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群像劇アドベンチャーゲームの可能性とは?『かまいたちの夜』からシナリオゲームが抜け出すためのトライアルを読む【CEDEC2025】

『CEDEC 2025』でイシイジロウさんと北島行徳さんがシナリオゲーム/群像劇ADVについて解説。シナリオルートやループ構造を掛け合わせて進化してきた過程、自身らのトライアルな試みについても触れます。

ゲーム ビジネス
群像劇アドベンチャーゲームの可能性とは?『かまいたちの夜』からシナリオゲームが抜け出すためのトライアルを読む【CEDEC2025】
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パシフィコ横浜 ノースにてゲーム技術者やコンピュータエンターテインメントのエンジニアらを対象とした、国内最大級のカンファレンス『CEDEC 2025』が2025年7月22日から24日かけて開催されました。

数多くの講演者が登壇・講演を行なっていくなかで、7月23日にはゲームデザイナー・脚本家のイシイジロウさんと、脚本家である北島行徳さんの2人が、群像劇アドベンチャーゲームの構造や魅力について熱く語りました。

イシイさんと北島さんは長年にわたる制作パートナーとして共に作品を生み出しており、『428 ~封鎖された渋谷で~』『タイムトラベラーズ』などを手掛けてきました。

そんな2人が得意とするゲーム性と言えば、まさに群像劇やノベルゲームを軸にした作品。イシイさんはノベルゲームの構造について、ノベルゲーム以前以後ととしてこのように紹介しました。

まずノベルゲーム登場以前は、ストーリーとゲームがサンドイッチ構造となっており、ゲーム部分とストーリー部分は別れ、ゲーム部分でゲームオーバーが起こる・分岐が起こるという発想になっています。

これがイシイさんの視点で変わったと感じたのが、『弟切草』『かまいたちの夜』の2作品だといいます。ストーリーそのものがゲーム化し、選択肢を通じて変化していくのが特徴となった2作であり、かなり実験的な作りであるがゆえに似た作品がなかなかないともいいます。

AとBとCのストーリーを選択肢によって行き来できるような仕組みになっており、さきほどまで恋人だった相手が、選択肢を選ぶと途中でバケモノのような存在になり、別の選択肢を選ぶとふたたび恋人に戻っているというような、いったりきたりする構成でした。

面白いのだけども、ストーリーの辻褄が合わず唐突な展開がおこってしまう『弟切草』、ストーリーの感動や体験の均一化を図れないかと考えられたのが『かまいたちの夜』だったとイシイさんは解説します。

ピラミッド型のフローチャートであり、シナリオAとBを行き来したり戻ったりすることはないので、物語上で正しく因果律がつながって理解できる形になっています。

この時点でもすごいですが、イシイさんが『かまいたちの夜』を"恐ろしい"と称したのは、シナリオの入口(冒頭)にグッドエンドを作ったことだと言います。

ルートの冒頭にグッドエンドを置いているという構造は、ループするストーリー構造へとつながっていきます。最初にグッドエンドへとたどり着ければいいですが、ストーリーを何度も繰り返すことで何度も死んでいき、ヒントを元に犯人や敵役を追い詰めていくことになります。

逆に言えば、死なないとヒントに近づけない、やればやるほどに冒頭のグッドエンドが見つけやすくなり、ミステリーとして良いバランスができているとイシイさんは話します。

このループ構造はゲームを解かないといけないため、必然的にゲームでなければ表現できない形だったのですが、同人ゲームとして登場した『ひぐらしのなく頃に』が、バッドエンドを見せてからもう一度頭からスタートしていくという形を提示し、ゲームという作品形式ではなくても映画やアニメ作品にも簡単に持ち込めるようになったといいます。『STEINS;GATE』『魔法少女まどか☆マギカ』といった名作でも近しい構造になっていますね。

『ひぐらしのなく頃に』では、そもそもなぜループするようにストーリーが進んでいるのか?というのが謎となって提示され、当時真新しいストーリーとして提示され、反響を与えました。

