何年経っても色褪せないゲームは確かにあります。何度もリマスターされたり、時にはリメイクまでされたりするのは、普遍的なテーマを扱っているから世代を跨いで心を打つからなのでしょう。
『サガ フロンティア2』(1999年4月1日発売)もそんな名作の一つで、筆者にとって「大事なことを教えてくれた」ゲームの一つです。そんな作品が、26年の時を経てリマスターされました。

本作は群像劇かつ人間讃歌。そして、歴代『サガ』シリーズにあっては異端です。というのも、『サガ』シリーズは主人公を好きに選べたり、どのシナリオから進めても最終的にゴールは同じだったり、自由度の高さが特徴でした。しかし、本作は一本道のルートしかありません。「サンダイル」という世界を舞台に、ギュスターヴ13世という王の生涯を描く一大叙事詩を、その一方で同時代を生きた、古代遺物「クヴェル」を発掘するディガーであるウィリアム・ナイツの親子3代に渡る物語が綴られます。
これまでの自由度を度外視してでも、伝えたいドラマがこのゲームにはあったのでしょう。水彩調のグラフィックと美しい音楽は歴代作品においても随一で、ストーリーの重厚感も際立っています。
ひと足先にリマスター版をプレイすることができたので、ギュスターヴ13世の人生を追いかけながら、本作の魅力や新たに追加された新要素をご紹介します。

以降はギュスターヴ編のネタバレを多く含みます。未プレイの方は閲覧にご注意ください。
術社会において、術不能者として生まれたギュスターヴ13世



サンダイルは術社会です。この世界では術を引き出すために用いるエネルギー「アニマ」があり、戦いだけでなく日々の生活においても、術を使います。そして、人の命がなくなれば、大いなるアニマの本流に還るとされています。フィニー王国の後継者として生まれたギュスターヴ13世の悲劇は、木や石にもアニマが宿る術社会において、アニマを操る術を持たずに生まれたことにあります。しかし、サンダイルでは、一定数、生まれつき術が使えない人間がいました。ギュスターヴ13世の時代、彼らは「アニマを持たない」と蔑まれたわけですが、アニマを持たないのではなく、アニマは誰にもあるけど操る能力を持たなかっただけ……それを後世に知らしめるきっかけになったのが、ギュスターヴ13世の存在です。

彼はアニマを操る術を持たずに生まれたものの、金属は術の効果を邪魔するということから、これまで軽視されていた鋼に着目し、アニマを使わずに戦える力、王国を発展させる術を見つけた大きな革新者でした。

王家を追放されたギュスターヴを、母のソフィーは見捨てませんでした。

己のアイデンティティーとの出会い

東大陸のフィニー王国を追放されたギュスターヴ13世は、南大陸のナ国グリューゲルで庇護を受けました。しかし、術不能者であり、追放されたという事実は彼の心を捻じ曲げ、すっかり乱暴者として育ちます。そんなギュスターヴ13世に対して、「術が使えなくても、あなたは人間なのよ!」と訴える母ソフィーのシーンは印象深いです。


ギュスターヴはこの地で、同じく術不能者の少年・フリン、そして、生涯の理解者となる女性・レスリーと出逢います。
そして、ギュスターヴ13世は転機となる鋼の剣と出会うことになります。


サンダイルでは、料理するだけでも石や木のアニマを引き出して行います。そのため、耐久力が尽きれば壊れますし、使う側も消耗します。しかし、鋼はアニマを使わずに斬れることに着目したギュスターヴ13世は、これまでになかった鋼の大剣作りに着手します。これが後の、アニマを使えない者たちでも戦える鋼鉄兵を生み出し、彼が鋼のギュスターヴと呼ばれることに繋がります。

実際、腕試しとして臨んだ盗賊との戦いにおいて、鋼の武器の優位性が際立ちました。攻撃力の高さに加えて劣化することなく、術を阻害する特性を持つ鋼だからこそ、術ダメージを半減化できました。術不能者であっても、術が使える者と渡り合えたことは大きな転機です。
ただし、基本的には術社会なので、ギュスターヴを始め、作中では鋼武器を有効に使えるキャラが限られています。


本作のバトルシステムもシリーズならではの技・術の閃き、連携は健在です。リマスター版では「連携演出」や「入場演出」をテンポアップすることでバトルを快適化されており、戦闘速度は「等速」「2倍」「3倍」から自由に選べます。またバトルだけでなく、MAP移動やイベントシーンも倍速で遊べるようになっています。


バトル開始時には、パーティ全員で戦う以外に、モンスターと1対1で戦う「デュエル」が選べます。新たな技や術を習得しやすいというだけでなく、他のパーティーキャラの消耗を抑えることができる、バトル時間の短縮といったメリットがあります。ただ、均等にキャラを育てたい、連携を繋げたいならパーティ全員で戦うのがおすすめです。

