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【インタビュー】アニプレックスの新デジタル視聴サービス「Viewcast」はどうやって誕生したか

アニプレックスが、2016年3月、新たな映像サービス「Viewcast」を発表した。今回その中の二人、高橋祐馬氏と中山智之氏に、「Viewcast」の誕生とそのコンセプトについて伺った。

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左)高橋祐馬氏、右)中山智之氏
  • 左)高橋祐馬氏、右)中山智之氏
  • (C) KOKOSAKE PROJECT
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  • アニプレックスの新デジタル視聴サービス「Viewcast」はどうやって誕生したか 開発者インタビュー
ピデオパッケージの大手アニプレックスが、2016年3月、東京ビッグサイトで開催されたAnimeJapan 2016にて新たなサービス「Viewcast(ビューキャスト)」を発表した。
「Viewcast」は、Blu-rayやDVDの購入者に向けたデジタル視聴サービス。商品に封入されたシリアルコード、ネットショップ「ANIPLEX+」のアカウント(登録無料)、購入した作品の公式アプリ(無料)の3つを使うことで、本編映像は勿論、特典映像や特典CD、ブックレット、副音声まで映像商品の全てがスマートフォンやタブレットで無料で楽しめる。Blu-rayとDVDの全てが、いつでもどこでも楽しめる。

「Viewcast」の試みは、アニメ関係者を驚かせた。これまで出来そうで出来なかったサービスをいち早く実現したからだ。
一体、「Viewcast」は、誰がどのように考え、生み出されたのだろうか?実はそのきっかけは、とある事へのフラストレーションで始まった、アニプレックスの若手有志5人のディカッション、とことんまでのユーザー目線の追求からだという。今回その中の二人、高橋祐馬氏と中山智之氏に、「Viewcast」の誕生とそのコンセプトについて伺った。
その話からは、昨今話題となることが多い配信サービスとは異なる考え方、アイデア、コンセプトが見えてきた。「Viewcast」は、アニメの楽しみ方をさらに進化させる映像ソフトのツールなのだ。「Viewcast」はアニメの未来を変えるのでは?とさえ思えるのだが、それは果たして?今回のインタビューから是非、読み解いていただきたい。
[取材・構成=数土直志]

■ 有志5人のディスカッションでスタート

アニメ!アニメ!(以下、AA)
最初に企画のメンバーを教えていただけますか。今年3月のAnimeJapan 2016での記者会見では、高橋(祐馬)さん、中山(智之)さんも入って5人のメンバーでした。

高橋祐馬氏(以下、高橋)
私と本日同席している中山以外に、営業の統括をする販売推進部の小野木航、制作部の橋本渉と高橋学、というメンバーで、年齢的にはいずれも20代後半から30代です。
私は宣伝部と制作部を兼務し、毎年春に行われる「Anime Japan」の取りまとめなどもしています(高橋氏はAnime Japan 2016総合プロデューサー)。

中山智之氏(以下、中山)
私はネットワーク部デジタル企画課という部署に所属し、アニプレックスのウェブやネットワーク全般を、ビジネス周りも含めて担当しています。ANIPLEX+という直販ECサイトの立ち上げなどにも携わりました。

高橋
中山は、ウェブビジネスやネットワーク関連の経験が非常に豊富なので、本企画立ち上げの際に、彼の知見が非常に参考になりました。

AA
企画はどの時期に、どういう形で立ち上がったのでしょうか。

高橋
立ち上げの前段となるきっかけは1年半ほど前、2015年の正月明け頃になります。非常にシンプルなもので「購入した映像商品が忙しくて観られない……。でも観たい!」という、半分愚痴ですね(笑)。自社商品や、自分で購入した他社商品、どちらも家で観る時間がなかなか作れないことに強いフラストレーションを感じたんです。その時にふと「スマホやタブレットで観られたら便利だな」と思い、そういうサービスが凄く欲しくなりまして、「これはきっと、みんな欲しいに違いない!」と思い込み、資料をまとめて会社に「こうしたサービスを行うのはどうでしょうか」と提案をしたのが、15年の1月下旬~2月初旬頃でした。結果、まずは可不可を含めた「検討」のゴーサインが出たので、中山に相談をして、部門をまたいだ有志を一緒に集めました。それが先ほどの5人で、15年2月中旬からディスカッションが始まりました。

AA
中山さんは高橋さんからお話を聞いた時に、これはいけると思いましたか?それとも結構ハードルが高いなと思いましたか?

