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希望を失った大人たちに未来を見せた!『マリオのピクロス』が発売された激動の1995年を振り返る

1995年3月7日、ゲームボーイ Nintendo Switch Onlineにて2作品が追加。この記事ではそのうちのひとつ、『マリオのピクロス』について解説します。

ゲーム Nintendo Switch
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1995年3月7日、ゲームボーイ Nintendo Switch Onlineにて2作品が追加。この記事ではそのうちのひとつ、『マリオのピクロス』について解説します。

今ではポピュラーなパズルとして大人から子供まで夢中にさせているピクロスですが、これは1980年代後半に日本で開発された新しいパズル。そして、当初は『お絵かきロジック』という名前だったパズルが『ピクロス』とされ、それが世界的に普及するきっかけを作ったのがまさに『マリオのピクロス』だったのです。

とある国で生まれたアイディアが、ゲームを通じて世界に伝わり、人々の価値観を変えていく。日本という国そのものが岐路に立たされていた時代、『マリオのピクロス』は新しいムーブメントを生み出すことでまさに時代そのものを創出しました。

◆紙の上でできる「新しいパズル」

「紙の上に記載された問題に対して、プレイヤーがそのまま鉛筆で答えを書き込む」形のパズルは、新聞社や出版社にとってはこれ以上ないほどありがたいものでした。

紙面のどこかに空きスペースを確保できれば、そこに毎回固定のパズルコーナーを読者に提供することができます。新聞にとって、このようなちょっとした工夫は購読者を増やすために欠かせないもの。そして、紙の上に書き込むパズルの王様といえば何といってもクロスワードパズルです。

20世紀初頭に登場したクロスワードパズルは、欧米では今に至るまで「新聞パズルの定番」として君臨しています。戦前のヨーロッパが舞台の映画やドラマを見ても、登場人物が新聞のクロスワードパズルを楽しむというシーンがよく描かれます。ベネディクト・カンバーバッチ主演の映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でも、主人公のアラン・チューリングがイギリス海軍の高官に対して「僕はクロスワードパズルが得意です」と話したり、ドイツ軍の暗号を解読する作業をクロスワードパズルにたとえるシーンが出てきます。

そんなクロスワードパズルですが、出てくる答えは必ず「文章」。一方、20世紀も終わりに差しかかった頃に発明されたピクロスは図形を組み立てるパズルです。

◆「オトナ」を想定したソフト

ピクロスは、マスの集合体で構成された四角形の端に書かれた数字に従ってマスを埋めていくパズルです。

例えば、横に連なった5つのマスの端に「5」と書かれていた場合、5つのマスは全て塗り潰されます。しかし、「1 2」と書かれていた場合はどうでしょうか。5連のマスのどこかに「1つと2つ」の塗り潰しがあるということですから、考えられるパターンは複数あります。その場合は、縦の連続マスの数字を参考にします。縦横の数字それぞれに矛盾のないパターンを探り出すと、次第に絵が浮かび上がる仕組みです。

1995年3月14日にゲームボーイソフトとして発売された『マリオのピクロス』には、「オトナのパズル。」というキャッチコピーがついていました。

新聞のクロスワードパズルを待ち望むのは、子供ではなく大人です。それと同じように、『マリオのピクロス』は大人にこそ受け入れられるだろう、子供と一緒に大人も熱中するだろうという任天堂の気概がキャッチコピーに表れています。

そして、その思惑は現実の光景になりました。

◆行き場を失くした知性を受け入れた作品

1995年といえば、ゲームボーイにとっては発売から6年経った頃でもあります。

この時代、携帯ゲーム機分野には既にカラー表示が可能な製品も登場し、ゲームボーイはスペックの面での優位をだんだんと失っていました。そのような時間の流れに逆らうかのように、『マリオのピクロス』は世界合計の売上でミリオンセラーを記録するほど、大ヒットを記録しました。

なお、『マリオのピクロス』のプロデューサーは、のちに『ポケットモンスター』を手掛けた石原恒和氏です。『マリオのピクロス』のヒットがあったからこそ、『ポケットモンスター』もゲームボーイで発売され、それがゲームボーイ全体に再び大きな力を与えました。

また、1995年という時代についても考える必要があります。

この時代は、バブル崩壊以後の日本の不景気が誰の目にも明らかになり、かつての金融長者、不動産長者もその影響力を急速に失っていきました。そこへ未曽有の被害をもたらした阪神淡路大震災が発生し、日本の文明とは実は脆弱な土台の上で成り立っていたものだったと日本人が痛感せざるを得ない時がやって来ました。

それから間を置かず、オウム真理教による世界最悪の都市テロリズムである地下鉄サリン事件が発生。当時、神奈川県相模原市の橋本駅周辺に住んでいた筆者は、この時の動揺をよく覚えています。

もはやかつての常識は通用しないどころか、自分たちがもてはやしていた最高学府卒業の秀才が国そのものを破壊しようとしている。一体、誰を信じたらいいのか――。巨大な閉塞感の靄に包まれた大人たちは、行き場を失くした知性を「新しい何か」に振り分けようとしました。そのひとつが、ピクロスという名の新感覚パズルです。

◆「21世紀の心構え」を伝授

『マリオのピクロス』の全256問に上る豊富な問題は、大学を出て企業に勤める大人ですらも大いに悩ませました。クリアまでの時間制限が存在し、間違ったマスを削るとペナルティーとして時間が減っていくというルールも、難題として立ちはだかりました。

ピクロスに熱中する大人たちは、少しずつ「時代の変化」を受容していくようになります。もしかしたら、これまでがあまりにも惰性で何とかなり過ぎていたのかもしれない。人間とは本来、間違いを犯しつつも少しずつ正答をあぶり出していく動物ではないのか。このピクロスのように――

こうして『マリオのピクロス』は、20世紀末の世知辛い世の中を生きる人々に「21世紀の心構え」を啓蒙する効果も生み出したのでした。


《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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