作画に関しては詳しい方々にお譲りするとして、本作のすばらしさを物語の観点からお話ししたいと思います。
“どんなに強大な相手でもワンパンで倒してしまう力”を持ったサイタマは、趣味でヒーローを続けつつワンルームのマンションで慎ましい生活を送っています。彼は街を危機から次々と救っていきますが、一向に評価されません。あまりに強すぎるため「偶然」や「他に何かがある」と思われてしまうのです。やがてヒーローとして名を挙げるには「ヒーロー協会」に入会し、ランクを上げていかなければならないことが判明します。ランクには最上位の“S級”から最下位“C級”まである中で、サイタマはC級ヒーローとなります。明らかに強いのに、認めてもらえない。
サイタマの実力を知る人間はいます。サイボーグのジェノス、音速のソニック、シルバーファング、そして無免ライダー。拳を交えた怪人たちや目の前で命を救われた市民たち。彼らはサイタマがどれだけ強いかを身をもって知っています。ですが、多くのヒーローやヒーロー協会の幹部はサイタマの実力を信じていません。「強者だけが知りうる相手の強さ」といった概念がサイタマには通用せず、その力が想像の埒外にあるからです。
助けた市民から貶され罵声を浴びせられることもあります。例えば巨大隕石がZ市を襲う第7話「至高の弟子」。S級ヒーローたちが決定的な対処法を見いだせないまま迫る隕石。それをサイタマはワンパンで砕きます。Z市は消滅を免れますが、隕石の欠片群により大破します。サイタマは街を破壊された市民から「ヒーローをやめろ!」と非難を浴びます。その時に彼が返した言葉はこうです。「うるせえ! お前らの評価がほしくてやってるんじゃねえ! 俺がやりたいからやってるんだ!」。
評価がほしい。自分がやっていることを認めてほしい。承認欲求は日々の努力のモチベーションとなると同時に、枷ともなります。認められない自分。評価されない自分。その状態が続くと腐っていってしまう。ですが、サイタマはそうした「承認欲求」とはほとんど関係のないところで生きています。これこそがサイタマの強さなのではないでしょうか。認められなくてもいい。自分がやりたいからやる。手応えのあるやつと戦いたいーー。
そして視聴者は思うのです。「多くの人に認められなくても、私はお前の強さをわかってるからな!」。多くの人は知ることがないその強さや活躍を、視聴者は見ることができます。そしてジェノスや無免ライダーに対して「お前もわかってくれたかああ!」と狂おしいほどの喜びを感じられます。
「多くの人に認められない強さ」を「わかってくれている存在」があるだけで、こんなにも救われるものなのですね。同時に、世界が絶対強者=サイタマを中心に回っているわけではないことも、現実世界と重なり合点がいくのです。社会は複雑です。私のことは、ほとんどの人は知りません。でも、「自分のことを見てくれている人がいる」それだけでうれしいものです。
そして怒濤の20分が終わった後には、森口博子さんが「ねえ。早く帰ってきてね」とやさしく歌うエンディング。涙です。
『ワンパンマン』はONE・村田雄介氏のコミックスを原作としたTVアニメで、監督には『スペース☆ダンディー』でTVシリーズ初監督を務めた夏目慎吾さん。キャラクターデザインと総作画監督には『天元突破グレンラガン』やTVアニメ『新世界より』、『スペース☆ダンディ』で活躍した久保田誓さん。シリーズ構成は映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』や『TIGER & BUNNY』などを手がけた鈴木智尋さん。参加アニメーターは小嶋慶祐さん、久貝典史さん、亀田祥倫さん、金世俊さん、小田剛生さん、半田修平さんをはじめ、実力派アニメーター多数。
2015年春くらいの何かの取材の折、某有名アニメーターの方が「10月クールは『ワンパンマン』にアニメーターが集まるんじゃない?」とポツッと発言されていたのが印象的でした。第2期、お待ちしています。
▽プロフィール
細川洋平(ほそかわ・ようへい)
俳優兼ライター。月刊Newtypeやアニメ!アニメ!の他、『攻殻機動隊 新劇場版』BD、『ガールズ&パンツァー 劇場版』サントラCDや『リトルウィッチアカデミア』BDなどのブックレット、『キャプテン・アース』公式アーカイブ「ファイナルエクスパンド」などで執筆やお手伝いをしています。
「ワンパンマン」作画でなくあえて物語から見る魅力【2015年の一本】
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