中山
どちらかというと「いける」という感覚が強かったです。昨今、映像配信ビジネスの隆盛を目にすることも増えましたが、一方で、形態やプラットホーム数含め今まさに過渡期にあるビジネスでもあります。その中で、配信とパッケージの上手いバランスの取り方はまだ余地があるだろうなと考えていたので、素直に、何か面白い、新しいことができそうだと感じました。もちろん、「作るのは大変そうだな……」と思いましたが(笑)。

AA
5人でディスカッションする時の雰囲気はどんな感じですか? 

高橋
いい意味で、かなりカジュアルな雰囲気でした。「どんなサービスだったらみんな喜んでくれるかな」「わかりやすいインターフェースがいいよね」「無料のほうが嬉しい」「でもめっちゃお金かかるね……」みたいな(笑)。とにかくまずはユーザー目線に近いところから「何を作るべき」「どうあるべき」「それはどうやったら出来るのか」を話し続けました。

中山
その過程で、電子書籍や映像配信、音楽配信アプリが今どういう状況なのかはかなり調べました。ダウンロード数やレビュー評価の高いアプリをみんなで調べて持ち寄って、「このアプリのこの部分は便利だね」「これは面白い仕様だね」「これだったらこうしたら更に良いものになりそう」といった話をしていました。

高橋
そのディスカッションを4ヶ月程続け、現在の「Viewcast」の原型を、実現性やビジネス面含め資料にまとめまして、会社の上層部にプレゼンしました。結果、細かな修正はありましたが、大筋で「GO」を頂き、具体的な開発に着手したのが、今からちょうど1年前くらいになります。

AA
おそらく、世間から見ると、こうしたサービスが立ち上がると、映像ソフトマーケットの未来に対する危機意識か?!というイメージも抱きます。それとは別のアプローチですか?

高橋
別ですね。とはいえ、危機意識がゼロと言ってしまえばウソになると思います。ただ、私達が最も意識すべきは危機ではなく、目の前の多くのファンです。「パッケージビジネスの崩壊」の様な、悪い意味でキャッチーな言葉が先行している状況とは裏腹に、私達の目の前には、現実に、2,000億円を超える巨大な(映像ソフトの)マーケットが存在していて、つまりそこに多くのファンがいます。その皆さんに向き合う方法論の1つが「Viewcast」です。有志でのディスカッションを通して、映像商品に、より良いサービス、より良い視聴スタイルを、アニプレックスらしいイノベーションも含めて届けられると確信し、危機感ではなく、真摯さとして推し進めているイメージですね。

■ 配信プラットホームでなく、ベスト・オブ・ベストのビデオパッケージ商品

AA
今回の「Viewcast(ビューキャスト)」は、今まであるビデオパッケージにプラスアルファで配信サービスもという考え方で、昨今の配信サービスとはやや違うイメージがあります。

高橋
そうですね。シンプルに言うと、「Viewcast」は「配信サービスではなく視聴サービス」ですので、買う方法(配信を含む一次購入)ではなく、観る方法(買ったものをどう観るか)へのアプローチです。そもそも我々は配信サービスを作る気は全くありません。あくまでアニプレックスはプロデュースカンパニーであり、ビデオメーカーです。ビデオパッケージという作品にとってのベスト・オブ・ベストの商品形態を追求していくことが使命です。インフラを作ってそこに作品を乗せるという意図はありません。

AA
話を聞いて納得がいきました。発表された時にいわゆる配信サービスではなくアプリを使うのが面白いなと思っていたからです。そのアプリという選択はどこから出てきたのですか?既存の配信事業者と連携も選択できたはずです。