ループ構造を自然に組み込んだストーリー展開を持ったこの作品の影響は大きく、ループ構造や分岐構造はその後非常に広まり、消費されていくことになります。イシイさんも漫画家さんとの話の中で「もうやり尽くされてもうでてこないよ」と話したことがあると打ち明けています。

そんななかで、イシイさんと北島さんが関わっている『428 ~封鎖された渋谷で~』『タイムトラベラーズ』、イシイさんと関わりが深いチュンソフトから発表された『街 ~運命の交差点~』では、群像劇をフローチャートではなくマルチサイトという言い方をして捉えています。

この写真は『EVE burst error』などの作品のストーリー構図です。

キャラクターAが死んだ場合、自分もしくはキャラクターBに原因がある。もしも自分が悪くないのであれば、キャラクターBの分岐を変えれば、キャラクターAがちゃんと進んで最終的にエンディングへとたどり着くという話になっています。このときに、自分ではなく他キャラクターを動かして分岐を変えることを、他人分岐と呼んでいました。

もう一つの分岐として、選択肢としてはどちらを選んでも一緒になるという構図があります。ゲームであれば選択肢に意味を持たせなければいけないですが、自分(プレイヤー)にとってはどちらを選んでも運命を変えられなかったが、他人にとって運命を変えているという意味をもたせられ、一つの構造をつくることができる。左右に分岐した形をとって提灯分岐と呼んでいました。

これが3人以上のキャラクターが参加するマルチサイトになった(群像劇)はストーリーパズルとなります。『428 ~封鎖された渋谷で~』『タイムトラベラーズ』などのフローチャートがこちらになります。

3人以上が関わると、このようにその人数分だけ選択肢や分岐が増えることになります。このチャートでオレンジの部分、シナリオCとシナリオAがオレンジ色で影響し合っていますが、このようにAとCがつながっていることになる。この時点で、物語構造が飛躍して二次元から三次元となると話します。

イシイさんは北島さんから紙をもらうと、おもむろに端と端をくっつけ、円柱状にしてこちらに見せます。AのシナリオとCのシナリオが選択肢の選び方によって影響し、つながりあうことを指し示しています。

こういったイシイさんのアイディアをうけ、北島さんがどのようにシナリオを執筆していったか。北島さんに語りのバトンが渡りました。

北島さんは、キャラクターがどういうふうに動いているかを正確に判断しなければいけないため、まずはマップを作り、行動範囲と移動時間をしっかりと把握するといいます。渋谷であれば渋谷の、横浜であれば横浜の、舞台となる場所や建物を理解し、どういう風な行動ルートを通るかを初めに作ってしまいます。

つぎにそれぞれのキャラクターが、どの時間でどこを通り、何をしていたかを管理します。これをしなければ、先程あげた他人分岐が作れなくなってしまうので、綿密にとらえていきます。

とあるキャラクターの朝9時から夕方5時までを"縦"で管理し、他のキャラクターの朝9時から夕方5時までの行動を並べることで、選択肢に応じて"横"でつながっているようにすれば、他人分岐を作ることが容易になり、3次元のシナリオへと仕上がっていくわけです。

また、それに伴ってキャラクター設定の密度を通常よりも詰めていくといいます。他作品でももちろんキャラクター設定を組んでいきますが、いろんなキャラクターと絡んでいく中でリアクションや行動を正確にするために、通常よりも詰めていかないといけないのです。

くわえてイシイさんは「未来をセーブされている」ことを大切にしてプログラムを作っていると言います。

複雑なストーリーラインやシナリオを制作するうえで、ライターやディレクターが頭の中でシミュレーションするのではなく、ゲームを作りながらシミュレーションしていくことでより良い作品づくりへつながっていきます。

このシナリオを最後までプレイしてエンディングまでいったあとに、どこか選択肢を変えて、オレンジのところを変えたが、通っていない所があります。シナリオBもCも閉じていますが、選択肢上で因果律が通っているから進んでいるともいいます。

