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【DEVELOPER'S TALK】音楽とゲーム性の融合!『アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く』世界初の楽曲自動生成システムに込める想い

バンダイナムコゲームスから2010年1月28日に発売された『アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く』は、シリーズ初となるPS3向けタイトルとして開発されました。

ゲームビジネス 開発
【DEVELOPER'S TALK】音楽とゲーム性の融合!『アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く』世界初の楽曲自動生成システムに込める想い
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  • アルトネリコ3
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―――『アルトネリコ』は毎回システムが変わっていきますよね

ガスト樋口氏
樋口: 社風かもしれません(笑)。企画チームがやりたがるんです。

土屋: 毎回システムが変わっていくのは『アトリエ』シリーズも同じで、僕らは常に発展途上だと思ってるんです。例えば戦闘システムは、毎回チャレンジした分だけ反省点が出てきます。それを直したり、今ならこういうシステムにするべきだという挑戦をしていくと毎回システムが変わったものになってしまいます。冒険心を忘れず常にチャレンジしている表れと言うとカッコ良すぎでしょうか(笑)。

―――今回はPS3に移り、なおチャレンジし甲斐があったのではないでしょうか

土屋: アクティブ楽曲生成システム、「R.A.H.」はまさにその部分ですね。PS2では実現は不可能でしたが、PS3だったらリアルタイムに生成される楽曲を実現できるのではないかということで、CRIさんに相談したんです。

押見: 初めに構想を伺った際には「無茶するなあ」というのが正直な感想でした(笑)。ただ、私自身も10年前からガストさんとお付き合いがあり、ゲームの音楽について常に先進的な取り組みをされている会社さんというのは頭にありましたので、ストリーミング音楽での楽曲自動生成をされたいと伺い、ぜひ実現させたいと協力させていただきました。その成果は昨年のCEDECで発表したアダプティブミュージックシステム「ADAMS(※)」に結実しています。

※「ADAMS」・・・ゲームの状況に合わせて変化する音楽をストリーミング音楽で実現する、CRIの新技術。複数のトラック(ドラム、ベース、ボーカルなど)を独立して制御し、自由に他の素材と入れ替えることが可能。またテンポを変えないキーチェンジ、音程を変えないテンポチェンジなど、従来MIDIの世界でしか実現できなかったことをストリーミングで可能にする。

―――なるほど。「R.A.H.」のシステムはどのような構成になっているのでしょうか?

土屋: システムとしては、PS3のシステム上にアダプティブミュージックシステム「ADAMS」が構築されていて、音声データの管理や複数データのストリーミングなどを行っています。更にその上に「R.A.H.」があり、どんな曲にするか、リアルタイムに命令を出している形です。

図:「R.A.H.」のシステム構成(CEDEC2009セミナー資料より)


―――具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか?

土屋: 「R.A.H.」は戦闘中の状況変化に呼応するように、場面に合った楽曲をリアルタイムに組んでいくシステムです。楽曲の元素材は4小節の区切りを1つのデータとして膨大な量が用意されていて、コーラス、ボーカル、インスト、リード、リズム、エクストラなど様々なタイプが存在します。それらの多彩な素材から、戦闘の状況や装備品から判断して適切な素材を抽出し、どのような組み合わせで曲を作るか、という命令を作ります。それをADAMSに投げて、再生してもらいます。ですから、「R.A.H.」が鳴らすべき音を選んで、ADAMSがストリーミング再生するという流れです。

土屋: また、「R.A.H.」システムでは「デッキ」と「ブロック」という独特な概念があります。「デッキ」は戦闘開始時に準備される初期楽曲データのようなもので、コードや音素材の組み合わせ、曲の進行(例:「Aメロ→Bメロ→サビ→間奏」)などを決めています。「デッキ」の作成は戦闘開始時に1回だけ行われます。これに対し「ブロック」は、一定タイミング毎に発生する処理によって構築される、実際に発音するWAVE素材をチョイスし登録していく処理のことです。「ブロック」は戦闘の状況に合わせてリアルタイムに音素材を選定し、割り込みをかけてどんどん曲を変化させていきます。

―――戦闘との繋がりを具体的に教えていただけますか?

土屋: 『アルトネリコ3』では戦闘中にパージ(※)することでヒロインが4段階にパワーアップしていきます。ヒロインにはパージに対するパワーアップアイテム(ヒューマ)を付けることができ、パージをすると、それに応じたヒューマが有効化されます。そのヒューマには楽曲情報が入っていて、パージされると同時に解放されます。例えば、ヒューマにボーカルラインが楽曲情報として入っていれば、そのヒューマをパージすることでボーカルが再生されるようになります。また、戦闘の状況でピンチ/ノーマル/ハイテンションの3 種類でテンポやキーが変わって雰囲気が変わっていきます。

※パージ・・・戦闘中にヒロインが服を脱ぐことにより、詩魔法がより強力になるシステム

―――リアルタイムに楽曲を構成する試みは過去にMIDIでは実現されていたと思いますが、それをストリーミングで、さらにゲーム性に融合した形で実現したというのは本当に凄い事ですね

土屋: CRIさんには無理を言ってテンポチェンジやピッチチェンジを実装していただいて、その効果は絶大でした。自然に聞ける楽曲を自動に生成するという点では「R.A.H.」のアルゴリズムの実装時点で、音楽理論を引っ張り出してかなり研究しました。

土屋: 例えば曲の進行としては、「Aメロ→Bメロ→サビ」というように、自然に聴ける流れがあります。転調すると曲は盛り上がりますが、ここからここへの転調はダメ、という法則もあります。また、音の組み合わせが凄くカッコいい曲なのに、後ろで変な音が鳴っていると台無しという事もあります。それらが起こらないように計算して、かなり複雑な楽曲表や転調表を基にコードの組み合わせを導き出して、鳴らすべき音を抽出して楽曲を構成しています。

樋口: また、曲が一周して最初に戻る際の法則もあります。曲は基本的にはループしているので、サビが終われば先頭のAメロに戻るわけですが、サビのキーからAメロのキーに戻る際に不自然な転調も起こりうるので、そういった面にも気を遣いアルゴリズムを組みました。さらにパージされると今まで用意していた進行に割り込みが入り、楽曲が全く別のものに変わります。ですので、処理はかなり大変ですね(笑)。

―――使用する歌もかなり収録されたと聞いています

土屋: まさに物量とクオリティのせめぎ合いでした。ベストなのはキーチェンジに対応して1キーずつ24パターン(2オクターブ分)、さらにマイナーとメジャーを収録するということです。どう考えても無理ですが(笑)。最初に自社でピッチシフトだけでどこまでいけるか、と検証した際には元素材のプラスマイナス1のピッチシフトが限度という印象でした。ただ、エンターテイメント性が優先で、クオリティは後回しだと思っていたので、最悪多少変になっても構わないとは思っていました。そこをCRIさんに声質が変わらないピッチシフト(フォルマントの操作)に対応していただいたおかげで、元素材のプラスマイナス2のピッチシフトが可能になりました。これにより、同じ素材を5回使い回す(※)というところで落ち着けました。

※「同じ素材を5回使いまわす」・・・たとえば元の歌データのキーがDだった場合、ピッチシフトを使用することで一つの歌データからC,C#,D,D#,Eの5種類の音が生成できる。

■ミドルウェアの利用で開発効率もアップ

《土本学》
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