中山
その選択理由は「いかに自宅以外で便利に観られるかの追求」です。「Viewcast」はパッケージ購入が前提、つまり、ご自宅では商品収録のディスクで、再生機やPCを通じて楽しめる環境があるという前提の元、それ以外の部分での付加価値を追求する事に決めました。特化する事で、インターフェースや仕様の精度を上げて、より良いベストな形で届けられるからです。外出先を補完し、移動中の電車、あるいは旅先、24時間、いつでもどこでもパッケージを楽しんでいただくという考え方ですね。その為には、スマートフォンやタブレットが一番利便性が高くて、やれることが多いんです。

高橋
それと「Viewcast」のサービスの特徴である、本編だけではなくて特典のCDやブックレットや特典映像や、あるいは副音声までもといった、パッケージ商品の魅力全てを楽しめるという事を実現するためにも、アプリという、いわば「特化型ソフト」が最適でした。ただ、全てをデジタル上で再現するサービスはこれまでどこにもなかったので、結果、既存の配信事業者との連携ではなく、自社で独自に開発をするしかなかったんです。

AA
特典を全て盛り込むアイデアも最初からあったのですか?

高橋
かなり最初からありました。本編の面白さはもちろん、例えば副音声や特典CDやブックレット等々も全て含めてが、ビデオパッケージという商品の魅力だと思っているので、単純に「全部スマホやタブレットでも楽しめたら最高だよね」という発想です。

AA
本編だけでしたらおそらく既存の配信サービスもあるわけですよね。

中山
そうですね。映像配信サービスはたくさんありますし、音楽配信のサービスもたくさんあります。書籍ももちろんそうです。ですがそれらが複合して、一緒にまとめて使えるサービスはほぼないんです。映像だけでなく、音楽だけでなく、書籍だけでなく、「Viewcast」はそれら全てを統合して楽しめる形にしないといけない。ただ、その中でどこまで本当に必要なのか、例えば、他の機能を削ってでも書籍アプリの利便性を全部内包すべきかというと、意図的にそこまでは必要ないかと思っていました。作品全体を楽しんでいただく中では、全てを一定水準に保つ今のインターフェースが十全の土台になるのではと。

AA
むしろ、作品としての一体感を選ぶかたちですね。

中山
作品を楽しむ時にアプリを開いて、公式サイトも見つつパッケージコンテンツも楽しめる、みたいに捉えていただけたら嬉しいですね。
「Viewcast」の制作に際しては、最初にまず何がどこにあるのか分るように並べるところから入ったんです。どれが映像で、どれが音楽で、乱雑に並んでいると絶対に分からないので、それをどう整理するかです。ただ、整理するだけではなく、映像、音楽、ブックレット、それぞれ楽しむオペレーションが異なるので、ある程度インターフェースを統一しなければいけない。例えばダウンロードのボタンは統一した方がユーザーには分かりやすいですよね。一方でブックレットを見ているところに再生ボタンがあってもしょうがない。全く同じインターフェースにしても、それはそれで意味が分かりません。システム面、インターフェース面、どちらも最適なバランスを考慮するのはかなり苦労しました。

AA
結果として、今は、映像も音楽、音声もテキストも全部同一のボタン仕様ですね。直感的に分かり使いやすいです。

中山
はい。色々考えた結果、これが最適だと考えています。

■ 映像商品の進化、それが「Viewcast(ビューキャスト)」

AA
今回のアプリは完成形に近いイメージなんですか? というのは新たな対応商品が出てくると思うのですけど、そのときにこれがフォーマットになればと量産化しやすくなります。

中山
映像、音楽、ブックレット、まずはこれらをベーシックにデジタル化出来ているので、そこに当てはまるものは当然このまま提供していけます。そこに外れるようなものが出てきたときには、同じインターフェースでどうやって提供するかを考えなければいけません。
映像や音声から外れるものは……、高橋さんはそういうアイデア考えそうじゃないですか(笑)。

高橋
そうですね(笑)。

AA
サービスインからこれまでの反響はどんな感じなんでしょうか?

