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昭和の終身雇用制度に真っ向から対抗!『ドラクエ3』の転職システムは、発売当時から日本経済の大転換を予言していた

『ドラクエ3』の大きな魅力である転職システム。これはファミコン版発売当時から、とても衝撃的なものでした。

ゲーム Nintendo Switch
昭和の終身雇用制度に真っ向から対抗!『ドラクエ3』の転職システムは、発売当時から日本経済の大転換を予言していた
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発売初週で82万本の売り上げを記録したHD-2D版『ドラゴンクエストIII』(以下ドラクエ3)。

この作品は、ファミコン版発売当時から常に大きな話題と共にありました。1988年2月10日の発売日には、全国の家電量販店に長蛇の列ができました。新聞各紙はこの社会現象をややセンセーショナルに報道すると同時に、優秀な記者がコンピューターゲームの可能性を予測する名記事も現れました。

この『ドラクエ3』が当時の日本人をいろいろな意味で驚かせた理由、そのひとつは「転職システム」ではないでしょうか。

終身雇用制度というものが当たり前だった時代、「転職を重ねてスキルアップする」という発想は極めて前衛的であり、同時にすぐ間近に迫っていた21世紀の光景を正確に予測するものでした。

◆「職を転々とする」ことは避けられていた

渥美清主演の映画『男はつらいよ』は、昭和を代表するシリーズ作品です。

葛飾区柴又生まれの「フーテンの寅」こと車寅次郎は、全国を旅しながらテキ屋稼業で路銀を得ています。全国のお祭りや縁日に屋台を出し、占いをしたり倒産した工場からの流れ品を売るという仕事です。「結構毛だらけ猫灰だらけ」は、寅さん得意の言い回しです。

寅さん自身は「俺は渡世人」と言い切り、テキ屋をしながら放浪する生活を「ヤクザな商売」と自覚しています。テキ屋が地域によっては地元の裏組織と関係があったことは事実ですが、「縁日で屋台を出す仕事」そのものは決して人に嫌われるものではないはず。しかし、この当時の個人事業主とは「どこかに固定の店舗・事務所を構えている人」であり、そうでない人は低く見られる傾向がありました。

「定職につかない」「職を転々とする」という言葉は、現代でもネガティブな意味で語られることがあります。

一方、寅さんが放浪していた時代の大企業には大卒直後の就職から60歳の定年まで一貫して雇用し続け、ある程度の昇進も保証する終身雇用制度というものが存在しました。どんなに能力が低くても、男性であれば年功序列で課長くらいにはなることができ、よほどのことがない限りは解雇されないという仕組みです。

終身雇用制度のある企業には、女性も勤めていました。しかし、女性は結婚すれば寿退社を避けられず、結果として会社の重役は「一貫してその企業に勤め続けた男性」で占められます。産休や育休というのも、当然ながらありません。

寅さんがまだ元気だった時代の1988年は、それが「社会の常識」でした。

◆転職したほうが強くなる!

そうした状況では、社員は例え会社内でパワーハラスメントの犠牲になったとしても、容易に転職することはできません。なぜなら、「転職する」というのは「元々いた会社の終身雇用制度を蹴った」ということであり、「訳アリ」と見なされるからです。

ただし、そんな時代にも「もっと新しくて面白い仕事がしたい!」という意欲を心の中で燃やし、大企業を飛び出した人たちもいます。そして、『ドラクエ3』の転職システムは当時の社会常識に挑戦するかのようなものでした。

それまで魔法使いとして育ってきたキャラが、レベル20になった途端に戦士へ転身してしまうこともできます。「せっかくレベル20の魔法使いになったのに、それを蹴ってなぜレベル1の戦士になりたがるんだ!?」と、『ドラクエ3』の仕組みを知らない人から言われてしまうかもしれません。しかし、ルイーダの酒場で仲間にするレベル1の戦士よりも、魔法使いの経験を経たレベル1の戦士のほうが遥かに高い基礎能力を有しています。

何より、魔法使いの時に修得した魔法は転職後も変わらず使うことができます。「攻撃魔法が使える戦士」の登場です。

◆時代が『ドラクエ3』に追いついた!

終身雇用制度の中で長年過ごしてきた社員は、「社外で得られるスキル」に関心を持つことはありませんでした。

高度経済成長期とバブル期に大輪の華を咲かせ続けた日本の大企業は、バブル崩壊後のロースコアの環境下では打開策を講じることすらできず、次々と破綻していきます。「自分たちの知らないことに興味を持たない」という役所のような体質が、巨大な閉塞感を生み出しました。

その上で、終身雇用制度の傘の下で生き続けた人々は「職を転々としてきた人間のほうがいろいろなスキルを身に着けている」ということに気づいてしまいます。

時代が『ドラクエ3』に追いついた瞬間です。

魔法使いから戦士になったキャラが、レベル40前後で僧侶に転職し、そこからまたある程度の成長を経て魔法使いに戻ります。どうせ魔法使いに戻るのなら、最初から転職するべきじゃなかった……などと言う人はいないでしょう。転職しなかった魔法使いとは違い、ここにいるのは攻撃魔法も回復魔法も使いこなし、いざとなったら肉弾戦もできる万能型魔法使いです。

この魔法使いは、魔王を倒すだけでなく「世紀末の閉塞感」をも打ち破りました。

◆「人生それぞれ」のRPG作品

筆者がとあるメディアの仕事でインタビューした会社社長は、このようなことを語っていました。

「今の時代、明確な答えというものはありません。だからこそ、自分のやりたいことを思う存分やるしかないのです」

これは21世紀の真理とも言える言葉ではないでしょうか。

『ドラクエ3』の目標は、魔王を倒して世界に平和をもたらすこと。しかし、「彼らをどのように倒すか」ということは指定されていません。4人制限のパーティーの中に武闘家を2人入れるのもいいですし、あらゆる魔法を使いこなせる賢者を2人入れても構いません。そして、一口に「武闘家」といってもそのキャラは前職によって強力な攻撃魔法を発射できるかもしれません。

やり方は人それぞれ。そして、人生も人それぞれ。そうしたことを、『ドラクエ3』は我々に教えてくれました。


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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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