を指します。VR、AR、MRなどさまざまな表現方法の総称のような意味合いで本来使用されるため、XRの技術自体を定義づけるのは難しいのですが、本講演のレポではデジタルキャラクターをリアル会場で表現する技術と定義付けして話が進められました。
2026年9月18日に東京ゲームショウのフォーラム企画として実施された本トークセッションは、「バーチャルを“リアル化”する条件とは――ライブ事例で読み解く次世代ゲーム展開」と題し、おもに2026年1月24日・25日に開催された如月千早(『THE IDOLM@STER』)の日本武道館単独公演「OathONE」を例にその裏側を紹介してくれました。

トークセッションには、協業で単独公演「OathONE」を実現させたバンダイナムコエンターテインメント、REZ&(レザンド)、ソニーグループ、ソニーPCLより、吉本行気氏(バンダイナムコエンターテインメント)、カゾエノブアキ氏(REZ&)、中野晶氏(ソニーグループ)、上月貴博氏(ソニーPCL)の4名が登壇。まずはそれぞれの会社でどのような取り組みをしているのか、協業のXRライブでどのような役回りを担当したかについて解説しました。
◆それぞれの分野で開発した“すごい技術”の集大成
『アイドルマスター』の紹介からスタートした本セッションにて、自己紹介とともにまず自社の取り組みを紹介してくれたのは、バンダイナムコエンターテインメントAE事業部 プラットフォームプロダクション クロスメディア課 マネージャーの吉本行気氏です。

『アイドルマスター』シリーズは2025年に20周年を迎えたコンテンツで、おもにプレイヤーがプロデューサー役となりアイドルたちを育成するIPです。ライブイベントでは、これまで担当声優によるリアルライブなどを実施してきましたが、2024年からはXRライブにて「実際にキャラクターが歌って踊る」を実現。この2年半で23タイトル・76公演を実施してきました。
XRライブを実現するには、まずキャラクターを投影するスクリーンが必要になります。如月千早単独公演「OathONE」ではセンターステージという構成上、観客が360度からステージを楽しむことができる仕組みを導入しました。また演者の動きを取り入れるにはモーションキャプチャー技術を使用しますし、描画にはアンリアルエンジンを使用します。リアルタイムで演者のパフォーマンスをキャラクターに変換する多くの最新技術が投入されました。


XRライブは将来性のある技術であることはもちろん、ファンがキャラクターと感動を共有する体験、それがファンとキャラクターのつながりをより深めるものとして今後も積極的に取り組んでいくこととなります。
続いて挨拶をしたのはXRライブプロダクション「REZ&(レザンド)」の代表で、ライブディレクターとしても活躍するカゾエノブアキ氏です。「OathONE」では演出および制作を担当して、現地演出オペレーションはもちろん、配信ではどのようなカットを挿入して臨場感を出すかなど、クリエイティブな立場で関わりました。

センターステージでのXRライブは、カゾエ氏にとっても初の試みとなる画期的な表現方法でした。通常は平面のスクリーンをステージに設置し、それを取り囲むようにしてセットなどを組み、今そのステージに立っているかのような演出を施します。
「OathONE」ではとくにセンターステージという特異性、花道を歩かせるという驚きの演出が前提にあり、それに対してチャレンジしたと言います。そのほか本ステージならではの機材もあり、毎週のように、どのように演出をするのかとバンダイナムコエンターテインメント側と打ち合わせを重ねたといいます。


次にマイクを引き取ったのはソニーPCL UXクリエイション部門 UXデザイン部 担当部長の上月貴博氏。UXデザイン部は体験をデザインする部署であり、「OathONE」では360度から鑑賞できる環境構築として、ソニーグループが開発した移動型LEDディスプレイ「groovots(グルーボッツ)」を投入しました。

ソニーPCLといえば、LEDスクリーンを用いたバーチャルスタジオを持っていたり、360度カメラを搭載した撮影車を開発したりして、映像業界においてもイベント制作においてもバーチャルプロダクションの第一線を走っている企業です。特撮番組「王様戦隊キングオージャー」では、戦隊シリーズとして初めてソニーPCLのバーチャルプロダクションを本格的に取り入れて話題になりました。