高橋
日本のアニメではほぼなかったサービスなので非常に喜ばれていると感じています。サービス全般へのリアクションも、シンプルに「便利」というだけでなく「こういうのがあるなら買おう」という声も頂いています。加えるなら視聴スタイルの面でも、例えば「ここさけ」で言えば、「じゃあ秩父に行って、聖地で見よう」といった、付加価値のある外出先で観られるという視聴スタイルの新しい可能性にも繋がっています。

AA
確かに聖地で本編映像や絵コンテなどと比べながら「このシーンだ」みたいなのは楽しそうです。

高橋
それは最高ですよね。外出中のちょっとの待ち時間に観るみたいなことを含めて、新たな価値観を提供できている手応えを非常に感じています。とはいえ新しいサービスなので、これからゆっくり広げていく感じですね。ただ、対応商品第2弾として「暦物語(6月29日発売)」が決まっていますし、発表はこれからですが、更に数作品の対応がほぼ決まっています。

AA
Viewcastを入れたことで「こんな魅力が増した」という点は何ですか?

高橋
一言でいえば「映像商品の進化」だと思っています。イノベーション(革新)ですね。極端な例えですけれども、固定電話が携帯電話になってすごく変わったじゃないですか、映像商品においてはそれぐらいのインパクトがあると思っています。これまでは自宅だけで固定されていた映像(商品)が外で観られる、移動中に観られる、友達の家に行ったときに「こんな作品が好きでさ、ちょっと観ようよ」という事も可能になる。それに加えて、特典まで含めた全てのデジタル化は業界初だと思うので、これから先のいろんな発展性も感じています。

AA
映像ソフトの形は今後変わっていくだろうと思います。「Viewcast」も含めて、次はどういう展開が考えられますか?

中山
商品仕様そのもののイノベーションを考えていきたいです。例えば特典映像やコメンタリーといったものは、ある時から誰かが始めた新しい特典ですよね。特典CDも、すごく分厚いブックレットも同様で、最近はゲームなどの新たな特典もあります。映像商品は、作品における最高峰のファンアイテムとして常に誰かが進化させてきました。「Viewcast」を実装することによって物理的な制約が解かれます。するとさらに新しい可能性が広がります。例えば、複数のキャラソン音源を用意して選んでもらえるかもしれない。購入者限定視聴の生放送をできるかもしれない。外部のアプリと連携して何かができるかもしれない。今までは絶対にできなかったアイデアもこのサービスによって見えてきています。

高橋
先ほど、外で楽しまれる方が聖地(秩父)で、というお話がありましたが、例えば、本編のある場面のその場所に行ったら特別な映像が流れる、みたいな事も、GPSと連動することで可能になるかもしれません。「それはパッケージを持ってないとできない」という新しい楽しませ方を考えられます。とにかく、今よりも圧倒的に、購入したものに触れる機会を増やせる可能性があると感じています。

中山 
ええ。そんな気はしますね。せっかく買っていただいたものなので、「Viewcast」が、今まで以上に作品を楽しめる役に立てたら嬉しいですね。

AA
作品をもっと長く楽しむみたいな。

高橋
仰る通りです。「Viewcast」の最大の特徴は「いつでもどこでも、気軽に観られる」ということだと思っています。仕様や特典のイノベーションももちろんなのですが、最も大事なのは「観てもらうこと」です。人ぞれぞれ、繰り返し何度も観る映画ってあるじゃないですか。だから、そんな風に、より好きになっていただける、触れられる入り口になると嬉しいですね。
繰り返し観て、より好きになって、また同じ監督さんや同じチームが新たな作品を創ったときには、その情報も届けながら、前の作品を更に好きになるといった、良い循環の様なものが生まれて、それがアニメ全体の発展につながっていくと素敵だなと思っています。

AA
本日はありがとうございました。

アニプレックスの新デジタル視聴サービス「Viewcast」はどうやって誕生したか 開発者インタビュー

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