次のシナリオでは、シナリオCの2と3のあいだで選択肢をえらんだことで、Aのシナリオに影響が出ています。いきなりシナリオAが通っているわけじゃなく、シナリオCのここの選択があったからルートが開かれたというわけです。

じつはアドベンチャーゲームは30年ぐらい前につくられたシステムをそのまま使っているゲームが多く、セーブが他ルートに通らないことが多いとイシイさんはあかします。フラグを直したら、ほかのフラグを取り直さなくちゃいけない、あるいはいちど全部戻らないといけない場面がでてきます。

イシイさん自身は、アドベンチャーゲームはいちどこういった昔のシステムを捨てて、因果律的に通ったものは全てその後も反映されるというシステムで進めたほうが、シナリオはもっと深く、複雑なものが書けるのではないか?と話しました。

こうした試行錯誤のうえでたどり着いたのが、『タイムトラベラーズ』での四次元フローチャートだといいます。

シナリオA・B・Cが縦軸の上から沿って、過去から未来に向かって進みつつ、3人のキャラクターに対してメインキャラクターがタイムトラベルをしていくという形を取っています。

Aのルートを通って、BのルートからCのルートを通っていくという時間軸が1本通っていて、同じ時間帯でおこる影響だけじゃなく、「未来の選択によって過去が動く」ということが起こります。このことを指して四次元フローチャートと呼んでいます。

こうしてノベルベームを進化させ、ストーリーラインそのもののギミックを施してきたイシイさんですが、内心では「こういったゲーム性は、いまではプレイ感覚が難しすぎて受け入れられないかもしれない」と悩んでいたといいます。そんななかでノベルゲームで新しい可能性がでてきたともいいます。

『Her Story』『十三騎兵防衛圏』『Zero Escape』といったオープンワールド型アドベンチャーゲームでは、どの物語をどの順番で読んでも大丈夫というオープンな形のアドベンチャーゲームとなっています。

時間軸や場所がバラバラなストーリーを何となく集めていけば、こういうことになんじゃないか?と導かれていくような形になっています。

イシイさんは『Her Story』で最初に自覚したといいます。『十三騎兵防衛圏』『Zero Escape』もこの形に近しいと指摘し、映画などにも同じような作品があるとも話しました。

もう一つがローグライクアドベンチャーゲーム。『グノーシア』という人狼ゲームにおいて、サイコロを振ってシナリオが選ばれ、進んでいくという形をとっています。

北島さんが特にローグライクADVに可能性を感じていると話すと、イシイさんも「僕も挑戦しようと思っている」と返します。キャラクターであるプレイヤーがゲームと対峙しているなかで、ローグライクADVではプレイヤーはサイコロと対峙していると指摘。ゲーム内において、ゲームの作者、プレイヤー本人にくわえ、サイコロという3つ目の神様が介在することに面白さを見出していました。

イシイさんと北島さんは現在、『渋谷実写ADVプロジェクト』と題したプロジェクトを進行しており、4月28日から7月25日にかけてクラウドファンディングを実施。1時間少々で目標に到達するだけじゃなく、クラウドファンディング終了時には目標額1000%を達成しました。

イシイさんは、ゲームデザインやアドベンチャーゲームの先をみたい、求められているものを作りたいと考え、インディーズでの制作を選んだといいます。かつて『428 ~封鎖された渋谷で~』の舞台となった渋谷をふだたび舞台にして、今度は実写映像を用いた挑戦することになります。

群像劇アドベンチャーゲームは、選択肢分岐、ループ構造、多人数のシナリオを絡めたりと、その系譜は複雑化の一途をたどりつつもその時時で非常に大きい影響力を見せてきました。

最初期作品が発売されてから約30年が経過し、一つの選択肢で他人の選択が変わっていくのを体験させてくれるこの作品性は、より良い・面白い作品を生み出す手がかりや余地がいまも残っているのではないでしょうか。


《草野虹》

福島・いわき・ロック&インターネット育ち 草野虹

福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。

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