なお、ギュスターヴ編で主要なプレイアブルキャラクターとなるギュスターヴ13世やケルヴィンは、最後まで育成することができないだけでなく、育てなくてもストーリーが進むと(年齢を重ねて)勝手に成長しています。なので、シナリオの進行では育成に力を注ぐ機会があまりないと思われがちですが、技や術の閃きは引き継げますし、後述する「成長能力継承」というリマスター版の新追加要素があるのでギュスターヴ13世を中心に可能な限り育成を重ねるとウィル編の進行が楽になるでしょう。
母の死をきっかけにギュスターヴは変わる

ギュスターヴ13世が15歳の時に同じ南大陸のヤーデに移住し、親友となるケルヴィン(ヤーデ伯の嫡子)とも出会います。そして、19歳の時に母の死を迎えます。

自分のせいで苦労をかけ、寂しく死んでいく母に合わせる顔がないと嘆くギュスターヴ13世。初めてプレイした時はそこまで母ソフィーの生き方に思いを巡らすことはありませんでしたが、ちょうどリマスター版のプレイをする直前に筆者も母を亡くしたことで、この時のギュスターヴの後悔や顔向けのできなさを想像することができました。年齢を重ねたことで同じシーンであっても、見え方や感情移入するポイントが変わるのは、改めてリマスター版をプレイする醍醐味です。


最後までギュスターヴ13世を心配し、ケルヴィンやレスリー、フリンたちを大事にするように伝える母ソフィー。

フィニー王国に置いてきてしまった、ギュスターヴ13世の弟・フィリップ、妹のマリーにもよろしくと伝え、最後まで夫であるギュスターヴ12世への恨み言ひとつ言わない姿が印象的でした。

人が変わるには何かを失わないといけないことが多い。母が間も無く死ぬと分かっていても、その悲しみから目を逸らし続けることしかできないのが人間の弱さです。しかし、最後に母と向き合い、その思いを受け取ったことで、ギュスターヴ13世は自分の人生の意味を考え、新しく進む方向を見出すことになります。
後継者争いに名乗り出るギュスターヴ13世

母の死を乗り越えたギュスターヴがワイド領を得た後、父であるギュスターヴ12世の急逝の知らせが届きます。腹違いの弟であるギュスターヴ14世が跡を継いだものの、ギュスターヴ13世は周りの後押しもあり、後継者争いに名乗り出ます。

この時、母のソフィーは肉親同士での後継者争いを望まないと分かってはいても、「こんな自分がどこまで行けるのか」という存在価値を試さずにはいられない複雑さが実に人間の心の難しさを表しています。



ギュスターヴ編では大軍勢が戦うシミュレーションRPG要素の「コンバット」があります。毎回、勝利条件が異なるものの、ギュスターヴやケルヴィンなど主要キャラが操作できる点ではプレイヤーが戦力で勝ることが多いです。まさに一騎当千とはこのこと。


とうとうフィニー王国に帰ってきたギュスターヴは、弟のフィリップ、妹のマリーと再会を果たします。


ギュスターヴ13世の側にはいつだって、レスリーがいました。しかし、正史では二人の婚姻関係はもちろん、ギュスターヴ13世に子供がいたという記録はありません。それが後の後継者争いに発展してしまうのですが、歴史に描かれなかったことが全てではないはずです。もしかしたら2人の間には子供がいたのかもしれない……そんな想像の余地を抱かせるのが歴史のミステリーならぬ、人間模様なのでしょう。

兄弟再会のシーンでは、ギュスターヴ13世と共にあった母ソフィーのアニマによって、弟フィリップの憎しみが癒やされます。この日はギュスターヴ13世にとっても最良の日だったようです。

そして、ここからギュスターヴが49歳で暗殺されるまで覇道が続いていくことになります。血生臭さを払拭できないものではありますが、自分の不遇を呪うことなく逆境から這い上がった彼の人間力に惹かれ、彼の元に時代の寵児たちが集まる壮大な叙事詩だったのは間違いありません。ぜひ、物語の結末はプレイして確かめてください。
追加要素ではギュスターヴのシナリオが大幅に補完される
当時、ギュスターヴ編は大変魅力的ではありましたが、ウィル編がダンジョン探索やバトル、キャラ育成を楽しめる上にキャラの掘り下げが深かったのに対し、物足りなさがありました。例えば、フィニー王国に返り咲いた後、ケルヴィンと妹マリーの結婚、仲間になるヨハンやヴァンアーブルの関係性などは、当時の攻略本や設定資料集でしか詳細が語られなかった記憶があります。



ギュスターヴ編は正史を追体験していくのが目的のため、キャラクターはそれぞれ魅力なものの、バトルでは操作できなかった点も物足りなさの一因でした。しかし、リマスター版ではそうした物足りなさを払拭する新たなシナリオが複数追加されています。


その中には、ケルヴィンとマリーの馴れ初めはもちろん、素顔がほとんど垣間見られなかった暗殺者ヨハンの意外な側面が見られるもの、勢揃いしたギュスターヴの仲間全員を操作できるシナリオもありました。もちろん、ウィル編の追加シナリオも満載です。さらにはクリア後にしか見られない、その後のシナリオが解放されるだけでなく、やり込み要素として、強化ボスが、いくつかの要素を引き継ぎながら新たにゲームを始めることができる「NEW GAME+」が用意されています。