鈴木氏はこれまでもアニメ関連の海外事業のサポートやプロモーションを行なってきましたが、今回、Kickstarterというまったく新しいサービスを利用して資金調達とプロモーションに挑戦しました。今回のプロジェクト『キックハート』は、海外でも高く評価されている湯浅政明氏が監督、押井守氏が監修の「ドMとドSのプロレスラーの恋の物語」というマニアックな内容の短編アニメーション。企画自体はかなり古くから暖められていましたが、内容や短編という尺の点でも国内では出資を集めにくい企画であるため、今回、Kickstarterを利用した資金調達を行いました。
Kickstarterはアメリカの代表的なクラウドファンディング・サービスです。鈴木氏は、プロジェクトの企画者が目標金額とキャンペーン期間、金額ごとに異なるリワードなどを設定し、一般の人々から資金を募るというKickstarterの仕組みを簡単に説明した後、『キックハート』の事例について報告を行いました。
本プロジェクトは、元I.G社員のJustin Leach氏がKickstarterを同社に紹介したのがきっかけとなり、開始しました。プロジェクト体制は、制作スタッフ、国内プロデューススタッフ、USAプロデューススタッフの大きく3つに分かれています。制作スタッフは制作を手がけながら、ソーシャルメディアにプロジェクトの情報を提供、国内プロデューススタッフはプロジェクトの目標金額に到達したときのリワードの試算や予算管理を行い、USAプロデューススタッフはプロジェクトのサイト運営を行い、出資者からの作品への要望をくみ取り、日本のプロデューススタッフとやり取りをおこないました。
プロジェクトの全体の流れは、まず企画内容と目的を設定し、PRムービーを制作。目標金額を15万ドル、出資者を募るキャンペーン期間を30日間に設定しました。Kickstarterの運営側の審査が1週間程度かかり、審査通過後、キャンペーン期間が開始。Kickstarterのプロジェクトサイトの運営を中心にTwitterやFacebookなどのソーシャルメディア、イベントなどを活用して出資者を集めました。目標金額の達成後、出資者からの資金が回収されてプロジェクト側に渡され、現在、実際にフィルム制作を行なっています。
キャンペーン期間中のスタッフの役割は非常にダイナミックで、ほぼ30日間24時間体制の運営を行いました。KickstarterにはKicktraqという出資者の応募や支援額を統計化してくれるサイトがあります。スタッフはこのデータを利用することに、リワードの種類や価格を動的に変更することでキャンペーン期間中のプロジェクトの盛り上がりを維持することに努めたといいます。
例えば、キャンペーン初日に250ドルのリワードへの出資者がたくさん集まったため、すぐに500ドルと1000ドルのコースを加えました。その結果、さらに出資者が増加。その勢いを加速させようと、さらに高額の2000ドル、5000ドル、8000ドルのコースを追加するも、「現場で使用した鉛筆のプレゼント」などリワードのアイデアが枯渇していきました。その結果、プロジェクトの掲示板やSNSではリワード内容などに対する疑問点が指摘され、一時的にプロジェクトへの不信感から出資者が減っていきました。
そこでニューヨークのイベントでリワードの内容の改正案を発表。ポストカードやポスターなどが欲しいという出資者の要望に迅速に答え、盛り上がりを取り戻したといいます。さらに目標金額の達成後もキャンペーンの盛り上がりを保つため、達成直前に追加の目標金額(Strech Goal)を設定。最終的に、無事に目標金額の15万ドルを超えた20万ドルの資金調達に成功しました。
以上の事例を通して、鈴木氏はKickstarterでのプロジェクトを成功させるために重要な点を以下のようにまとめました。第一に出資者の要望や不満点を丁寧に汲み取り、プロジェクトの温度感に常に敏感でいることが求められます。そのため、キャンペーン期間中はほぼ24時間体制での運営が必要であり、迅速な決断と対応が必要とされます。またこのように非常にハードな運営を求められるため、15日、30日、45日から選択できるキャンペーン期間は長ければ長いほど良いわけでもなく、最初に設定する目標金額も高額であればあるほど良いわけでもないといいます。
さらに二点目として、Kickstarterやクラウドファンディングは単なる資金調達サービスではないことが強調されました。キャンペーン期間中は出資者たちの要望に応えつつ、プロジェクトを盛り上げることで、各種メディアへのプロモーションが期待されます。そのため、プロジェクトの最終的な成果だけではなく、「キャンペーン自体がエンターテイメント」であることを認識し、出資者たちに「自分たちの力でプロジェクトを達成した」と感じてもらうことが重要だと述べていました。
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