岩田聡氏が示したもの
平林
ちなみに2014年、日本で最も売れたゲームは『妖怪ウォッチ 元祖/本家』でした。『ポケットモンスター』『モンスターハンター』『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのそれぞれ最新作が、ミリオンセラーになりました。確かに地産地消型です。それと、オールゲームニッポンではいつも言っていることですが、日本でヒットするゲームは残酷さが一切ありませんね。日本のゲームユーザーは銃・血・死を好まない。この傾向がはっきりと表れています。
安田
最近、僕は日本でつくるゲーム、日本でヒットするゲームのことを「縄文式ゲーム」と呼んでいます。
平林
なるほど、縄文!
安田
はい。発達した文明を持っていて、道具や日用品は多数発掘されるのに、武器は一切発掘されないのが日本の縄文時代です。当時、地球上で文明があった地域では、どこでも武器が出土していますが日本は特殊だそうで。戦争をしなかった縄文人です。
土本
ところで今月は、任天堂・岩田聡社長の訃報に接することになりました。
安田
大切な人を亡くしました。今日はゲーム市場の話が出ましたけど、年々市場が小さくなっていくさなかにニンテンドーDS、Wiiを世に出して、ゲーム人口の拡大を訴えられました。特に「触る」「振る」という動作をゲームのインターフェイスに取り入れて、それを会社全体で実現したのは、偉大なご功績だと思います。
平林
じつは私が出版社を辞めて独立したときに、最初にクライアントになってくれた会社がHAL研究所でした。当時、岩田さんは開発部長でいらして親しくさせていただきました。
安田
おつきあいが長かったんですね。
平林
任天堂の社長になられる以前ですが、よくお話をしました。で、訃報が伝わった直後から、複数のメディアの方から取材をされましていろんなコメントをしましたが、きっちりと伝わらなかったので、最後に自分の言葉でまとめさせてください。
土本
はい。
平林
私の心の中での岩田さんは「正論の人」でした。任天堂を改革した、イノベーションを起こした……と論評されることが多いようですが、岩田さんは何も特殊なことをしていません。ゲームがどうあるべきか? 真正面からとらえて正論を述べて、それを淡々と実行なさったにすぎない。あと、私は岩田さんのことを「日本を代表するGEEK(ギーク)」だと思っています。卓越した知識と技術を持つコンピュータの使い手、ちょっと変わったヤツ。そういう人物を、オタクとはちょっと違った意味で、英語でGEEKと言いますが、そんなイメージがあるんです。学生時代、人生の選択肢はたくさんあったのですが、HAL研究所でゲームプログラマーになった。海の物とも山の物ともつかない世界に飛び込んで、功を積み上げて任天堂の社長になった。こうした岩田さんのご経歴は、ある意図を込めて改めてクローズアップしたいですね。
土本
ある意図とは?
平林
コンピュータが好きな若者がキャリアアップを考えるとなると……いまだにITバブルの名残があると思うんです。成功=「起業してIT長者になる」を連想する人、今でも多いんじゃないでしょうか。もちろん、そういう道があっていいのですが、他のサクセスストーリーもある。ひたすらプログラムを書く。働きながら学びも重ねて、周囲に認められて任天堂のような会社の社長になる。特例中の特例ですが、日本にはそういうGEEKがいたのだ、ということを改めて言い残しておきたいです。
(次回配信は8月28日予定です)
■パーソナリティの紹介

安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。

平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。