「groovots(グルーボッツ)」については、ソニーグループで開発したということで、続いてソニーグループ 事業開発プラットフォーム 技術開発部門 フィジカルエクスペリエンス開発部 6課の中野晶氏がマイクを引き取ります。

「groovots」とは前述した通りの移動型LEDスクリーンで、映像や音楽とシンクロして自律走行するドローンの一種です。「OathONE」では人間サイズの大型タイプのほか、小回りが利く中型タイプも投入。ステージ進行に合わせて中型サイズの「groovots」が動き回るなどの演出で効果を発揮しました。
しかしそれだけではありません。本講演では、花道を演者に歩かせたいということで大型タイプを活用し、バーチャルキャラクターとして画期的な“花道を歩く”という新たな体験を創出しました。
このようにバンダイナムコエンターテインメント、REZ&(レザンド)、ソニーグループ、ソニーPCLが協業することによって、「OathONE」のステージで驚きのXRライブを実現させたのでした。


◆パネルディスカッション「バーチャルとリアルの融合を考える」
自己紹介と事例の紹介に続いて実施されたのはパネルディスカッションです。テーマは以下の4つのポイントでした。
・テーマ1「人はなぜ“そこにいる”と感じるのか」
・テーマ2「“そこにいる”を支える技術とは」
・テーマ3「なぜIPはリアル空間に出ていくのか」
・テーマ4「次の10年でバーチャルとリアルはどう融合するのか」
このうちまずは「人はなぜ“そこにいる”と感じるのか」のテーマからです。

如月千早・武道館単独公演「OathONE」の感想からスタートしたパネルディスカッションでは、カゾエ氏が演出の立場から「本当に実現するかどうか、手探りで進めていた」と当時の苦労を振り返ります。なにしろVTuberのリアルライブを多く手がけてきたカゾエ氏としても、今回は初投入の技術ばかりで未体験の演出も含まれます。
さかのぼって2024年。カゾエ氏が初めて参加した『アイマス』のXRライブステージ「菊地 真 ・ 萩原 雪歩 twin live“はんげつであえたら”」では、観客がどのように反応するか期待していましたが、1曲目が流れても歓声が上がらず静かで困惑したと言います。しかし実際のところは歓声を越え号泣していたそうで、カメラマンから泣き崩れる観客を見ていたと伝えられたそうです。
「OathONE」ではさらにセンターステージだったということもあり、さらなる実在性をどのように表現するのか、2024年の出来事を胸に全力投球で挑みました。

また「人はなぜ“そこにいる”と感じるのか」については、ただステージに立っているだけでは表現しきれないのではないか?との意見もありました。ファンそれぞれにアイドルに対して抱く感情があり、それはプロデューサー役としてアイドルと接した思い出、ストーリー性、それらキャラクターに対する想いがあいまって初めてステージが完成すると語ります。
そういった感動を支える技術について、続くテーマでは「“そこにいる”を支える技術とは」が語られました。

必要な技術は前述した通り、LEDスクリーン、リアルタイムでのモーションキャプチャー、3D描画で真価を発揮するアンリアルエンジン、ステージとモーション収録場所が離れている時は通信環境も重要になりますし、VTuberのライブではAR技術を活用したゴンドラも登場しました。まさにデジタル分野におけるエンタメ技術の最前線です。その部分では現在進行形の発展もあり、今後の進化でさらにおもしろくなるはずと希望も語られました。
3番目のトークテーマは「なぜIPはリアル空間に出ていくのか」です。この点については、ファンが思い描く「あのキャラに会いたい」と技術者のチャレンジ精神が結びついた結果だと説明します。5年前には現在の水準でのライブなど実現不可能でしたし、声優がステージに立てるコンテンツと異なり、VTuberのような「何か方法がないとリアルライブをすることができない」という存在がいたからこそ後押しされた部分です。つまり「出ていける環境が整ったから、夢を叶えるために出てきた」がその答えだと言えるでしょう。

最後には、「次の10年でバーチャルとリアルはどう融合するのか」について触れられました。そもそもの発想の原点がホログラム技術だったこともあり、将来的にそれが実現することを願うと述べられます。同時に、今後はコール&レスポンスなど、より会場と一体になれるインタラクティブな表現への期待も語られました。それぞれ関係者への感謝の気持ち、「groovots」の有効活用、そしてXRライブそのものの発展への期待が語られ、セッションは締めくくられました。














