
11月5日に発売されたバトルアクションアドベンチャーゲーム『野狗子: Slitterhead』。1990年代の歓楽街「九龍」を舞台に、人間に擬態する怪物「野狗子」と、野狗子殲滅の使命を担う謎の精神生命体「憑鬼」の戦いを体験できます。
憑鬼が味方の人間に乗り移って戦うアクションをはじめ、戦いに巻き込まれた登場人物たちのドラマなどが特徴です。インサイドでは「憑依システム」にフォーカスした記事を掲載しており、こちらも合わせてご覧ください。
そして『野狗子: Slitterhead』は、「SIREN」シリーズの生みの親である外山圭一郎氏がディレクションを務めています。その影響なのか、本作には「SIREN」シリーズを感じさせる要素がいくつも見受けられました。
そこで本稿では、『野狗子: Slitterhead』と「SIREN」シリーズに共通する魅力について考察していきます
※本稿は『野狗子: Slitterhead』のネタバレが一部含まれているのでご注意ください。
■和風サバイバルホラー「SIREN」シリーズはどんなゲーム?
「SIREN」シリーズをご存じのない方に向けて、その特徴を簡単にご紹介させていただきます。


『SIREN』は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が2003年に発売した和風サバイバルホラーゲームです。本作のヒットを受け、『SIREN 2』と『SIREN:New Translation(SIREN:NT)』が発売されました。


本シリーズは異界に取り込まれた村を舞台に、「屍人」と呼ばれる敵をかいくぐりながら村からの脱出を目指すというもの。敵の視界を借りながら攻略するゲーム性が特徴です。
土着信仰を題材にした世界観や「どうあがいても絶望」的な恐怖演出が高い評価を受け、いつしか「和風サバイバルホラーの名作」として知られるようになりました。
■視界ジャックや群像劇など「SIREN」シリーズとのつながりを感じさせる4つの要素
『野狗子: Slitterhead』をプレイしてみたところ、「SIREN」シリーズとのつながりを感じさせる要素を4点見つけました。ひとつずつ見ていきましょう。
相手の視界をのぞく行為
最初のつながりは「相手の視界を覗く行為」です。「SIREN」シリーズには、屍人の視界を覗く「視界ジャック」というゲームシステムがあります。屍人の視点を覗くことで、敵の行動パターンや謎解きのヒントを確認できるのです。これはシリーズの象徴的なシステムであるとともに、攻略の要でもあります。



一方、『野狗子: Slitterhead』には「鬼子眼(サイトジャック)」と呼ばれるゲームシステムがあります。これは人間に擬態した野狗子の視界を確認できるというもの。視界に映っている場所をもとに、人間に擬態した野狗子を見つける際に役立ちます。「SIREN」シリーズの視界ジャックとなんだか似ていますよね?

複数の人物が登場する群像劇
2つ目のつながりは「群像劇」です。「SIREN」シリーズと『野狗子: Slitterhead』のストーリーは、複数のキャラクターが織りなす群像劇で進行していきます。
『SIREN』を例にあげると、とある事情で羽生蛇村を訪れた人々と、村の居住者がプレイヤーキャラとして登場します。武器があれば戦えるキャラクターと、全く戦えないキャラクターが存在し、キャラクターによっては難易度が劇的に上がることも。
「一般人の弱さ」「等身大の一般人」をリアルに描いているためか、『SIREN』はシリーズの中で最も難しいゲームとされています。あまりに難しいため、途中で挫折してしまった方も少なくないでしょう。


一方、『野狗子: Slitterhead』は、「憑鬼」との融合で覚醒した「稀少体」がメインキャラクターとなります。俳優を目指す若い女性やミステリアスな娼婦、ゲーマー少年、元ボクサーのホームレス、高貴な老婦人など、ワケアリの一般人がほとんどです。


そんな彼らは、憑鬼と融合することで高い戦闘能力を誇るヒーローに覚醒します。少年漫画の主人公みたいで胸が熱くなりませんか?

ちなみに、『野狗子: Slitterhead』には「リサ」という女性の看護師が登場します。 『SIREN』にも「恩田理沙(おんだりさ)」という看護師姿となる女性が出てきますが、まさか……?

同じ日を繰り返す行為(タイムループ要素)
3つ目のつながりは「同じ日の繰り返し(タイムループ要素)」です。
ネタバレを含みますが、『野狗子: Slitterhead』は、途中から「過去に遡って野狗子を殲滅する」というSF的な展開に。SF作品でおなじみの「タイムループ」が大きく関わってきます。
過去に戻って一度クリアしたステージを再びプレイするわけですが、クリア条件も敵の配置も多少変化しています。同じことの繰り返しとはいえ、環境が若干変化しているため飽きずに遊べるのがいいですね。


「SIREN」シリーズもまた、一度クリアしたシナリオを再度プレイするゲーム性を採用しています。ある意味タイムループに近いと言っても良いでしょう。
同時並行で進行するキャラクターのシナリオをひとつずつ攻略していくのですが、ひとつのシナリオには「終了条件(クリア条件)」が2つ存在します。そして、両方の条件が未達成だとストーリーが進まなくなるという難しい仕様でした。


さらに言えば、終了条件は最初から2つあるわけではありません。もうひとつの条件を開放するためには、別キャラクターのシナリオでフラグを立てる必要があります。
「SIREN」シリーズのシナリオは、あるキャラクターの行い(原因)が別のキャラクターのシナリオに影響を与える(結果)という「因果律」で結ばれているのです。
そのため、もうひとつの終了条件を達成するだけでなく、フラグを成立させるために難しいシナリオをリトライするなんてこともしばしば……。特に初代の『SIREN』が難しいとされるもうひとつの理由はここにあります。

確かに『SIREN』はシリーズ屈指の激ムズゲーですが、何度も失敗を重ねながらクリアを目指す過程が面白いのです。高難度ながらも手応えのあるゲームプレイが味わえますよ。
考察の余地があるストーリー
4つ目のつながりは「考察の余地があるストーリー」です。「SIREN」シリーズで描かれるストーリーは、はっきり言って単純明快なものではありません。作中のカットシーンに加えて、作中に隠されている文献(アーカイブ)を読み漁ることで、本作の真相がわかるようになっています。
つまり、ゲームのカットシーンを見ただけでストーリー全体を把握できるわけではないということです。ゲームを遊ぶだけでなく、ゲームを考察するのも「SIREN」シリーズの醍醐味でもあります。


『野狗子: Slitterhead』は、最初は『SIREN』よりもわかりやすいストーリーだと思っていました。しかし、タイムループが発生し始めた瞬間、ストーリーのテイストが一変。物語が進むにつれて時系列がどんどん複雑になっていきます。


時系列の整理に加えて、憑鬼の秘密や野狗子が誕生した理由を考察する必要もあります。本作は考察するポイントが多いため、「SIREN」シリーズのように数々の謎をひも解いていく楽しみ方があるのです。
■まとめ
筆者が見つけた『野狗子: Slitterhead』と「SIREN」シリーズは、以上の4点となります。ゲームジャンルはどちらも異なるものの、興味深い共通点がいくつもあって驚いたものです。ファンの方は思わずニヤリとしてしまうかもしれませんね。もちろん、筆者もニヤニヤしてしまいました。
「SIREN」シリーズのつながりが気になる方は、ぜひ『野狗子: Slitterhead』をプレイしてみてください。
©2003 Sony Interactive Entertainment Inc.
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